DAWソフト上でプラグインとしても使用できるステレオ・リバーブ

LEXICONPCM96
LEXICONは、デジタル・リバーブの老舗として世界中に名を知られた存在だ。1980年代、デジタル・デバイスの発達とともに、世界各国のメーカーから百花繚乱(りょうらん)のごとくデジタル・リバーブが発売された。そんな中でLEXICONと言えば、透明感のあるリバーブでは右に出るものが無く、一歩抜き出た高価格にもかかわらず、一流のスタジオには必ず常備されていたものだ。

LEXICONのリバーブは、スタジオ用の3ケタのモデル(224XL、480L、960Lなど)と、ミュージシャンなど個人ユーザーもターゲットにしたPCMシリーズ(PCM60、70、90など)に分かれている。今回の新製品は、その型番がPCM96であることから推察できるように、PCMシリーズ最高位機種であるとともに、96kHzサンプリングに対応したものだ。

MacとのFireWire接続で
最大4chのプラグイン・リバーブに


PCM96は、ハードウェア・リバーブとしては一般的な2イン/2アウトのステレオ・モデル(入出力はアナログまたはAES/EBU)だが、内部には4ch分のエフェクト・エンジンを備えていて、2系統のステレオ・エフェクトを直列/並列で使用したり、L/Rそれぞれに異なる2基のエフェクトを直列につないだり、といったことが行える。さらに、この4ch分のエフェクト・エンジンは、本機のトピックであるプラグイン・モードでの動作時には、完全にステレオ2系統(またはモノラル4系統)として使うことができる優れものだ。FireWire経由でAPPLE Macにつなぐと、プラグイン・エフェクトとしてDAWにインサートできるという新機能は、かの名TDMプラグインLexiverb亡き後、LEXICONファンが待ち望んでいた機能に違いない。エフェクトはリバーブだけでなく、ディレイ、コーラス/フランジャー、さらには共鳴音を付加するレゾナント・コード、テスト信号を出すシグナル・ジェネレーターも装備している。とはいえ、実際の使用はどう考えてもリバーブがメインであるだろうし、メーカーも"2chリバーブレーターの最高峰"とうたっている。フロント・パネルはプロ用として好感が持てるもので、少ないツマミ類であっても直感的な操作を可能にしている。PCM70などと比較すると、非常に使いやすくなっていると言える。小窓に表示される文字も読みやすく、"高いキカイっていいなー"と素直に思える出来だ。50万円ならではの高級感は、シャーシやリア・パネルなど、随所に見て取ることができる。

M正統的なLEXICONリバーブを継承
滑らかなプレートが出色


では音質をチェックしていこう。筆者はDIGIDESIGN Pro Tools|HDを標準のDAWシステムとして使っているが、メインのリバーブは相変わらずLEXICON 224XLなので、随時これと比較しながら試聴した。まずはアナログ・イン/アウトでテスト。いわゆるスタンドアローン状態である。大ざっぱな印象としては、PCM96には正しく"正統的なLEXICONサウンド"が継承されていると言える。しかしながら、PCM70などで感じられたリバーブ音の細さや神経質な挙動は無く、実にスムーズにリバーブを施すことができる。224XLなどと比べても初期反射が細やかにコントロールされている印象で、元音に対する影響が少ない。ドラムなどにかけてみると、余分な高域のリバーブ成分が無く、非常にスッキリとした残響が得られて扱いやすい。ルーム系やホール系などで積極的に初期反射を使っている場合もあり、プログラムを変えることによって見事に音色や広がり感が変化していくさまは、さすがに高級機の貫録十分だ。出色なのはプレート系のプログラムで、実に見事な音を聴かせてくれる。4種類のプレートが用意されている上、PCM96はプリセットごとにノーマル、ダーク、ライト、さらにフィルターを加えたバンド、ノッチというバリエーションが割り当てられているため、細かなパラメーター・エディットに入らなくても望みの音色をアサインできる。どれも初期反射がうまくできていて、プレートっぽい奥行きを感じることができるし、高域が過剰にハネる(ピシャピシャした反射となる)こともない。非常に状態の良い真空管プレート・リバーブの音がするのだ。僕の知る限り、こういった滑らかなプレートのシミュレーションは224XLや480Lなどには存在しない。最近の960Lなどに搭載されているアルゴリズムに近いものなのかもしれない。あるいは同社200などからの発展形なのだろうか?印象としては200のプレートが滑らかになったような感触で、サンプリング・リバーブっぽい滑らかさと、シミュレーション・リバーブならではの音抜けの良さを両立している。一方、ルーム系は豊かな初期反射を含むプログラムで、元音に対しても積極的にかかわってくる。音像自体が奥まっていくような変化で、これはこれで使いやすい。くぐもったようなルーム・サウンドは、"いかにも"という感じがして有りがたい。またホール/チャーチ系では、滑らかなロングリバーブを実現しており、32ビット・フローティング演算の処理能力をたっぷりと使ったリッチなリバーブという感じが伝わってくる。余韻がスッと切れたり、ロング・リバーブが波打ったりという安っぽい感じは皆無なので、安心して使える。

サンプリング・レートによって
音色の使い分けも可能


ここまで読んでいただいて分かる通り、僕はもうすぐにでもPCM96を買いそうである(笑)。愛用している224XLもいつまで修理ができるのか分からないし、いつか新しいハードウェア・リバーブが欲しいと常々思っていたからだ。小型軽量、正統的LEXICONサウンド、プラグインとして使用可能......などなど、"買い"を決断するには何の問題もない機種だ。しかしながら、トピックの一つである"プラグイン・モード"で使うのは、正直言って難儀した。マニュアルを読んでもインストールの手順がよく分からないからだ。もともとこのプラグインはAudio Units/VSTで開発されたもので、Pro Toolsではインストーラーに付属しているアダプターで変換することで、RTASプラグインとして使えるようになるらしい。APPLE LogicやSTEINBERG Cubaseなどを使っている人なら簡単に設定できるのかもしれないが、Pro Toolsではその変換用インストーラーを後から起動するという一手間かかる。これも試してみて分かったことで、"プラグ&プレイ"というにはほど遠い状態だった。ちなみに筆者の環境はAPPLE Mac Pro+Mac OS X 10.4.10(英語で使用)+Pro Tools|HD 7.3.1で、PCM96の付属CD-ROM収録のバージョンではうまく動作しなかったが、最新版のソフトウェア(Ver. 1.3.0.0)をWebサイト(www.lexiconpro.com)で入手してインストールしてみると、安定して動作し始めた。僕のようにPro Toolsと組み合わせて使いたいという人も多いだろうから、簡単なもので構わないので、インストール・ガイドもパッケージに同封してほしいところだ。プラグイン・モードでの具体的な使用手順は、まずFireWireでPCM96とMacを接続しておく。そしてPCM96の電源を入れ、システムの読み込みが終わった時点でMacを立ち上げる。これでDAWソフト(筆者の場合はPro Tools)を立ち上げれば、プラグインのリストの中にPCM96があるはずだ。こうしたプラグインは"PCM96 Chamber"などアルゴリズムごとに異なるプラグインとしてリストに表れるので、この時点でChamber/Plate/Hallなどを選択しなければならない。こうして立ち上げると、一般的なプラグイン・エフェクトと同じようにコントロール画面が現れる(画面①)。このときPCM96本体のディスプレイには"Application Lockout"と表示され、フロント・パネルでの一切のコントロールが不可能になる。一方プラグイン画面では、すべてのパラメーターが変更可能だが、プリセットを選んでリバーブ・タイムを変更する程度で望みの結果が得られるだろう。ちなみにPro Toolsで使用した際、PCM96をインサートしたトラックには2,924サンプルの遅延があったことも記しておく。音質的にはアナログ入出力で使った方がパワフルであり、いかにもLEXICONのハードウェア的な、存在感のある音が得られる。一方、プラグイン・モードでは2系統のステレオ・エフェクトが使えるし、リコールもオートマチックなので、どちらで使うかは悩ましいところだ。そんなときのために(?)、プラグインからPCM96のコントロールだけを行うモードも用意されている。この設定は、Mac OS Xの"システム環境設定"の中にPCM 96 Configuratorというアイコンが加わるので、それをクリックすると設定画面が立ち上がる(画面②)。また、スタンドアローンで使っているとき、内部動作のサンプリング周波数が切り替えられるのだが、48kHzと96kHzではかなりサウンドが変化したこともお伝えしておく(44.1/88.2kHzにも対応している)。ハイサンプリングの96kHzでは、非常に滑らかなリバーブ音となるが、存在感という意味では48kHzの方が上回っているように感じた。好みで選べば良いと思うし、奥が深く、使いこなすのが楽しみであるとも言える。DAW全盛の折、プラグインとは比較にならないほどの高価格で登場したPCM96だが、やはり価格なりの意味があると言える。リバーブらしいリバーブとは、こういうもののことを言うのだろう。これからの標準機となる資質を持っていると思う。PCMシリーズではあるものの、プロが使えるリバーブとして、小規模なスタジオやエンジニア個人も導入を検討してみてほしいと感じた。