AU/VSTインストとしても使える192kHz対応のシンセ・モジュール

ACCESSVirus TI Desktop

ドイツACCESS社については割と新しめのヨーロッパの高級シンセ・メーカーと認識していましたが、使用するのは今回が初めて。バーチャル・アナログ・シンセの新シリーズ“Virus TI”には37鍵仕様のVirus TI Polarと61鍵盤仕様のVirus TI Keyboard、デスクトップ/ラック・マウント型のVirus TI Desktopがリリースされたのですが、今回はVirus TI De sktopをチェックしていきます。

24ビット/192kHz対応の
デジタル出力まで搭載


近年、ソフト・シンセのクオリティもかなり良くなってきましたが、異なったソフト・シンセでも同じオーディオI/Oから出力するとどうしてもI/Oのカラーに染まってしまいがちです。その点ハードは独立した出力を持ち、ソフト・シンセに混ぜても圧倒的な存在感が出せます。これは価格にかかわらず独立した出力を持つものに共通した利点です(僕の環境では音源のハード/ソフトの割合はほぼ半々ですが、独立したアナログ出力を持つものはそれを使用することが多い)。本機は通常のシンセ・モジュールとして使用する以外にも、コンピューターとやUSB接続することでソフト・シンセのような感覚でVST/Audio Unitsインストゥルメントとして使用できるので、どんなシステムにも導入しやすいでしょう。さらに、24ビット/192kHzのデジタル出力を搭載。個人的には24ビット/192kHz対応シンセの試聴は初めてなので出音にはとても期待しています。そのほかのVirus TIシリーズのトピックを紹介すると、2種類のオシレーターの新搭載が挙げられます。波形をブレンドしてモーションが生み出せるWavetable、2つのオシレーターを最大9つまで(サブを含め最大36)の鋸歯状波を組み合わせられるHyperSawの新搭載は音の厚さを意識したのでしょう。ボイス数も従来のVirusシリーズよりも増加し、平均的な使用環境で80ボイスというのは十分過ぎるスペックだと思います。

ドイツを連想させるシンセ音で
シンセのフレーズ制作にも最適


では、実際に試していきます。まず、電源を入れると光る白色のLEDがとても印象的。近年、使用できるLEDの色が増えており、このような小さな部分もモチベーションを上げる大切な要素です。本体のパラメーターの配置も分かりやすく、簡単なアナログ・シンセの構造を理解していれば感覚的に音作りができると思います。早速、音を出してみると、フィルターの効きは申し分ありません。何となくツマミを触っているだけでどんどん音が変化するので、気分も上がります。24ビット/192kHz対応だけあって音質は非常に良く、音にブレが無く位置がハッキリしています。音色の違いによる不自然な音の位置のブレを全く感じません。今まで僕が使用してきた音源と決定的に異なるのは“音の位置”です。サウンド・キャラクターは“粗く厚みのある”OBERH EIM Xpanderなどを連想させます。ただ、全体を支配するのはやはりドイツ的シンセ音。プリセットも生楽器のシュミレーションはほとんど無く、非常にドイツ的なものが多いと思います。なお、本機はMIDIコントローラーとしても機能します。32個のツマミに個別のMIDIパラメーターにアサインでき、本来の用途でもあるシンセ類のコントローラーとしてストレスなく使用できるでしょう。

USB接続でCPU負荷を気にせず
高品位なサウンドを堪能できる


続いて、VST/Audio Unitsインストゥルメントとして使用してみます。システム内でのトータルリコールやグラフィック・エディターなどはUSB接続の際に使用できる機能で、プラグイン・エフェクトを直接かけたいときにも非常に便利です。サウンドは良くできたソフト・シンセ風ですが、もちろん同時発音数などによるCPUへの負担はありません。オーディオ・インターフェースから出力した場合と、ハードからの直接出力の場合とでは若干キャラクターは異なるものの独特の“音の位置感”はあまり変わりません。USB接続で簡単にソフト・シンセ的に使えるのは外部ミキサーを使わないユーザーにとって非常に便利です。本機にはほかのシンセと同様に外部入力が存在。これはシンセのオシレーターの代わりに外部音源を使用するためのものですが、実は従来のハード・シンセ(アナログも含む)のエクスターナル・インにはあまり良い印象がありませんでした。通しただけで音が貧弱になるもが多く、あまり期待せずに試したのですが、かなり良い結果が得られました。内部オシレーター使用時とフィルターの効きに大きな差はなく、単にフィルター・マシンとしても非常に優秀だと言えると思います。いろいろ試して思ったのは、本機はアルペジエイターやシーケンサーなどを使ったシンセのフレーズ制作に適していること。音色を選んでエディットし、アルペジエイターでパターンを作りツマミで変化させることを何度も試しましたが、クオリティの高いシーケンスを作ることができました。最後に総評を書くと“クオリティは非常に素晴らしい”。本機のような単一機能の機材は好感が持てます。ただし、価格が200,000円くらいになれば手が届きやすいのに、とは思います。ちなみに自分のシステムに組み込むなら白いボティーのTI Polarが良いなあと。ハード・シンセが明らかに進化していることを実感しました。

▲リア・パネル。左からヘッドフォン端子、電源コネクター、アナログ出力(TSフォーン)×3系統、アナログ入力(TSフォーン)×1系統、デジタル入出力(S/P DIFコアキシャル)、MIDI THRU/OUT/IN、USB端子

ACCESS
Virus TI Desktop
オープンプライス(市場予想価格/294,000円前後)

SPECIFICATIONS

■最大同時発音数/80(Under average load)
■オシレーター/4基(3+Sub)
■フィルター/2基
■LFO/3基
■エフェクター/2セクション(5タイプ)
■DAコンバーター/24ビット、192kHz
■対応オーディオ・ドライバー/ASIO/Core Audio
■外形寸法/470(W)×80(H)×188(D)mm
■重量/3.6kg
■付属品/ラック・マウント・キット、USBケーブル