大ヒット作NT2を凌駕するRODEコンデンサー・マイクの新世代標準機

RODENT2000
オーストラリアのプロ・オーディオ・メーカーRODEは、1990年にコンデンサー・マイクNT2をリリースして以降、この10年あまりで適確な高品質スタジオ機器を供給し続ける屈指のメーカーとしての地位を確立しました。特にNT2は、ラージ・ダイアフラムのコンデンサー型で10万円を切る価格と、そのサウンド・クオリティでプロ/アマ問わず一世風靡し、“高品質・低価格マイク”という世界的な市場を切り開いたと言えるでしょう。それから14年、後継機として開発されたNT2000は、スペックを見るだけでも確実に進化しているようです。早速チェックしてみようと思います。

本体ボディに連続可変の
指向性/ローカット/PADを装備

箱を開けると、持ち運びに便利な軽い樹脂成形ケースの中に、マイク本体とショックマウントが収納されています。外観は最近のRODEマイクのフォルムによく見られる感じで、ニッケル処理された真鍮製の重厚なボディや、二重になっているウィンド・スクリーンなどの堅実な加工を見ると、実際は手ごろな価格なのにそれを想像させません。また正面中央には指向性(無指向〜単一指向〜双指向)、ローカット・フィルター(20〜150Hz)、PAD(0〜−10dB)の大型円型ポッドが用意されています。これらはすべて無段階の連続可変で、視認性も取り回しも良好です。また、指向性は12時の位置にクリックが付いていて、的確に単一指向の設定ができます。

核となるダイアフラムは、厚さ5ミクロンのマイラー樹脂フィルムに、従来の工法より付着力の強い膜ができるスパッター方式を用いて24金薄膜を形成。それを手作業で調整・組み込んだ1インチ(25mm)のHF1型デュアル・ダイアフラム・カプセルが採用されているそうです。

増幅部は、低雑音FET回路による両面基板で構成。出力コネクター(XLR)には、金メッキ表面処理が施されています。付属のショックマウントは黒色ポリマー製で、マイク下部のネジでしっかりとショックマウント内枠にマイクを固定できます。また、ショックマウントに備えられた角度調整ネジのハンドルは長く、少しの力でも的確に固定できます。セッティング中にハンドルが外枠に接触することもあるのですが、ハンドルの角度を変更できるので、問題となることはありません。

豊潤な低域とシルキーな高域
1ケタ上の価格帯のマイクと並ぶ音質

では実際に音を聴いてみようと思います。今回は友人のプライベート・スタジオにて、女性ボーカルとアコギで、NT2との比較試聴を行いました。まず、ショックマウント自体の信頼性が向上し、安心してセッティングができ、スタンドに装着したままでのケーブルの抜き挿しも容易です。ただし本体が多少重いので、しっかりとしたスタンドが必要です。

第一印象はNT2とは全く別物。本機には1ケタ上の価格帯のマイクと同等のサウンドとムードを感じます。豊潤な低域とシルキーな高域を持ち、情報量も多く、偶数倍音が加味されたような1960〜70年代の真空管マイクのようなサウンド・キャラクターです。音源に対しての反応も良好で、ダンピングにも優れていることから、ダイアフラムが繊細かつ敏感に反応していることがうかがえます。また増幅部も進化しており、残留ノイズの低下やサウンド・クオリティ、ダイナミック・レンジの向上などの部分で、ダイアフラムの特性・性能を後押ししています。

具体的なサウンドは、ボーカルではシビランスと高域の倍音とがはっきり区別され、音程による音像の上下がよく見えます。アコギでは各弦が団子状態にならず、1弦1弦何を弾いているかがはっきり分離して聴こえます。そしてボーカル/アコギとも、音像・存在感が3次元的に大きく聴こえ、表現力にも富み、音源を生き生きと提示します。リバーブやディレイなどの乗りやダイナミクス系エフェクトのかかりも良好で、的確に録音しておけば後処理もすこぶる簡明になるでしょう。

また、本機ならではの使用法も考えられます。例えば、指向性切り替えが連続可変で動作することを生かして、無指向と単一指向の間の10時くらいの位置でワイド・カーディオイドとしての活用が考えられるでしょう。また、既存のマイクではローカット・フィルターのカットオフ周波数が固定されているものが多いのですが、本機はこれも無段階で変更できるので、外付けのEQなどを使用せず適切なカットオフ周波数を設定できます。さらにPADも連続可変なので、ステップ・ゲイン入力式のマイクプリ使用時に、インプット・レベルを細かく調整するのに重宝しそうです。これらの機能を駆使すれば、余計なアウトボードを経由せずに、マイク本体のみで目的のサウンドを容易に獲得できるでしょう。

この価格帯で連続可変の指向性切り替え、ローカット・フィルター、PADを搭載したことも画期的ですが、私個人としては、1ケタ上の価格帯のマイクと肩を並べるサウンド・クオリティ、新たな技術による工業製品としての堅実・明確な作りが最大の魅力だと思います。今回のレビューで、NT2の登場と同等か、あるいはそれ以上の衝撃を体感しましたし、RODEはこのカテゴリーでのターニング・ポイントとなる製品を再び世に送り出したと感じました。もしこの価格帯でコンデンサー・マイクを購入する予定があるなら迷わずこのマイクを選択すべきだと思います。本機は期待を裏切らないサウンドとオールマイティな用途を提供してくれる、新たな基準となるマイクとして活躍してくれるはずです。

RODE
NT2000
50,000円

SPECIFICATIONS

■周波数特性/20Hz〜20kHz
■出力インピーダンス/200Ω
■感度/−36dB(1V/Pa)、16mV@94dB SPL、±2dB
■ノイズ/7dBA SPL
■最大出力/+15dBu(@THD=1%、1kΩ)
■ダイナミック・レンジ/136dB
■最大SPL/147dB(@THD=1%、1kΩ、PAD未使用)
■SN比/84dB(1kHz/1pa)
■対応電圧/48V
■外形寸法/60.5(φ)×230(H)mm
■重量/834g(本体)