WAVES Clarity Vx/Vx Pro レビュー:機械学習テクノロジーを利用した声専用ノイズ・リダクション・プラグイン

Clarity Vx Pro

 WAVESから声の処理に特化したリアルタイム・ノイズ・リダクション・ツール、Clarity VxとClarity Vx Proが発売されました。Waves Neural Networksテクノロジーというマシン・ラーニングを元にしたエンジンを搭載していて、リアルタイムで声とアンビエンスを分離させ、そのバランスを変えられるプラグインです。近年、こういったノイズ・リダクション・ツールは大幅な進化を遂げ、ポスプロ作業にはなくてはならない存在になっています。そんな中、満を持して登場したClarity Vx/Vx Proを早速試していきましょう。

ノブを回すだけの簡単操作でバックグラウンド・ノイズを軽減できる

 WAVESは以前からX-NoiseやZ-Noise、そしてNS1やWNSといったノイズ・リダクション・ツールを提供してきており、筆者もX-Noiseには大変お世話になりました。当時はX-Noiseがあることで、同録などの整音作業がとても楽になったのを覚えています。

 今回リリースされたリダクション・ツールはClarity VxとClarity Vx Proという2モデルがありますが、前者が簡易操作に特化したもので、後者はより機能性を高めたものになっています。まずはClarity Vxから見ていきましょう。ユーザー・インターフェースはとてもシンプルで、基本的には真ん中の大きなコントロール・ノブを回すだけです。早速、以前作業した同録のファイルで試してみました。バックグラウンド・ノイズが多い中での同録インタビュー素材ですが、コントロール・ノブを回していくと、あっという間にバックグラウンド・ノイズが消えていきます。

シンプルな操作体系になっているClarity Vx。細かな設定はできないが、エンジンはClarity Vx Proと同様にWaves Neural Networksを使っており、ノブを回すだけで簡単にノイズを除去することが可能だ。Clarity Vx ProにはClarity Vxも同梱されている

シンプルな操作体系になっているClari ty Vx。細かな設定はできないが、エンジンはClari ty Vx Proと同様にWaves Neural Networksを使っており、ノブを回すだけで簡単にノイズを除去することが可能だ。Clarity Vx ProにはClarity Vxも同梱されている

 パラメーターでは、Waves Neural Networksのタイプの選択(Broad 1/Broad 2)、L/Rで同じ処理をするのか別々の処理をするのかの選択が行えます。これらは素材の状況に応じて選択するという感じでしょうか。ステレオ素材ではステレオ・イメージのコントロールも可能です。パラメーターはこれだけなので本当にシンプル。ノイズの状況がそれほどひどくない場合には、ノブを回すだけでほとんど事足りてしまう感じです。また、ノブをフルに回し切っても、声の成分への影響は比較的少なく感じました。今までのノイズ除去系プラグインと比べると、処理能力は格段に高く感じられます。

ノイズから音声を取り除くことができるアンビエンス・キーピング機能

 次にClarity Vx Pro(ページ冒頭のメイン画像)を試してみます。素材の状態がかなり悪い場合、Clarity Vxでは納得できる音までなかなか詰められませんでしたが、そういう状況でClarity Vx Proではどこまで簡単に、そして柔軟に処理ができるかというポイントを見ていきました。

 Waves Neural Networksのエンジンで処理するのはClarity VxもClarity Vx Proも同じですが、Clarity Vx Proでは中央のノブを左側に回していくとアンビエンス・キーピング機能というものが働き、ノイズから音声を取り除くことができるのです。つまり、単純に除去するだけでなく音声とノイズのバランスを変えることができます。

Clarity Vx Proでは、除去だけでなく声とノイズのバランスを変えることが可能。中央のノブを左に回すとバックグラウンド・ノイズ、右に回すと声のレベルが上がる

Clarity Vx Proでは、除去だけでなく声とノイズのバランスを変えることが可能。中央のノブを左に回すとバックグラウンド・ノイズ、右に回すと声のレベルが上がる

 画面下部のADVANCED CONTROLSボタンを押すと、幾つかの新たなパラメーターが現れます。その中でも特に有用性が高く感じられたのは、帯域を任意のポイントで4分割して個別にコントロール&モニターできる機能です。これにより素材の状況を判断しやすくなり、帯域ごとにかかり具合を調整できるため、強めにリダクションをしても音声自体への影響が少なく済みます。

 そしてもう一つのパラメーター、REFLECTIONSも有効だと感じました。通常、リダクションを強くかけていくと、言葉尻などにもともと含まれていた残響成分が無くなってしまい、とても不自然になることがありますが、この機能を使うともともとあった残響成分を自然に付加してくれます。ただ、ノイズ成分が多い素材だとノイズも若干乗ってしまうので注意が必要です。ほかには、入力信号のSN比の程度によって感度を変えられるSENSITIVITYや、どの程度アンビエンスを残すかをコントロールするAMBIENCE GATEもあり、素材の状態やどういう結果にしたいかによって細かな調整が可能です。

 いろいろな素材で試してみましたが、ノイズ成分を軽減させるなどの通常の使い方以外にも活用できると感じました。例えば、同録やサウンド・ロケ音に不要な人の声が入ってしまった場合などで、簡単に声を目立たなくすることができるのはClarity Vx Proならではです。音声に対するアンビエンス・ノイズの問題が生じたら、Clarity Vxをトラックに挿し、まずは何も考えずにノブを右側に回していくことをお勧めします。大体のことはそれで解決すると思いますが、思った結果が得られないときにはClarity Vx ProのADVANCED CONTROLSで細かく設定を追い込んでみてください。もちろん極端な設定をすると、ノイズが聴こえなくなる代わりに音声への影響は少なからず出てしまいますが、通常の使い方であれば音声への影響は少ない状態で問題を簡単に改善することができるでしょう。Clarity Vx/Vx Proの登場で、スピードが要求されるポスプロ整音作業にとても頼もしい仲間が増えたことに間違いありません。

 

山本雅之
【Profile】 エス・シー・アライアンス サウンドクラフト ライブデザイン社スタジオセクション所属のエンジニア。フォーマットにとらわれないマルチチャンネルの映像作品などの録音/ミックスを手掛けている。

 

WAVES Clarity Vx/Vx Pro

Clarity Vx:19,030円、Clarity Vx Pro:101,970円

WAVES Clarity Vx/Vx Pro

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14.6、10.15.7、11.6.2、12.1、INTEL I3/I5/I7/I9/XeonまたはApple Siliconのプロセッサー、AAX/AU/Audiosuite/VST/VST3に準拠
▪Windows:Windows 10、INTEL I3/I5/I7/I9(Gen 6以降)またはAMD Ryzen 9、AAX/Audiosuite/VST/VST3に準拠
▪共通:8GB以上のRAM(16GB以上を推奨)、16GB以上の空きディスク容量、1,024×768以上のディスプレイ解像度(1,280×1,024または1,600×1,024を推奨)

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