INSPIRED ACOUSTICS Inspirata レビュー:多様な空間をバーチャルで再現できるイマーシブ・リバーブ・プラグイン

INSPIRED ACOUSTICS Inspirata レビュー:多様な空間をバーチャルで再現できるイマーシブ・リバーブ・プラグイン

 Inspirataは世界中のコンサート・ホールなどの残響データを基に、音響/残響空間をデザインできるリバーブ・プラグインです。上位版はDolby Atmosを含むサラウンドをサポートしており、まさに次世代のリバーブと言えるのではないでしょうか。詳しく見ていきましょう。

193GBに及ぶルーム・ライブラリーは変更もストレス無く行える

 開発したのはハンガリーに拠点を置くINSPIRED ACOUSTICS。音響とメディア・テクノロジーに特化し、今までの研究で蓄積された空間データに基づきソフトウェア制作を行っているのが特徴です。リバーブはサウンド制作において大事な要素の一つ。そして残響マニアの人たちにとっては永遠のテーマと言えるほど奥が深いので、“音響コンサルタントの専門家が長年使用していたツールや測定値に基づいたデータ”と聞くと期待が高まります。

 Inspirataはソフトウェアと一緒にリバーブ・ライブラリーの“ルーム・コンテンツ”をインストールします。ステレオ専用で12GBのコンテンツを持つLite、パラメーターを増やし193GBのライブラリーを持つPersonal、Dolby Atmosを含むサラウンド対応のProfessional、そして近日発売予定のImmersiveという4つのエディションがあります。各リバーブはブラウザーから空間を選択するか、Vocals/Strings/Guitar/Percussionといったカテゴリーに分けられたファクトリー・プリセットを選ぶことが可能。コンサート・ホールや教会といった定番から、洞窟やプール、さらにはバスルームまで、さまざまな響きが49種類も用意されています。サンプリングした環境の画像と情報、プリセット・ネームとともにリバーブ・タイム(RT)の表記もあるのは分かりやすいです。例えば、世界最高峰オーケストラの本拠地であるBerliner Philharmonie(RT=2.08s)、自宅のBedroom(RT=0.44s)というように、即座に響きをイメージできるようになっています。

収録されているルーム・ライブラリーは、その空間の写真と共に閲覧できる。その空間のカテゴリーがアイコンで表され、リバーブ・タイムの長さも表示されるので便利だ

収録されているルーム・ライブラリーは、その空間の写真と共に閲覧できる。その空間のカテゴリーがアイコンで表され、リバーブ・タイムの長さも表示されるので便利だ

 僕のチェック環境(APPLE MacBook Pro 16インチ/2.6GHz)では、ルームの変更は全くストレスが無く、音を鳴らしながらサクサク選択できてあっという間にライブラリーを聴き終えました。中でも印象的だったのは、ハンガリーのVotive Church of Szeged(セゲド奉納教会)。非常に長い残響(RT=6.89s)で、全く濁りの無いまさに天上の素晴らしい響きです。ブダペストやその近隣諸国のサンプリング・データが多いのは、きっと開発地がハンガリーであるからでしょう。中でもブダペスト空港のSkyCourtやAirport Passenger Hall、Cafeteriaなど、空港内の環境に富んでおり面白いです。「ミュージック・フォー・エアポーツ」的な世界の空港ライブラリーも期待したいところですが、ニッチ過ぎますね(笑)。

音源とリスナーの位置をコントロール 視覚と聴覚による直感的な操作性

 Inspirataの特徴の一つとして、ソースとなる音源とリスナーの距離感を視覚的にコントロールできることが挙げられます。画面上部からFINETUNEタブに入ると空間ごとのロケーションが表示され、ソースに対してリスナーを近付けると原音が明確になり、遠ざけると距離感に合わせて自動的に制御されたリバーブ成分が響きます。視覚と聴覚による操作は極めてシンプルかつ直感的で、これを知ってしまうと数値だけのパラメーター・エディットには戻れないと言えるほど操作性が良いです。ソースごとの配置を広げる/狭めることによってL/Rの聴こえ方に変化が生まれるので、壁際に配置するなど自由に場所を変えて響きを試してみましょう。

FINETUNEというタブに切り替えると、サウンド・ソースとリスニング・ポイントの位置関係をドラッグして直感的にパンニングができる。各ソースのゲインやステレオ幅などは右側のパラメーターから操作可能だ。リスニング・ポイントの指向性や出力チャンネル数の変更も行える

FINETUNEというタブに切り替えると、サウンド・ソースとリスニング・ポイントの位置関係をドラッグして直感的にパンニングができる。各ソースのゲインやステレオ幅などは右側のパラメーターから操作可能だ。リスニング・ポイントの指向性や出力チャンネル数の変更も行える

 マイク(リスニング・ポイント)の指向性を変えることもでき、スピーカーのセットアップではモノラルからステレオ、さらには後方まで広げることができました。最上位のImmersive Editionでは最大22.2chまで対応可能です。リバーブで包み込む効果なども簡単に作り出せるので、音量とパン・コントロールだけでは不可能な、奥行きのあるパッドやクワイヤなどの音作りに有効でしょう。また右側のエディット画面でドライ/ウェット・バランスなどに加え、ハイ/ローカットも内蔵されているので、チャーチ系などの低域が溜まるような空間残響の調整に効果を発揮します。

 豊富なルーム・ライブラリーと多チャンネルに対応するInspirata。ポストプロダクションはもちろん、響きからインスピレーションを受けて作曲する逆説的なアンビエント作品にも活用できるでしょう。容量は大きいですが、操作性の優れた唯一無二と言えるリバーブ・プラグインです。

 

鈴木光人
【Profile】スクウェア・エニックス所属の作曲家。『ファイナルファンタジー VII リメイク』などのゲームのみならず、TVアニメの楽曲や舞台音楽の制作など、多方面で才能を発揮している。

 

INSPIRED ACOUSTICS Inspirata

11,900円/Lite Edition、24,900円/Personal Edition、72,900円/Professional Edition

INSPIRED ACOUSTICS Inspirata

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.11以降、AAX/AU/VST3に準拠
▪Windows:Windows 10以降、AAX/VST3に準拠
▪共通:INTEL Core I5以上のプロセッサー(Lite/Personal Edition)、Core I7以上のプロセッサー(Professional/Immersive Edition)、4GB以上のRAMと12GB以上の空きディスク容量(Lite Edition)、4GB以上のRAMと193GB以上の空きディスク容量(Personal Edition)、8GB以上のRAMと193GBの空きディスク容量(Professional/Immersive Edition)

製品情報