「WARM AUDIO WA-67」製品レビュー:K67カプセルの特性を踏襲して名機を再現したコンデンサー・マイク

NEUMANN U67の再現を狙ったWARM AUDIO WA-67が発売

 このコーナーではすっかりおなじみWARM AUDIO。クオリティの高いビンテージ・クローン機器をリーズナブルな価格でリリースし続けている……ということで、その人気の高さも納得である。今回紹介するのは“ザ・真空管マイク”として名高いNEUMANN U67の再現を狙ったWARM AUDIO WA-67。4月号で筆者がレビューした同社のWA-87 R2Bとの比較も交えながらその実態に迫ってみることにしよう。

真空管にはEL86五極管を使用
オリジナルを忠実にトレースした設計

 NEUMANN U67は1960〜71年に販売された世界的に有名な真空管マイク。基本性能の高さ、多機能さに加え、何よりもその音色のおかげでクラシック・ロック黎明(れいめい)期から現代に至るまでレコーディング業界において圧倒的支持を得ているレジェンドだ。

 

 生産完了から47年を経た2018年、本家NEUMANNがU 67 Setとしてラインナップに復活させたのも記憶に新しい。どんなソースにも対応できる万能マイクではあるのだが、真骨頂はやはりボーカル。声の核となる中域の表現力がなんとも見事で、その存在感や説得力をとらえる能力から、50年もの間、ボーカル録音で選ばれる筆頭のマイクである。

 

 そのU67をできるだけ忠実に再現するWARM AUDIOのこだわりは半端ではない。音の入り口であるカプセルはU67で使われていたK67カプセルの周波数特性を踏襲している。ユニットをすべて真ちゅう製にし、心臓部である真空管にEL86五極管を使用するなど、徹底してオリジナルを忠実にトレース。さらなる完成度を求め、WIMAおよびSOLEN製のコンデンサー、LUNDAHL製のトランス、GOTHAM AUDIO製のケーブルなど各分野のスペシャリストを惜しむことなく採用している。

 

 U67やU87より一回り大きいサイズ感となっており、指向性の切り替え、ローカット、−10dB PADという各スイッチのレイアウトはWA-87 R2Bと同一だ。本体以外にもショック・マウント、ハード・マウント、木製マイク・ケース、電源モジュール、7ピンXLRケーブルが付属しており、それらを収納できるフライト・ケースも別売りで用意されている。

背面左側にローカット・フィルター・スイッチ、右側に-10dBのPADスイッチを搭載

背面左側にローカット・フィルター・スイッチ、右側に-10dBのPADスイッチを搭載 *

木製マイク・ケース、ショック・マウント、ハード・マウント、専用の電源モジュールと7ピンXLRケーブルが付属

アコースティック・ギターの胴鳴りをとらえる
低域から中低域にかけて充実した豊かなサウンド

 実際の音色チェックは女性ボーカルから行ってみた。ハイトーンで押しの強い彼女の声質には、中域の張りを柔らかく受け止めつつ高域の伸びも得ようという目的で、最近はSONY C-100をチョイスしている。今回はWA-67を加えた2本立てで比較してみた。一聴して気付くのがWA-67の太さ。低域から中低域の充実度が顕著で、なんともふくよかなサウンドだ。U67クローンということで中域の押しが強いのでは?と勝手に想像していたのだが、ピーキーさも、ギラつきも感じられず落ち着きのある甘い歌声が得られた。アタックの強い発声に対しても耳当たり良く受け止めるトランジェントに真空管らしさを垣間見られた。

 

 音色は決して悪くはなかったのだが、190BPMというイケイケな曲の中で低めのAメロからハイトーンのサビまでを網羅する必要があったので、結果的に採用は見送った。バラードなど、より艶やかさを求められる曲であればその能力を発揮できたと思う。

 

 次にアコースティック・ギター。WA-87 R2Bのときと同一の楽器&セッティングで収録し聴き比べてみる。やはり低域の充実度が印象的で、50〜70Hzをしっかり拾っているので全体に重みのある音像。さらに300〜400Hz辺りの厚みも加わって、アコースティック・ギターの胴鳴りをしっかりとらえている。これらはWA-87 R2Bには見られなかった特性だ。

 

 高域に注目すると、チリチリと耳障りになりがちな7kHz辺りは抑えられており、さらに10kHzくらいからなだらかにロールオフしているので、ややおとなしい印象を受ける。WA-87R2Bも嫌味なギラつきが抑えられたマイクだったが、WA-67に比べると中高域のピーク感を持っており、よりタイトな傾向だった。ソリッド・ステートと真空管に対する漠然としたイメージ通りの違い……と言えば分かりやすいだろうか。WA-67はどこまでもウォームで、しっとりしたベルベット・サウンドが最大の特徴なのだと感じた。

 

 ビンテージのU67は日本に100本近く存在するが、個体差が激しくその音色にはバラつきがあり、音源との相性を判断しながら使っているのが実状だ。真空管マイクに対するイメージは千差万別。太く、つややかで滑らかな音像を求めるのであれば、WA-67は十分その役目を担ってくれるだろう。

 

林憲一
【Profile】ビクタースタジオでサザンオールスターズなどの音源制作 に携わった後、フリーランスのレコーディング・エンジニアに。近年は miwaや石崎ひゅーい、DISH//、村松崇継らの作品を手掛けている。

 

WARM AUDIO WA-67

オープン・プライス

(市場予想価格:105,800円前後)

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SPECIFICATIONS
▪指向性:カーディオイド/オムニ/フィギュア8 ▪スイッチ:ローカット・フィルター、−10dB PAD ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪出力インピーダンス:200Ω ▪等価ノイズ・レベル:17dB(A-Weighted) ▪最大音圧:138dB SPL(0.5% THD) ▪SN比:78dB(A-Weighted) ▪外径寸法:約240(H)× 約65(φ)mm(実測値) ▪重量:858g(本体/実測値) ▪付属品:木製ケース、ショック・マウント、ハード・マウント、電源モジュール、7ピンXLRケーブル