「TC ELECTRONIC PEQ 3000-DT / DYN 3000-DT」製品レビュー:MIDASのPA卓に基づくEQとダイナミクス・プラグイン&コントローラー

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PEQ 3000-DT プラグイン&PEQ 3000-DTコントローラー(写真上段)、DYN 3000-DTプラグイン&DYN 3000-DTコントローラー(同下段)

 

 TC ELECTRONICが、PAコンソールで有名なMIDAS Heritage 3000に基づくEQプラグイン&コントローラーのPEQ 3000-DT(以下、PEQ)と、コンプ/ゲート・プラグイン&コントローラーのDYN 3000-DT(以下、DYN)を発売。早速見てみましょう。

12バンド・パラメトリックEQのPEQ 3000-DT
位相ズレを調整できるPHASEセクション

 PEQとDYNはMac/Windowsに対応し、AAX/AU/VST2.4/VST3プラグインとしてDAW内で動作。両者とも、プラグイン画面の最上段にはMIDASのロゴとそのイメージ・カラーであるブルーがデザインされています。

 

 PEQプラグインは12バンドのパラメトリックEQで、ローカット/ローシェルフ/ベル/ハイシェルフ/ハイカットといった5つのEQモードを装備。画面下部の左側にあるセクションではこれらの切り替えが行え、いずれのモードでも周波数帯域は2Hz〜22kHz、ゲインは±16dBで調整できます。

 

 ローカット/ハイカット・モードでは、フィルター・スロープを6/12/24dB/octの3つから選択可能。またローシェルフ/ハイシェルフ・モードでは、それぞれ3つのシェルビング・タイプを選べます。なお、ベル・モードではQ幅を0.10〜5.30octで調整可能です。

 

 画面下部の右側にはGLOBAL/PHASEセクションを搭載。GLOBALセクションではステレオとモノ、MidとSide、LとRの切り替えや、マスター・ゲインの調整などが行えます。PHASEセクションはPEQの大きなポイント。理由は後述しますが、処理する周波数帯域をLOW/HIGHで使い分けるFREQ機能や、位相を0〜90°または0〜180°の範囲で連続調整できるRANGE機能を備えています。

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PEQ 3000-DTのPHASEセクション。処理する周波数帯域別で使い分けるFREQ機能や、位相調整ができるRANGE機能を備えている

 アナライザーは、周波数レスポンスをリアルタイムで表すピーク・カーブと、音量の平均値を表すRMSカーブの2種類を有し、プリセットは楽器別にかなりの数を完備。好みのものは、“お気に入り”として99個まで保存することができます。 それでは、専用コントローラーをコンピューターとUSB接続してPEQを操作してみましょう。プラグイン画面は最新デジタルEQのようなグラフィックなのですが、まるでアナログEQを触っているような感覚です。

 

 先ほど“ポイント”と書いたPHASEセクションですが、マルチマイク収録においてマイク間で距離差がある場合は“位相ズレ”が起こります。これを調整するためにはオールパス・フィルターという特別なEQを使うのですが、PHASEセクションにはこの機能が搭載されているのです。

 

 また、ドラムのキックやベースを処理するならLOWモード、ギターやボーカルなどはHIGHモードを選ぶとよいと思います。オールパス専用プラグインではないため詳細設定はできませんが、オン/オフを繰り返しながら位相角度を変えていくと音色も分かりやすく変化。好みの角度を選ぶとよいでしょう。位相の問題が起きた場合でもこの機能で素早く対応でき、より良い音にたどり着くことができるかと思います。

 

倍音付加が可能なDYN 3000-DT
ダッキング機能付きのゲートも装備

 続いてコンプとゲートを搭載するDYNプラグインを見てみましょう。COMPセクションでは、画面下部の左側にコンプ関連のパラメーターが並びます。レシオは1:1からリミッター動作するINF:1まであり、スレッショルドは−60〜0dB、メイク・アップは+24dBまで可能。アタックは0.20〜40ms、リリースは50ms〜3.0sまでとなっています。

 

 画面下部の中央には4つのモード=ADAPTIVE/CORRECTIVE/CREATIVE/VINTAGEを搭載。ユニークなのは、この下にあるMOREボタン。これを押すことで“MIDASサウンドがプラスされる”と説明書に書いてあります。個人的には若干倍音が足されたような印象でした。なお、ニー・カーブはHARD/MEDIUM/SOFTの3段階で調整可能です。

 

 さらに、エフェクト音を原音と混ぜるPARALLELモードや、倍音を付加できるPRESENCEモードも搭載。画面下部の右端にあるSIDECHAINセクションでは、インターナル/エクスターナルを選べたり、サイド・チェイン・フィルターのタイプや周波数帯域まで細かく設定できます。

 

 一方GATEセクションでは、画面下部の左側にゲート関連のパラメーターが並びます。ゲイン・リダクション量を設定するレンジは−INF〜0dB、スレッショルドは−80〜0dB、アタックは0.02〜20ms、リリースとホールドは2ms〜2.0sで調整可能。画面下部の右端では、3つのゲート・タイプ=NORMAL/TRANSIENT/DUCKERを選択できます。

 

 それではDYNを試してみましょう。COMPセクションに搭載された4つのモードでは、自然にかかるタイプから激しくコンプレッションするタイプまでさまざまな効果を用途に合わせて表現できます。アナログ的な範ちゅうの動作アプローチを持つPEQよりも、さらに幅広い音作りがDYNでは行えるでしょう。気に入ったのはGATEセクションのダッキング動作。ダッキング機能付きのゲート・プラグインはあまり無いため、この部分だけでも価値はあると感じます。

 

 ミックスにおいて、MIDASはあまりなじみの無いブランドなので“正直どうだろう?”と思っていました。しかし実際使ってみると、コントローラー操作でアナログ感を大切にしてはいるものの、プラグインでは最新のデジタル処理や機能が満載の実用的なツールです。去年12月号でレビューした同社のMaster X HD-DTと同じように、こちらも買うことになるんだろうなあと思っています。

 

森元浩二.
【Profile】prime sound studio formのチーフ・エンジニアとして活躍。浜崎あゆみ、三代目J Soul Brothers、甲斐バンド、AAA、E-girlsなどの作品に携わる。近年はライブ中継ミックスも手掛けている。

 

TC ELECTRONIC PEQ 3000-DT / DYN 3000-DT

オープン・プライス

(市場予想価格/PEQ 3000-DT:24,500円前後、DYN 3000-DT:22,000円前後)

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SPECIFICATIONS(コントローラー)
●共通項目
▪接続方式:USB 2.0(Micro-B) ▪電源:USBバス・パワー ▪サンプリング・レート:44.1/48/88.2/96/176.4/192kHz ▪外形寸法:54(W)×42(H)×135(D)mm ▪重量:0.2kg

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以上、AAX Native/AU/VST2.4/VST3に準拠(64ビット)
▪Windows:Windows 7以降、AAX Native/VST2.4/VST3に準拠(64ビット)

 

製品情報

beetech-inc.com

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