「TC ELECTRONIC Master X HD-DT/Brickwall HD-DT」製品レビュー:リモート・コントローラーが付属するダイナミクス&リミッター・プラグイン

TC ELECTRONICが発売した「Master X HD-DT」「Brickwall HD-DT」

撮影:川村容一(コントローラー)

 TC ELECTRONICのMaster Xと言えば、かつてAVID Pro Tools|HDシステムにおいて絶大な人気のあったダイナミクス・プラグインです。2011年のPro Tools|HDXシステムの移行に伴いプラグイン形式がTDMからAAXに変更された際に、Master XはAAXでのリリースをしませんでした。待つこと9年、待望のMaster X HD-DTと新しく加わったBrickwall HD-DTが登場です。

3バンドの特性を設定するターゲット・カーブ
パラレル・コンプ可能なMIXを装備

Master X HD-DT プラグイン

 Master X HD-DTは3バンドのダイナミクス・プラグインです。TDM版のときから特徴的だったターゲット・カーブというものが備わっており、FLAT/AIR/BASSそして人気のSMILEYの4種類のタイプを用意しています。これはプロセッシングした際に目指すサウンドを表していて、例えばSMILEYなら低域と高域が強調された派手なサウンドになるのです。3バンドのクロスオーバー周波数は、周波数表示の下部にある三角形のカーソルを動かすことにより変更することができます。また、各バンドのレベルは±12dB分の調整が可能です。

 

 メインのプロセッサーはエキスパンダー、コンプ、リミッターの3種類で、任意でオン/オフができます。エキスパンダーはTHRESHOLD/RATIO/RELEASEのパラメーターがあり、プロセッシングの際にどれほどターゲット・カーブに従うかをFACTORで設定可能です(0〜100%)。コンプはそれらのパラメーターにATTACKが追加され、リミッターではRATIOが無くなります。 

Master X HD-DTプラグインのパラメーター。左端のCURVEは、目標とするサウンドの特性カーブで、右隣のFACTORでその特性にどれほど近付けるかを決める。FACTORの右側にはエキスパンダー/コンプ/リミッターのパラメーターが表示される(この画面ではリミッター)。右端ではSOFT CLIPとイン/アウト・ゲインの設定のほか、パンニング用のBALANCEやエフェクト処理前と処理後の音を混ぜることができるMIXを調整可能だ

 メイン処理のパラメーターの右横には、ソフト・クリップのTHRESHOLD、信号を事前に読み取るLOOK-AHEADの設定があり、そのほかインプット/アウトプットのゲイン、そしてパンニングのBALANCEとパラレル処理ができるMIXを用意。以前のMaster Xはマスター・バスでの使用を目標としたプラグインでしたが、Master X HD-DTでは各トラックでの使用も想定していて、プリセットもボーカルやドラム、ベース、ギター、キーボード向けのものなど幅広く収められています。TDMのころから進化した点ですね。

目標ラウドネス値に近付けてくれる
LOUDNESS モードを搭載

 HDへの進化で特に素晴らしいのが、ドライ音と処理済みの信号のバランスを調整するMIXです。例えば、激しくコンプレッションしたサウンドと原音のバランスを変えることで、パラレル・コンプレッションをすることができます。私が一番気に入った使い方は、ドラムのバス用プリセット“Drum Bus Parallel”を基本にして調整する方法。“音量は大きくないけどビッグなサウンド”を作り出すことができます。

 

 マスター・バスに挿す場合は、TDM時代のようにMaster Xだけで音を作る使い方ではなく、複数のプラグインを組み合わせてサウンドを構築する方法がよいでしょう。Master X HD-DTでレベルを上げるというより、ターゲット・カーブとバンドのゲインで得られたサウンドをMIXで調整し味付けをして、その後段で新しく発売されたリミッターのBrickwall HD-DTを使い、レベル感を仕上げるのが良いと思います。

Brickwall HD-DTプラグイン

 では、そのBrickwall HD-DTを見てみましょう。リミッターなので、スレッショルドは上限で固定されており、インプットのレベルを上げていくことでリミッティングされます。基本動作モードは普通のリミッター動作である“MASTER”、目標ラウドネス値を決めてラウドネス・レベルを合わせる“LOUDNESS”の2種類。LOUDNESSモードは、音を出しながらSET GAINボタンを押して、もう一度押すまでの間のラウドネス・レベルを検知します。そうすると、TARGETで設定した目標のラウドネス値に調整してくれるのです。

 

 MASTERモードは、リリースを20ms〜3sまで調整できるマニュアル動作と、GENERAL/ROCK/ACOUSTIC/VOCALからプロファイルを選べるADAPTIVEの2種類を用意。それに加え、SOFT/SMOOTH/HARDの3タイプを選べるSOFT CLIPがあり、アウトプットのCEILINGは0〜-6dBで調整できます。画面左側にはラウドネス情報が各種表示されるので、別のメーター・プラグインを使う必要が無いくらいで非常に便利です。

Brickwall HD-DTプラグインのパラメーター。左端では通常のリミッター“MASTER”と、目標ラウドネス値に合わせる“LOUDNESS”の2種類のモードを選択可能だ。その右側にはひずみを加えるSOFT CLIP、リミッターのパラメーターがある

 なお、これらのプラグインには、リモート操作用の小型USB接続コントローラーが付属しています。プラグインのパラメーターが多いので、ボタン切り替えが多くなってしまいますが、すべてのパラメーターをコントローラーのみで調整することが可能です。かわいらしさもありますが、いつでもメーターおよび各種数値が見られるというのが大きなメリットです。

Master X HD-DT コントローラー

Brickwall HD-DT コントローラー

 

森元浩二.
【Profile】prime sound studio formのチーフ・エンジニアとして活躍。浜崎あゆみ、三代目J Soul Brothers、甲斐バンド、AAA、E-girlsなどの作品に携わる。近年はライブ中継ミックスも手掛ける。

 

TC ELECTRONIC Master X HD-DT

オープン・プライス(市場予想価格:34,000円前後/Master X HD-DT)

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REQUIREMENTS ▪Mac:OS X 10.13 以上、AAX/AU/VST に準拠 ▪Windows:Windows 7 以降、AAX/VST に準拠

 

TC ELECTRONIC Brickwall HD-DT

オープン・プライス(市場予想価格:27,000円前後/Brickwall HD-DT)

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REQUIREMENTS ▪Mac:OS X 10.13 以上、AAX/AU/VST に準拠 ▪Windows:Windows 7 以降、AAX/VST に準拠

製品情報

beetech-inc.com

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