実機を踏襲したデザインのコントローラー
耳当たりの良いはっきりとしたサウンド
今回チェックするTC2290-DTは、コントローラーが標準で付いている。そのコントローラーがTC2290と同じデザイン/レイアウトで、昔実機を使用していた者としては心くすぐられる。実際にミックスで使用してみたところ、邪魔にならない絶妙な大きさで好感が持てる。接続も容易で、プラグインをインストール後DAWを立ち上げ、TC2290-DTを起動する。そうするとコントローラー接続の指示が出るのでUSB端子に接続。それだけで認識してくれる。ドライバーなどをインストールする必要はなく、非常に容易でありがたい。
プラグイン側では入出力、エフェクト・バランス、プリセットなど基本的なコントロールのみで、操作のほとんどがコントローラーで行うようになっている。
重要な音に関しては、現在のデジタル機材と一線を画す。輪郭ははっきりしているが角が無く、耳当たりの良いサウンドだ。事実、オケとの混ざり方は自然。ミックス時に僕はディレイの後にEQを入れて、オケとの混ざり具合をコントロールすることが多いのだが、そうしなくても存在感がある良い音だ。
特にその混ざり具合をうまく調整してくれるのがフィードバックに搭載されているフィルターだ。ハイ/ローそれぞれ4ポイントからの選択だが、絶妙な設定でフィードバック音色をコントロールできる。
例えば、音数の少ないアレンジでフィードバック音がオケにうまくなじんでいないとき、ハイカットでフィードバック音をこもらせ、オケに溶け込んでいくようにしたりすることができる。また、ディレイにリバーブをかけたときに、フィードバック音がリバーブを強調させ過ぎてしまった場合、ローカットを使ってフィードバック音をやせさせることによって、フィードバックの音をちゃんと認識できる上、リバーブ音も奇麗に広げられる。TC2290を使用していたときを裏切らないサウンドになっていると思う。
多彩なディレイのパンニング・パターン
タップ・テンポは実際のボタンで調整
先に述べた“ユニークなことができるディレイ”という部分だが、まずはディレイ音にパン設定が可能だ。“ん?”と思った方もいるかと思う。今どきそんなに珍しくない効果なのだが、その動き方が多様なのだ。ディレイ音が左右に動くのは元より、ディレイがセンターで実音が左右に動いたり、実音とディレイ音が共に動いたり、左に実音、右にディレイなどさまざま設定ができる。動かし方によってプラグインを変更/追加したり、実音自体の処理を変えたりすることなく、TC2290-DTのみでコントロール可能。しかも一定な左右の動きだけではなく不規則にしたり、実音の音量で定位の動きに変化をもたらすことなどもできる。“これどうなっているの?”と思わせる動きを容易に作れるのだ。
次に、ダッキング/ゲート・ディレイだ。ダッキング・ディレイは原音が鳴っている間はディレイ音を抑制して、原音が無くなったときにディレイ音が出るという技である。ゲート・ディレイはその逆で原音が鳴っているときは普通にディレイ音は出るのだが、原音が終わるとディレイ・タイムが長かろうが、フィードバックが多かろうがディレイ音は無くなる。この技も決して珍しいものではないのだが、この設定を複数のプラグインを使用することなくTC2290-DTのみで設定できるのは非常にうれしいことだ。
ほかにも便利な機能がある。このプラグインのプリセットは基本的にトラックにインサートして使用することが前提になっているようなのだが、センド・エフェクトとして使用する場合、実音とエフェクトのバランスをその都度エフェクト音100
%にしなければならない。そのようなときはプラグイン側のインプット/ディレイ・オン/アウトプット・エリアの鍵マークをロックにすることで、表示されている値がフィックスされプリセットを変更してもその値は変わらない。これはミックス時にかなり助かる機能である。
コントローラーのディレイ・エリアにはLEARN機能も用意。これはタイムが分からない場合、タップしてタイムを割り出す機能である。ほかのプラグインのように画面上のボタンをマウスなどでクリックするのとは違い、実際のボタンをタップするのは非常にやりやすい。さらにDAWとシンクロしている状態でも、2拍3連などちょっと計算が必要なものも、そのタイミングでタップすれば正確なタイムへと調整してくれる。非常に便利な機能だ。
今回チェックしたTC2290-DTは、現在多くのメーカーがやっている“古いハードをプラグイン化したもの”の一つだが、サウンドはもちろん、コントローラーとの併用でほかのメーカーとの違いを明確に打ち出している。デザインや操作性も再現したこのプラグインに大変好感が持てた。
それにしても、1980年代中ごろに発売されたTC2290だが、当時の機能が現在でも楽しく使えるのは非常にすごいことだとあらためて感じた。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年12月号より)