「TC ELECTRONIC/DVR250-DT」製品レビュー:EMT 250を再現したデジタル・リバーブ・プラグイン&コントローラー

TC ELECTRONICDVR250-DT
近年のDAW中心の制作において、エフェクトをかけたければ、パソコンでプラグインを操作することがほとんどだと思います。しかし、筆者にとってはハードウェアでカチカチと操作していたころを懐かしく感じることもあります。そんな中、直感的に操作ができるハードウェア・コントローラーを備えたプラグイン・エフェクトがTC ELECTRONICから発売されました。シリーズでいろいろリリースされていますが、今回はその中のDVR250-DT(Mac/Windows、AAX/AU/VST対応)をチェックです。

実機のデザインを踏襲したコントローラー
プラグイン単体での使用も可能

今回紹介するDVR250-DTは、名機と呼ばれたデジタル・リバーブEMT 250を現代によみがえらせようと作られました。DVR250-DTはプラグインと、そのプラグインを操作するハードウェア・コントローラーという構成で、コントローラーの方は、見た目もまさにEMT 250を意識しています。昔使っていたこともあり、懐かしいと思わせるルックスです。接続はUSBで本体はmicroBタイプ。1mのUSBケーブルも付属しています。電源はUSBバス・パワーに対応。プラグイン・フォーマットはAAX/AU/VSTで、標準的なDAWには問題無く対応します。

プラグインを立ち上げると、限られた機能のみ操作できるようになっています。リバーブ・タイムなど細かい部分はコントローラーを使用するということです。左下の鎖マークが緑のときはコントローラーが接続されている状態。では外で使う場合もコントローラーを持ち運ばなければならないのかという疑問が出てきます。コントローラーがある種のプラグインのキーになっていますが、接続していなくても、最後に操作していた状態で60日間設定を保持し、コントローラーが無くても使えるようです。また、コントローラー無しでもプリセットの変更などはできます。

プラグイン側では、入出力レベル、エフェクト音にかかるフィルターのHi Cut、クラシック・リバーブ・ユニットのEQをエミュレートするQScale、入力にトランス・エミュレーションをかけるInput Trans、低域をすっきりさせるTrim Lo Frq、少しだけエフェクトが荒くなるLo Resなどの操作ができます。Lever Statusは、コントローラーのレバーがそれぞれどの機能に対応しているかを表示。Mixは原音とエフェクトのバランスを調整できます。DVR250-DTは、リバーブ以外にもディレイ、フェイザー、コーラス、エコー、スペースなどのエフェクトとしても使え、それぞれのタイプ別にバランス調整が可能です。また、セッティングは100個保存でき、著名なプロデューサーのシグネチャー・プリセットも備えています。実際にプロがどう使っているか分かるのもうれしいですね。

肝心のコントローラーですが、数値を気にせず音を聴きながら操作できるというハードならではの感覚は久しぶりでした。“これで良し!”と決めた値が後から見るといつもの感じとは違ったりして、新たな発見にもなります。

レバーは、EMT 250のようにスロット上をスライドしていくのではなく、位置が固定されており、上下にカチカチと動かして操作します。レバーの役割はエフェクトによって変わるのですが、リバーブの場合は左からディケイ/ローディケイ/ハイディケイ/プリディレイの操作が可能。SETボタンを押すと、Mix、モジュレーション、アウトプット・セレクト(EMT 250の実機は4ch仕様で、このスイッチでフロントL/RとリアL/Rを切り替える)として機能します。エフェクトの切り替えも、コントローラーのボタン一つで行えます。

▲EMT 250を模した、コントローラーのレバー ▲EMT 250を模した、コントローラーのレバー

滑らかでクリアなサウンド
コーラスなどのエフェクトも搭載

では、肝心の音を聴いてみましょう。まず、ボーカルで立ち上げてBallad Vocalプリセットを試してみました。非常に滑らかな音で、TC ELECTRONICらしいクリアなリバーブ音を聴かせてくれます。TC ELECTRONICの最高峰ハードウェアSystem 6000のリバーブを聴いたときと同じ印象を持ちました。ほかのプリセットも試しましたが、決してもっさりボワボワしない印象です。

Trim Lo Frqを入れると、主張せずさりげないリバーブも簡単に作れます。EMT 250よりクリアな感じですが、トランス入力の切り替えだったり、よりアナログ感も味わえるのはうれしいところ。TC ELECTRONICのリバーブは、2ミックスになった音を入力してもあまり破たんさせずに奇麗で明りょうなリバーブ音を聴かせてくれる特徴があると筆者は思っています。DVR250-DTでもその印象は受け継がれており、いろいろな用途で使えるリバーブだと感じます。

普通のリバーブでよくあるホールやルームなどタイプ別での選択がDVR250-DTにはありません。ルームっぽくしたければリバーブ・タイムを短く、ホールっぽくしたければ長くするといった使い方になります。デジタル・リバーブではありますが、妙にデジタルっぽくもなく、クリアながら温かみもあるので、ロング・リバーブや短いリバーブ・タイムでも、エフェクト音が粒っぽくって破たんしてしまうことが無いところも印象が良かったです。どちらかといえばなじむ系統のリバーブだと思います。DVR250-DTはリバーブとして注目されていますが、十分に使えるコーラスをかけることも可能です。リバーブだけでないところもお得感がありますね。

DAWの画面上でコツコツやることが当たり前のご時世ですが、このようなハードでパチパチやるのも、若い方に味わってほしいです。滑らかでなじむリバーブが欲しい人は特に試してみるとよいでしょう。バラード系の曲で使えるリバーブは意外と少ないですからね。

サウンド&レコーディング・マガジン 2019年3月号より)

TC ELECTRONIC
DVR250-DT
オープン・プライス(市場予想価格:38,500円)
【REQUIREMENTS】 ▪Mac:OS 10.10以降、AAX/AU/VST対応のDAW ▪Windows:Windows 7以降、AAX/VST対応のDAW 【SPECIFICATIONS(コントローラー部)】 ▪消費電力:最大2.5W ▪電源供給:USBバス・パワー ▪接続:USB 2.0(microBタイプ) ▪外形寸法:109(W)×52(H)×133(D)mm ▪重量:500g