SPITFIRE AUDIO Spitfire Appassionata Strings レビュー:15年の知見を注いで開発したレガート技術を搭載するストリングス音源

SPITFIRE AUDIO Spitfire Appassionata Strings レビュー:15年の知見を注いで開発したレガート技術を搭載するストリングス音源

 SPITFIRE AUDIOが新たにリリースしたストリングス音源Spitfire Appassionata Strings(以下、Appasionata Strings)について紹介します。レガートの表現力に特化した、中編成のストリングス音源です。

有名映画手掛けた作曲家の音楽スタイルを参考にした

 Appassionata Stringsは8/6/6/6/4の中編成で、いずれもロンドンのトップ・プレイヤーを召集してAIRスタジオのリンドハースト・ホールで収録されました。“Appassionata”とはクラシック音楽などで使われる発想記号の一つで、イタリア語で“熱情的に、激情的に”という意味の言葉だそうです。

 新世代のレガート技術Impulse Legatoを採用しており、流れるようなフレーズ・ラインとバランスの取れた美しいビブラートを再現することが可能になりました。メーカー公式サイトでは、『スター・ウォーズ』や『ジュラシック・パーク』で知られるジョン・ウィリアムズや、『ファインディング・ニモ』でおなじみのトーマス・ニューマンのメロディアスな音楽スタイルを参考にしたとあります。ユーザーはシンプルな操作で簡単にそれらのサウンドを扱うことができるので、やはり映画などの叙情的なシーンや感動的なフィナーレには即戦力になりそうです。公式サイトでデモ楽曲を試聴することが可能。“ここまで来たか……!”と、うなるような堂々たる完成度ですので、まだ聴いていない方はぜひチェックしてみてください。

細かいニュアンスが伝わるリッチで繊細な音像

 Appassionata StringsはSPITFIRE AUDIO独自のエンジンで起動します。まずはメインのレガート・パッチに触れてみました。音の輪郭がありビブラートなどの細かいニュアンスが伝わるのと同時に、しっかりと余韻の響きも感じられます。リッチでなおかつ繊細。とにかく“エモい”という言葉がしっくりくる音像です。

SPITFIRE AUDIO Spitfire Appassionata Strings レガート・パッチの画面

レガート・パッチの画面。画面中央から奏法を選択する。Shiftを押しながらクリックすることで複数選択も可能。画面右側では奏法を切り替えるキー・スイッチの選択など、詳細な設定をすることができる

 1st/2ndバイオリン(E4以上の音)とチェロ(A2以上の音)には、ノートの間のベロシティ調整で極端にポルタメントをかけることが可能です。5度以上1オクターブ以内のノート移行かつ、ダイナミクスが100%付近のときのみに適用。ベロシティ120〜127がトリガーになります。これがまたすごく良いニュアンスなんですよね。メロディの聴かせどころに加えるとグッと表現力が高まります。特にチェロのハイポジションはとてもつややかで最高ですね。

 コントロールできるダイナミクス•レイヤーは5段階あり、説明書にはフォルティッシモが127(100%)、フォルテは95(75%)、メゾフォルテが64(50%)、メゾピアノが31(25%)、ピアニッシモが9(7.5%)とありました。エクスプレッションでボリュームをコントロールをすることもできますので、細かいニュアンスの表現が可能です。鍵盤を打鍵した際の音の立ち上がりも速いので、調整次第では速いパッセージもいけるでしょう。ただ個人的にはやはりじっくり聴かせるようなメロディやフレーズに積極的に使っていきたいですね。

 レガートやサステイン以外にも、ノートを鳴らしただけでクレッシェンドからデクレッシェンドのダイナミクス表現を再現してくれるヘアピン・タイプが3種類あります。音価が異なるショート、ミディアムに加え、ボウ・チェンジはダイナミクスの山場から下りにかけて弓を折り返す仕様になっています。正直なところ、これらをうまく使いこなしていけば複雑なオーケストレーションをしなくても、メロディとコードを鳴らすだけで割と良い感じになってしまう気がしました。タイトなスケジュールの劇伴制作にもすごく恩恵がありそうですね。制作工程がシンプルになるので、よりメロディ・メイクにフォーカスして時間を費やすことができるでしょう。個人的にはアンサンブル・パッチがあればスケッチ作りにも便利で、最終的な制作の時短にもなり、ありがたいと思いました。

 ミキサーでは全7種類のマイク・シグナルを自由に操作できることに加えて、これらを元に4種類のミックス済みシグナルが用意されています。また、各マイクの音量をそのままプリセット化できるので、気に入ったバランスが見つかればいつでもほかの楽曲で活用することが可能です。

SPITFIRE AUDIO Spitfire Appassionata Strings ミキサーの画面。4種類のミックス済み音声のバランスを調整する

ミキサーの画面。4種類のミックス済み音声のバランスを調整する。Mix 1はホールの響きと楽器のディテールが調和したバランスの良いミックス、Mix 2はホールの響きをふんだんに含んだ大きな音像のミックス、Mix 3は楽器にフォーカスしたタイトなミックス、Mix 4はより近接的なミックスになっている。全7種類のマイク・ポジションの調整も可能だ

 直感的な操作で本格ハリウッドのような叙情的で美しいサウンドが簡単に手に入るAppassionata Strings。コンセプトがハッキリしている分、万能型ではないですが、ハマればとことん強いです。そして、使い勝手の良さとサウンドのクオリティはまさしく次世代のストリングス音源だと思いました。

 

中村佳紀
【Profile】専門学校に在学中、ゲーム音楽のコンテストで最優秀賞を受賞し、作曲家としてのキャリアをスタート。現在はゲームやドラマ、アニメなど幅広いジャンルの劇伴作家として活躍する。

 

SPITFIRE AUDIO Spitfire Appassionata Strings

32,406円(価格は為替相場によって変動)

SPITFIRE AUDIO Spitfire Appassionata Strings

REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.10/10.11、mac OS 10.12/10.13/10.14/10.15/11.0(64ビット)、AAX/AU/VSTに準拠、2.8GHz INTEL Core I5 以上のCPU(2.8GHz Core I7 6コア以上を推奨)、16GB以上のRAM
▪Windows:Windows 8/10(64ビット)、AAX/VSTに準拠、2.8GHz INTEL Core I5/AMD Ryzen 5以上のCPU(2.8GHz Core I7 6コア/AMD Ryzen 2700以上を推奨)
▪共通:83GB以上のストレージ空き容量(インストール時には倍の空き容量が必要)