SPITFIRE AUDIO Hammers レビュー:映画音楽家が作るシネマティック・パーカッション音源

SPITFIRE Hammers レビュー:映画音楽家が作るシネマティック・パーカッション音源

 SPITFIRE AUDIO Hammersは、Mac/Windows対応のシネマティック・パーカッション音源。ナイン・インチ・ネイルズ、映画『ソウ』シリーズ、映画『バイオハザードIII』などを手掛けた映画音楽家チャーリー・クラウザーによってキュレーション、作曲、録音、ミックスされました。

8種類のドラムを最大10種類のマイクで収録

 Hammersは、AAX/AU/VSTに準拠し、NATIVE INSTRUMENTSの規格NKSにも対応しています。Bass Drum、Surdos、Toms、Roto-Toms、Darbukas、Frame Drum、Scrap Metals、Snaresの8種類のドラムを備えており、それらは素晴らしい音響環境と最大10種類のマイクでキャプチャーされました。さらに、ミックス、ワープ(エフェクト加工済み)信号、および12種類の特徴的なIRリバーブの選択により、さまざまな可能性を出し強烈なパフォーマンスを実現します。SPITFIRE AUDIOのYouTubeチャンネルではメイキング映像も公開されているので、興味深いレコーディング風景をチェック可能です。

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トップ画面上部の中央にあるReverbをクリックすると12種類のIRリバーブを選択することができる

 メイン画面を簡単に説明すると、画面中央右の大きなノブでリバーブやフィルターのかかり具合を決めます。その左にある2つのフェーダーのうち、左がボリューム調整、右は最大と最小の音量差を広げるダイナミクス調整です。画面下部には3つのタブがあり、一番左がたたき方やパターンを選択するタブ、中央がWarpというマイキングやエフェクトのフェーダーを調整するタブ、右が数種類のエフェクトを調整するFXタブです。

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中央にセットされたノブはエフェクトのかかり具合を調整できるもの。右に表示されるエフェクト項目を選択してからノブを操作する。ここではLPF(ロー・パス・フィルター)が選択されている

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画面下部にあるWarpのフェーダー。下の>を押すとさらに6つのフェーダーが出現する

 DAW上のMIDIでそれぞれのパーカッションを打ち、それをHammersで鳴らすことも、Hammersに収録されたループのプリセットを使うことも、両方の用途で使うことができます。私は今までも映像音楽の仕事でスケールの大きいサウンドを作ることがよくあり、さまざまなメーカーのソフト音源を多数所有しています。しかし、どうしてもワンショットで打つだけだったり、またループの編集などができないものが多いです。Hammersはエディット可能なループとMIDIでの打ち込みを、一つのソフトで完結できて、質感のコントロールもしやすいため、とても扱いやすいと感じました。

ビンテージ/モダン/モジュラーなどで処理された音

 次にループ機能についてです。クラウザーは一つのループを録音し、ただそれをストレッチするのではなく、それぞれのテンポ(70/90/110/130/150BPM)に適したループで構成しました。今までループ・パターンは格好良いのに、テンポを変えたら音が劣化してしまい使えなかったことがあったので、これはとてもユーザー目線で作られていると感じます。

 

 すべてのパフォーマンス・ループは自動的にホストアプリケーション(DAW)のテンポに同期します。またスタックやリアレンジ、ループのブレイク・アップ、エンド・ヒットなどがキー・マッピングされているので、さまざまなテンポで作業ができるだけでなく、パターンもある程度コントロール可能です。ループ・グループ全体でリズムの連続性を見付けることができるため、楽曲全体で音楽的にまとまりのある結果が得られます。

 

 また“WARPED LOOPS”と名付けられた音源が、とても面白いです。“WARPED LOOPS”はビンテージとモダンのシンセサイザー、ステップ・シーケンサー、巨大なモジュラー・システムなどを使い処理されたサウンドをキャプチャーしています。すべてのワープは12のフェーダーを上下してさまざまな音色を作ることが可能。かなり直感的に作業できるのが良いと思いました。Hammersの良いところは、かなり細かくコントロールできるのに、その一つ一つが直感的に扱えるところだと思います。簡単に操作しながら、実際に音の変化を感じつつ作業できるのでとても扱いやすいです。全体として、ワープの多様性と豊富なエフェクトは比類の無いものであり、現代のハイブリッドな音像を作るのに最適だと感じました。

 

 Hammersのユニークな機能には、FXタブにあるリバース、ノーマライズ、トップ画面の上部右から2番目に位置する“…”の“Stretch mode”から選べるレトロ・ピッチ・モードがあります。リバースは、曲中でのアクセントを非常に気軽に作成でき、またDAWのテンポと同期して再生できます。ノーマライズはFXページに単一のノブとして表示され、最も静かなサンプルが最も大きなサンプルと実質的に同じラウドネスになるまで、静かな方のサンプルのレベルを上げる効果があります。レトロ・ピッチ・モードは、DAW同期のタイム・ストレッチ・モードを変化できます。レトロ・ピッチ・モードを有効にすると、サンプルはプロジェクトの再生テンポに合わせてタイム・ストレッチされずに、ピッチが上下にシフトします。ピッチは元の録音した状態とは異なりますが、トランジェントはタイム・ストレッチの影響を受けずに、鮮明でクリアなままです。

 

 このレトロ・ピッチ・モードと“WARPED LOOPS”は個人的に一番気に入りました。ハイブリッドな音像を求められるときに、今まで複数のプラグインを使っていたのが、一つでかつ直感的に扱えるからです。Hammersはクリエイティブなサウンド・デザインに最適であり、これから個人的にもヘビー・ユースしていく音源の一つに間違い無くなると思っております。

 

近谷直之
【Profile】CMや映画、ドラマ、ゲームなどへの楽曲提供のほか、自身のプロジェクトSHADOW OF LAFFANDORでも活動。最近ではTVドラマ『武士スタント逢坂くん!』の音楽を担当している。

 

SPITFIRE AUDIO Hammers

35,981円(価格は為替相場によって変動)

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REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.10以降、AAX/AU/VST対応のDAW(64ビットのみ動作)
▪Windows:Windows 8以降、AAX/VST対応のDAW(64ビットのみ動作)
▪共通:INTEL Core I5以上のCPU、8GB以上のRAM、100GB以上のストレージ空き容量

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