「SPITFIRE AUDIO Albion Solstice」製品レビュー:伝統楽器や民族音楽にインスパイアされたソフト音源

「SPITFIRE AUDIO Albion Solstice」製品レビュー:伝統楽器や民族音楽にインスパイアされたソフト音源

 SPITFIRE AUDIOが伝統楽器や民族楽器などの“遺産”を引き継ぐ音源、Albion Solsticeをリリースしました。73GBのライブラリーには伝統楽器をモダンに処理したような高品質なキュレーション・サンプルがたくさんあり、創造に結び付く幅広いサウンドを備え、ほかに類を見ない非常に多様で一貫性のある音源になっています。

伝統楽器を現代的に処理したサウンド、少ない音数でも成立する楽曲が生まれそう

 Albion Solsticeは、バージョン5.6.8以降のNATIVE INSTRUMENTS Kontakt PlayerまたはKontaktで動作。これらはスタンドアローンのほか、AAX/AU/VSTに準拠し、同社の規格NKSにも対応しています。

 

 Albion Solsticeは、The Solstice Orchestra、The Cassette Orchestra、The Drone Gridの3つのセクションに分かれています。The Solstice Orchestraには9つのバンクがあり、オーケストラのさまざまな楽器を収録。弦楽器や金管楽器、木管楽器、合唱団、パーカッション、ケルティック・フィドル、ハーディ・ガーディなどの伝統楽器、ベル、ギターといったサウンドを、235以上のアーティキュレーションで再生可能です。演奏方法で細かくサウンドが分かれており、一般的な演奏、エフェクティブなアプローチ、MotorというDAWのテンポに同期するリズミカルなパフォーマンス、ドローン、テクスチャーなど、さまざまな形式が用意されています。

 

 少し高域が落ちたようなブラスやギター系は柔らかい印象で、淡い映像作品などに合いそうです。また、ベルの音はとてもきらびやか。クリアで生々しく、オケの中でもきちんと存在感があるように思いました。アコースティック・ギターのMotorは他社音源にはあまり無いサウンドで、面白く使えるのではないかと思います。生のアコースティック・ギターの代わりに使うというよりも、伝統楽器を現代的に処理した音として楽曲の中に組み込むと、少ない音数でも成立するような楽曲が生まれそうな気がしました。

 

 The Cassette Orchestraはとてもユニークな要素です。EDNAというシンセ・エンジンを使用し、有機的なサウンドを実現できます。ビンテージ・カセット・マシン、アナログ・テープ・ディレイ、モジュラー・エフェクト、ギター・ペダルの幅広いコレクションでサウンドを変化させることが可能です。

f:id:rittor_snrec:20210812150127j:plain

The Cassette Orchestraのサウンドでは、EDNAというシンセ・エンジンで音作りが行える。A、Bと2つのパートがあり、それぞれにサウンド・ソースを読み込み可能。フィルターやゲート・シーケンサー、多彩なエフェクトも備わっている

 サウンドは700以上あり、シンプルなThe Classic、伝統楽器系のThe Traditional、複数の楽器や声を含むThe Band、シンセ系のThe Visitorの4つのバンクに分かれています。The VisitorはSOMA LABORATORY Lyra-8、ROLAND Juno-6、Jupiter-4、Jupiter-6、KORG MS-20、MOOG Prodigyなどのシンセから録音された膨大なサウンドのコレクションを含むのが特徴。一音だけ鳴らしても有機的に音が変化し続けるベース・サウンドなどもあります。映像音楽で使っても十分存在感があるように思いました。

 

 このThe Cassette Orchestra、まずは自由に触ってみるのがよいでしょう。例えばThe Bandのサウンドでは、ハーディ・ガーディの音が今っぽいシンセと混ざったような響きになり、生楽器でもなくシンセっぽくもないとても新しい音に出会えました。ぜひプリセットを探索してみてください。

複雑なサウンドを作れるThe Drone Grid、ランダマイズ機能で予期できない音色にも

 The Drone Gridは縦が音域、横が音色の違いとなっているグリッド=Evo Gridを操作して、Albion Solsticeのさまざまなサウンドを組み合わせることができます。グリッドの横軸は、The Elders(ストリングス系)、The Callers&Mystics(管楽器系)、The Band(ギターやクワイア系)、The Blaggards(アコーディオン系)などのさまざまなソースに従って色分けされています。任意でグリッドの設定もできますが、ランダマイズ機能も装備。ランダマイズすると全く予期しない音となり、新しいインスピレーションを提供してくれます。

f:id:rittor_snrec:20210812150242j:plain

The Drone Gridのサウンドでは、Evo Gridというインターフェースでサウンドのバリエーションを生み出せる。Evo Gridは縦に音域、横に音色バリエーションが並ぶグリッドになっており、音域ごとに違う音色を設定することが可能。ランダマイズ機能も備えている

 このEvo Gridは、同社のOlafur Arnalds Chamber Evolutionsなどにも搭載されており、筆者も愛用してきました。というのも、こういった独特なテクスチャーを作り出せるソフトはほかには無いためです。音数は少なくてもセンスの良いテクスチャー系パッドなど、感情に訴えかけるサウンド作りに有用です。これもThe Cassette Orchestraと同じく、“偶発的な音からのインスピレーション”もあると思いますし、まずはいろいろと触って試してみるのがいいでしょう。

 

 Albion Solsticeは、伝統ある楽器とモダンなシンセサイザーを融合した新しいアプローチや音像を作ることができる音源です。その特性から、初心者の方に“まずはこの音源を”とは言いづらい部分がありますが、基本的なオーケストラ音源はそろえているという映像音楽作家にはぜひお薦めしたいですね。Albion Solsticeでないとできないアプローチがあります。3つのセクションに分かれていますが、基本的にはThe Solstice Orchestraを軸としていますので、どのセクションを使っても統一感を保てるでしょう。新しい発想から曲を作るときにピッタリです。

 

近谷直之
【Profile】CMや映画、ドラマ、ゲームなどへの楽曲提供のほか、自身のプロジェクトSHADOW OF LAFFANDORでも活動。TVドラマ『武士スタント逢坂くん!』では音楽を担当している。

 

SPITFIRE AUDIO Albion Solstice

54,329円(価格は為替相場によって変動)

f:id:rittor_snrec:20210812150855j:plain

REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.10以降、INTEL Core I5以上のCPU
▪Windows:Windows 8(64ビット)以降、INTEL Core I5またはAMD Ryzen 3以上のCPU
▪共通項目:73GB以上のドライブ・スペース