SPITFIRE AUDIO珠玉のライブラリー7選を青木征洋が解説!

SPITFIRE AUDIO珠玉のライブラリー7選を青木征洋が解説!

SPITFIRE AUDIOには実に多くのライブラリーが用意されており、豊富な選択肢があるのはうれしいポイントだが、どのライブラリーを買えばよいのか悩んでしまうことも。ここでは、作編曲家/プロデューサー/ギタリストの青木征洋に、SPITFIRE AUDIO珠玉のライブラリー7種類を試していただき、それぞれがどのような特徴を持っているのかを解説してもらう。ライブラリー導入のヒントになれば幸いだ。

SPITFIRE AUDIOは打ち込みに生命感をもたらすサウンド

青木征洋

青木征洋
【Profile】カプコンを経て、フリーの作編曲家/プロデューサーに。『ストリートファイターV』の作曲のほか、アジアや北米、欧州のタイトルも手掛ける。ギタリストでもあり、レーベルViViXを主宰しつつギター・インストの流布に努める

 

 SPITFIRE AUDIOの生み出すサンプル・ライブラリーは既に多くのクリエイターにとって無くてはならないものになっていますが、プロダクトを特別たらしめているのはなんと言ってもそのプロダクションの豪華さでしょう。SPITFIRE AUDIOはどうすれば高品質なサンプル・ライブラリーができるのかよく理解していました。プロダクトのサンプリング拠点をエア・スタジオのリンドハースト・ホールに定めたこともそうですが、エンジニアにエア・スタジオのジェイク・ジャクソン氏を起用したり、十分過ぎるほどの時間をサンプリング・セッションに費やすことでダイナミクスのレイヤーを非常に広く取り、より多くの奏法を収録することで、ライブラリーの演奏表現力と音響面のリアリティをそれまでの製品とは一線を画する水準に引き上げました。

 

 ロンドンは、ハリウッドとは全く異なる、それでいて素晴らしいクオリティの音楽を作る場所として多くの音楽家に愛されてきました。エア・スタジオのリンドハースト・ホールで収録されたサウンドトラックは数え始めたらキリがありません。ハリウッドで収録したライブラリーは全体的にタイトで硬い印象があるのに対し、ロンドンで収録したサウンドは音楽的で好ましい揺らぎを残したサンプルが多いです。エア・スタジオでの録音を中心としたSPITFIRE AUDIOのサウンドは、機械的になりがちな打ち込みに生命感をもたらすのに適していると感じます。

 

 そんなSPITFIRE AUDIOは、現時点で60以上ものサンプル・ライブラリーをリリースしています。豊富にあるが故に、これからストリングス・ライブラリーを触ろうとする人は何から選ぶべきか迷ってしまうかもしれません。今回はAbbey Road One、BBC Symphony Orchestra、Spitfire Studio Strings、Albion One、Hans Zimmer Strings、Spitfire Chamber Strings、Albion Solsticeそれぞれの特徴を比較し、読者の皆さんにとっての最適なライブラリーが明確になるようサポートしていきます。

 

Abbey Road One: Orchestral Foundations

54,428円(為替レートによって変動)

Abbey Road One: Orchestral Foundations

名門アビイ・ロード・スタジオで収録された、ビギナーでも扱いやすいオーケストラ・ライブラリー

 Abbey Road Oneは、超名門アビイ・ロード・スタジオのスタジオ1で収録された90人規模のオーケストラ・ライブラリーです。このOrchestral Foundationsにはストリングスだけでなくブラス、木管、打楽器まで一通りの楽器が収録されています。弦と木管はHighとLow、BrassはTrumpets、Horns、Lowといった具合にある程度楽器がまとめられた状態になっており、奏法のバリエーションもBBC Symphony Orchestraなどと比べると控えめです。このおかげで、オーケストラに詳しくない人でも安心して触り始めることができ、慣れた人にとってはコンデンス・スコア的なものを打ち込むだけでもそれっぽく鳴ってくれるため、締め切りとの戦いのときに非常に役立つ音源でしょう

 

 アビイ・ロード・スタジオのサイモン・ローズ氏がレコーディング・エンジニアを務めており、非常に広いヘッド・ルームとエッジを感じさせつつ、アンビエンスもタイトにまとまった扱いやすい音を楽しむことができます。これは後述のAlbion Oneと好対照と言えるでしょう。マイキングはオーソドックスなClose/Tree/Ambient/Outriggerに加え、スポット・マイクのカブリが収録されたSpill、ポップスでの使用を想定したPop CloseとPop Roomも用意されており、音を広げることもフォーカスを合わせることも自由自在です

 

 Abbey Road Oneは拡張を続けており、現時点では木管やローストリングスの追加ライブラリーがリリースされています。モジュラー・ライブラリーのような汎用的なものというよりは、特定の用途に特化した時短ツールという性格が強いですが、これでデモを作っておけば実際にアビイ・ロード・スタジオで収録を行っても音のイメージが大きく変わることは無いという安心感があります。

 

BBC Symphony Orchestra Professional

121,055円(為替レートによって変動)

BBC Symphony Orchestra Professional

BBC交響楽団の演奏をキャプチャー。多彩なフォーマットのサラウンドにも対応

 弦楽器や金管楽器、木管楽器だけでなく、打楽器やハープなども楽器ごとに非常に幅広い奏法で収録。本格的なオーケストレーションにも適した万能なライブラリーです。BBC(英国放送協会)のオーケストラの音をそのままサンプル・ライブラリーにするという非常に壮大なプロジェクトで、日本で例えるならNHK交響楽団の音をそのままライブラリーにするようなものでしょうか。収録は2023年に閉鎖が決まっているメイダ・ベイル・スタジオで行われ、エンジニアはエア・スタジオのジェイク・ジャクソン氏が担当しました。

 

 本ライブラリーでは、まさしくヨーロピアンでクラシカル、ウォームでリッチなサウンドを楽しむことができます。金管楽器はシネマティックでブラッシーな音源と比較するとやや控えめな印象を受けますが、柔らかいフレンチ・ホルンなどはMIDIキーボードを弾いて鳴らしているだけでうっとりしてしまいます。

 

 シグナル・パスも非常に充実しており、Dolby Atmosに対応したハイト・スピーカー用のチャンネルから、ほかの楽器のスポット・マイクに回り込んだ音を再現するチャンネルまで、実に20前後ものシグナルを取りそろえています。5.1chや7.1ch、果ては7.1.4chにも対応することが可能です

 

 これらを巧みに扱おうとすると十分なマシン・スペックだけでなく、レコーディングやミキシングに対する知識が求められますが、このライブラリーには簡易版にあたるDiscoverとCoreというバージョンもあります。そちらではより少ないマシン負荷で気軽にそのフィーリングを楽しむことができるでしょう。各バージョンには互換性があり、Discoverで制作したセッションをProfessionalで開くことも、その逆も可能となっています。

 

Spitfire Studio Strings Professional

60,467円(為替レートによって変動)

Spitfire Studio Strings Professional

ポップスやTV劇伴にも向いたバイト感。コンパクトな響きがJポップにも合いやすい

 8/6/6/6/4という比較的コンパクトかつ低音が充実した編成です。Professional版のほかに、簡易的で扱いやすい無印版もあります。アビイ・ロード・スタジオのサイモン・ローズ氏によって録音されたこのSpitfire Studio Stringsは、ポップスやTV向けの劇伴にもフィットするほどよいバイト感があり、どことなくAbbey Road Oneに近い質感を持っています。エア・スタジオのスタジオ1で収録されており、同スタジオのリンドハースト・ホールを使用したライブラリーと比較すると良い意味で“薄い”ため、日本のスタジオで録音した別の楽器とも混ざりが良いでしょう。スタジオ1はおよそ130㎡ほどで、東京のサウンド・シティ Bスタジオに近いサイズを持っています。また、半分のサイズである4/3/3/3/2でも2パターンを録音しており、これらを重ねることによってタイトさを保ったままシンフォニックな人数感にまでかさ増しすることもできるようになっています。

 

 奏法のバリエーションはBBC Symphony Orchestraほど多くは無いものの、用途を考えると必要十分な奏法が収録されていると思います。特に日本のテンポが速い音楽においてはSpitfire Chamber Stringsのようなライブラリーを使うと音の余韻が残り過ぎてしまうため、多少人数感は増えてしまいますがSpitfire Studio Stringsを使った方が濁りの少ないストリングスのトラックを作ることができると思います

 

 マイク・ポジションはCloseが2つとTreeが2つに加え、AmbienceとOutriggerまで豊富に取りそろえられていますが、自分でミックスするのがおっくうな人はこのProfessional版ではなく、マイク・ポジションが決まっている無印版を買えば迷い無く使うことができるでしょう。

 

Spitfire Chamber Strings Professional

121,055円(為替レートによって変動)

Spitfire Chamber Strings Professional

小編成による親密なサウンド。奏者一人一人の個性が見えるライブラリー

 4/3/3/3/3という小編成ながら、エア・スタジオのリンドハースト・ホールで収録することによって非常にリッチな響きを備えたストリングス・ライブラリーです。実際のプレイヤー数よりも多く感じられるサウンドですが、大編成の音源のように奏者一人一人の個性が失われることなく、顔の見えるライブラリーと言えます

 

 ゆったりとしたテンポの楽曲で、あまり大編成感を出したくないポップスや劇伴の背景に特にフィットします。逆に、スクリーンで鳴らすような壮大な音楽の中で一瞬だけ親密な音を出して抑揚を付けたいときにも非常に使えるライブラリーです。創立者のクリスチャン・ヘンソン氏はAlbion Oneで遠景を作り、Spitfire Chamber Stringsをレイヤーして輪郭を持たせるといった使い方もしているようです。

 

 レガート・パッチはゆったりとしたトランジションだけでなく、スケール・ランのような素早い動きにもうまく対応してくれるため、使い勝手が良いです。そのほかの奏法も非常に豊富で、弱奏からフォルティッシモまで違和感無く演奏させることができるでしょう。

 

 無印版でも十分に広がりを得ることができますが、このProfessional版を使うとOutriggerを始めとする演出的なマイク・チャンネルが多数追加されるため、よりリッチな空間表現や音像のコントロールが可能になります。とはいえ16人編成という小さなサイズのセクションですので、金管楽器のセクションや打楽器を全力で鳴らすと音量で負けてしまいます。オーケストラの文脈で使うストリングス・ライブラリーをお探しの場合は、BBC Symphony OrchestraやSpitfire Symphonic Stringsなどのライブラリーの方が違和感無く使えるでしょう。

 

Albion One

54,406円(為替レートによって変動)

Albion One

映画音楽に必要なオーケストラ素材がセットに。サウンド・デザインに活用できるループも収録

 エア・スタジオのリンドハースト・ホールで収録された“映画音楽を作るために必要なオーケストラ素材一式”が入ったお得なライブラリーです。BBC Symphony Orchestraのような楽器セクションごとに分かれたモジュラー式ではなく、各セクションが一緒になっている形式なので、オーケストラに詳しくないビギナーでも感覚的に使い始めることができるライブラリーでしょう。

 

 楽器ごとの役割の違いを深く考えずに適当にMIDIノートを置いてもそれなりに鳴ってくれます。サウンドが最初から作り込まれているので、締切に追われる多くの作曲家をこれまで救ってきたのがこのAlbion Oneです。また、オーケストラのミックスに明るくない人でもスケール感の大きな音を簡単に出すことができるのは大きなポイント。特に打楽器は相当作り込まれているため、迫力を出すのに苦労することは無いのではないかと思います

 

 収録サウンドは、弦楽器のみならず管楽器や打楽器まで広くカバーされており、リンドハースト・ホールの美しく豊かな響きを比較的手ごろな価格で楽しむことができます。デモ用途としてであれば十分使えますし、より凝ったものを使いたくなったらSpitfire Symphonic OrchestraやSpitfire Percussion、Hans Zimmer Percussionなどを買い足して差し替えることで、同じホールの響きを保ったまま楽器や編成、奏法の幅を増やすことができるのもAlbion Oneの魅力の一つなのです。

 

 サウンド・デザイン・ツール的なパーカッション・ループやシンセ・エンジンも収録しており、オーケストラに合わせるビートやシーケンス、パッドを選ぶ際も“音像がマッチしない”と困ることはないでしょう

 

Hans Zimmer Strings

96,822円(為替レートによって変動)

Hans Zimmer Strings

圧倒的な大編成によるオーケストラ。独自の音響が演出できるのも魅力

 ここまで紹介したものと比べると、明らかに異色なライブラリーがこのHans Zimmer Stringsです。エア・スタジオのリンドハースト・ホールで収録されているという点ではほかのライブラリーと変わらないのですが、その編成が全く異なります。ストリングスのプレイヤーだけでおよそ344名分の演奏が収録されており、1stバイオリンとチェロに至ってはそれぞれ60名ずつのプレイヤーがレコーディングに参加。その分、すさまじい音圧です

 

 通常、オーケストラはストリングスの楽器の種類ごとのシート・ポジションが決められています(Lch側に高音楽器、Rch側に低音楽器が並びます)。しかし、Hans Zimmer StringsではL/Rもセンターもバイオリンにするといったサウンド・デザインが可能です。

 

 マイク・ポジションも通常のClose/Tree/Ambient/Outriggerに加えて、より遠くに立てられたギャラリー・マイクの音が用意されており、一般的なスタジオ録音で得ることが難しい音響を生むことができます。つまり、オーケストレーションのツールというよりはサウンド・デザイン・ツールに近いのがこのHans Zimmer Stringsです。シンセを使うくらいのつもりで、柔軟な発想を持って自由に使うのが正解だと思います

 

 ストリングス全体をHans Zimmer Stringsだけで作る必要は全く無く、既存ライブラリーでのオーケストレーションのすき間に、演出としてピンポイントで足すだけでも大きな効果を発揮してくれます。通常のストリングス・ライブラリーでは得られない広がりや厚み、あいまいさ、ボケ感が必要だけれど、シンセ・ストリングスよりは人間味が欲しいという場面でこれ以上なくハマってくれるでしょう。

 

Albion Solstice

54,406円(為替レートによって変動)

Albion Solstice

小編成サウンドにフォーカスした、サウンド・デザイン系ライブラリー

 6月にリリースされたばかりのAlbion Solsticeは、ほかのAlbionシリーズと打って変わってエジンバラのキャッスルサウンド・スタジオという非常にデッドなスタジオで収録され、小編成のサウンドにフォーカスしたライブラリーに仕上がっています。Albionシリーズということで、あくまで映画音楽や劇伴に特化した内容ですが、室内楽のサンプルを加工して非常に親密なムードを作り上げるのに適しており、ある種日本のTV向けの音と言えるでしょう

 

 機能面では、EVO Gridという機能を使って偶然性のあるパッド・サウンドやユニークなテクスチャー・サウンドを生み出すことができる一方で、それらに使われている弦や管楽器、ホイッスル、ギター、コーラス、伝統楽器などが必要十分な奏法数とシグナル・パスのバリエーションで収録されているため、抽象的なパッドの中に同じ音色でコードやモチーフ、メロディを加えることができます。弦楽器はオクテット(ダブル・カルテット)とセクステット(2/2/1/1)という小編成でのサウンドです。

 

 これまでこうしたサウンド・デザイン系のライブラリーは大規模な編成だったり、リンドハースト・ホールやアビイ・ロード・スタジオのスタジオ1のようなゴージャスな響きのある部屋で録られたものがほとんどでした。Albion Solsticeのように、より音のフォーカスが合った“奏者一人一人の顔や息遣いの感じられるサウンド・デザイン・ツール”はとても新しく感じられます。このようなライブラリーを触ると、創立者のクリスチャン・ヘンソン氏やポール・トムソン氏が“ツールの選択肢を増やすこと”を重視していることが強く伝わってきますね。全体的に非常にドライなサウンドなので、たっぷりめのリバーブをかけてあげるととても気持ち良く使えるでしょう

 

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