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著名マスタリング・スタジオのセットアップをモデリング〜IK MULTIMEDIA Lurssen Mastering Console

IK MULTIMEDIA Lurssen Mastering Console 〜著名マスタリング・スタジオのセットアップをモデリング

 Reviewed by 
加納洋一郎
【Profile】ミキサーズラボを経てフリーランスのエンジニアとして活躍。LM.Cやシシド・カフカなどのアーティストの作品を手掛ける。また、映画『サマーウォーズ』などの劇伴や、Blu-rayのサラウンド・ミックスにも携わっている。

Mac/Windows版とiOS版の2種類のバージョンを備える

 IK MULTIMEDIAは、イタリアのモデナに本社を置く高品質な音源や音楽制作アプリ、および周辺機器に特化したブランド。エレキベース専用ソフト音源のMODO BASSや、コンパクト・モニターのiLoud Micro Monitor、マスタリング/ミックス用エフェクト・プラグインのT-Racks 5などが人気です。

 

 そんな中、2016年に発売して以来注目を浴び続けているのが、Lurssen Mastering Console。グラミー受賞作品を幾つも輩出しているロサンゼルスのマスタリング・スタジオ、ラーセン・マスタリングのセットアップ全体とワーク・フローをモデリングしたプラグイン・エフェクトです。

 

 使用環境としては、INTEL Core 2 Duo以上のプロセッサーを搭載したコンピューター(64ビット)と4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)が必要となり、通常のMac/Windowsでは問題無く使用できるでしょう。スタンドアローン・アプリケーションのほか、AAX/AU/VST2/VST3プラグインとして動作します。

 

 これらと同時に、APPLE iPhone/iPadなどにも対応したiOSバージョンがリリースされており、スタジオ・モニターだけでなく、普段持ち歩いているモバイル・システムで音楽を再生/確認しながら作業することも可能に(画面①)。“音楽”という、聴く環境にとらわれないメディアならではの特徴に合わせたところが興味深いです。

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画面① Lurssen Mastering ConsoleをiPadで立ち上げた画面。Lurssen Mastering Consoleは、64ビットにネイティブ対応したMac/Windows版のほか、iPhone/iPadで使えるiOS版も用意されている。これにより、スタジオだけでなくさまざまな場所での作業や確認が可能となった。画面は、波形表示に従ってオートメーションを描いているところ

さまざまな音楽ジャンルに最適化された、40種類のマスタリング・セットアップ

 実際にLurssen Mastering Consoleを立ち上げてみると、画面の上半分にはラーセン・マスタリング・スタジオののコンソール前の景色が体感できるかのようなスピーカーとデスクのイメージを見ることができます。

 

 画面の下半分には、視認性の良いVUメーター×2、メーター切り替えスイッチ、ステレオ/モノの切り替えスイッチ、入力レベルをコントロールできるINPUT DRIVEノブ、周波数が60/120Hz/3/6/10kHzで固定された5つのEQノブ(画面②)、これら5バンドEQをどれくらいの割合で上げ下げするかを決定するPUSHノブを搭載。至ってシンプルな操作子です。

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画面② 画面の下半分に搭載されている5バンドEQ。各ノブには周波数が固定されており、左から60/120Hz/3/6/10kHzとなっている

 使い方も簡単。スタンドアローンで使用する場合は調整したいオーディオ・ファイルをロードするだけ、DAWでプラグインとして使用する場合はマスターにインサートするだけでOK。Lurssen Mastering Consoleを通すだけで、もともと音源にあるミックス・バランスや質感を残しながらも、ピークを抑えたマスター・レベルにまで仕上げてくれます。

 

 さらに音色を変化させたい場合は、画面左上にある“STYLE”をクリック。すると、さまざまな音楽ジャンルに最適化された40種類のマスタリング・セットアップが一覧で表示されるので、ここからEDM/ヒップホップ/ジャズなど、自分の好みに合わせたものを選びましょう(画面③)。より速く、自分の求めるサウンドに近付くことができます。

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画面③ “STYLE”と呼ばれるボタンをクリックすると、ラーセン・マスタリングのエンジニアたちによって作成された40種類のマスタリング・セットアップの一覧が表示される。これらはポップ・ロック、アメリカーナ、ヒップホップ、ジャズ、クラッシックなど、幅広い音楽ジャンルに最適化されている

 画面の右上には、長方形が横に3つ並んだChain viewボタンがあり、これを押すとChain view画面が表示されます(画面④)。現在どのようなモジュールが、どのようなセッティングでチェインされているのかが分かるのです。

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画面④ 画面右上には、長方形が横に3つ並んだデザインのChain viewボタンをクリックすると現れる、Chain view画面。ここでは、現在のセットアップにどのようなモジュールが使われ、どのようなセッティングになっているのかを確認できる。個々のモジュールの入力ゲインやスレッショルドなどの調節を行うことも可能。5バンドEQの設定だけでなく、こうした微調整の内容もプリセット・ファイルとして保存しておくことができる

 例えば、どのくらいゲイン・リダクションしているのかを確認できたり、突発的で耳障りな高域を取り除くディエッサーや、ピークを抑えるコンプレッサーのスレッショルドを調整することも可能です。

 

 また、STYLEを変更すると、画面上部に表示されるチェイン構成や画面下部にある5バンドEQの設定も変化します。これらはそのたびに点灯するため、STYLEを変更する前後で“どこが変わったのか”を視覚的に把握することが可能です。チェインやEQ値を見て、マスタリングの技術を学ぶのも良いでしょう。

 

お気に入りのEQ設定や微調整の結果は、プリセット・ファイルとして保存することが可能

 マスタリングは、最終的なフォーマットに落とし込む重要な作業の一つ。なので、細かい調整も大いに施したいところです。実際にLurssen Mastering Consoleを使用していると、これら5バンドEQノブに固定されている周波数は秀逸で、非常に的を射た値だと感じます。恐らくこの5つの周波数は、幾度となくグラミー受賞作品を手掛けてきたマスタリング・エンジニアのギャヴィン・ラーセンとルービン・コーエンらが考え出した結果なのでしょう。

 

 もちろん、お気に入りのEQ設定やリコールのために残しておきたい微調整した内容は、画面右上にあるPRESETに保存することも可能です。各ノブの操作をオートメーションとして保存することもできます。

 

 最後は筆者なりの使い方を紹介しましょう。Lurssen Mastering Consoleはマスタリング用なのですが、筆者はドラムのバスや、ピアノ、アコギなどのトラックに使用することも。これらはピークを抑える目的で使っているのですが、レイテンシーが少ないので重宝しています。

 

 1980年代、メディアがレコードからCDへ進化したことに伴い、音楽を収める手法もカッティングからマスタリングへと移行しました。そして今や音楽はデジタル配信やストリーミング配信が主流となり、マスタリングは楽曲制作者自身が手掛けてリリースするということも当たり前の時代になってきたように思います。

 

 今回紹介したLurssen Mastering Consoleは、そういった時代の流れに応えるかのようなプラグイン。サウンドを大きく変えるのではなく、あくまでブラッシュアップする……そんな印象のLurssen Mastering Consoleは、CDのみならずデジタル配信用のマスタリングにもぜひ使ってみてほしい“魔法のツール”と言えるでしょう。クリエイターからエンジニアまで、幅広くお薦めします。

 

IK MULTIMEDIA Lurssen Mastering Console【マスター・エフェクト】

159.99ユーロ

 Requirements 
■Mac:OS X 10.7以降、INTEL Core2 Duoプロセッサーを搭載したコンピューター(64ビット)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)、APPLE Silicon CPUの場合はRosetta 2使用
■Windows:Windows 7/8/10、INTEL Core2 DuoまたはAMD Athlon 64 X2プロセッサーを搭載したコンピューター(64ビット)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)
■対応フォーマット:AU、VST2、VST3、AAX
■iOS:iOS 8.0以降