the engy『On weekdays』インタビュー【前編】〜人間味のあるグルーブや質感を出す方法を考え抜いた

the engy『On weekdays』インタビュー【前編】〜人間味のあるグルーブや質感を出す方法を考え抜いた

山路洸至(vo、g、prog/イラスト左上)、濱田周作(b/同右上)、境井祐人(ds/同右下)、藤田恭輔(g、cho、k/同左下)から成るthe engy(ジ・エンギー)。京都を活動拠点とし、バックグラウンドにロックを感じさせつつもR&Bやファンク、ダンス・ミュージックをアグレッシブに取り入れた作風で注目を集めている。7月にビクターからリリースされたメジャー1stフル・アルバム『On weekdays』について、制作のキー・マンである山路と藤田に取材し、アルバムの工程をひも解いていくとしよう。

Text:Tsuji. Taichi

ライブで演奏したときに面白くなるよう、バンドと打ち込みの配分を考える

関西のシーンでは、エレクトロニックR&Bスタイルのバンドは多いのでしょうか?

山路 ロック・バンドをやっていく中でシンセや打ち込みを取り入れ出したバンドが散見される感じで、僕らもそうでした。個人的にはSuchmosからの影響が大きいんです。ああいうバンドが出てきたときにブラック・ミュージック的なアプローチが周囲でも注目され始めたと思いますし、インスピレーションを受けた人たちも多かったんじゃないかと。

 

the engyがエレクトロニクスを導入することになったきっかけを教えてください。

山路 僕はリンキン・パークやレッド・ホット・チリ・ペッパーズが大好きでバンドをやっていたんですが、エド・シーランやチェット・フェイカー、X・アンバサダーズ、トゥエンティ・ワン・パイロッツなどに感化されて打ち込みを勉強し始めました。ロック然とし過ぎずにエレクトロニックな方へ落とし込んでいるバンドとか、トラック・メイカーでありながらバンド編成の音楽もやるような人を見て“こういうアプローチって面白いな”と思って。当初はKORG Gadget for iOSで打ち込みをやっていましたね。

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奈良にあるプライベート・スタジオ。山路洸至の祖母の家にしつらえたスペースで、DAWはPRESONUS Studio One、モニター・スピーカーはKRK RP7G4

実際に曲を作るとなると、バンド・サウンドと打ち込みの音を合わせるのは思いのほか難しいのでは?

山路 アレンジに関しては、バンドと打ち込みをどういう配分にすればライブで鳴らしたときに面白くなるかを考えながら作っています。だから“ここはギターに渡そう”とか“これは打ち込みの方が良い”みたいなすみ分けがポイントになるんです。音響的な面では、アナログのアウトボードが効いているのかもしれません。楽器の音も打ち込みも同じ回路を通るので、似た質感というか“におい”が付いて親和性が高まるような気がしています。いわゆる“音の近さ”の制御にも使えますし、プラグインで作ったサウンドも積極的にアウトボードへ通して質感を際立たせるようにしているんです。

 

バンド演奏と打ち込みのすみ分けには、何かコツがあるのでしょうか?

山路 メンバーのことを考えるんです。“これ弾きたいって言うやろな”とか“ここでこういうのを入れたいんちゃうかな?”という感じで。みんなには“いいね”って思いながら弾いてほしいので、そういう要素については楽器のパートとして入れたいなと。全員で鳴らしたときに、僕が作ったデモ以上のものが出てくることにもなりますしね。ただ、“曲の世界観を作るために必要な音”がエレクトロニックなものだったら、僕の方で打ち込んでおきます。

藤田 僕らはみんな音楽的なルーツがバラバラなんですが、山路君の作るフレーズやエフェクトからは各メンバーの趣向を汲んでいることが分かるんです。もちろん格好良いものを生み出してくれるし、とても信頼しています。

山路 メンバーが作ったものを却下することも結構ありますけどね……違う!って(笑)。

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オーディオI/OはRME Babyface Pro

MPC LiveとStudio Oneを使ってアイディアを具現化していく

山路さんのデモ制作の環境について教えてください。

山路 大阪の自宅の屋根裏部屋にスタジオっぽいスペースを設けているんです。サンプリング系のパートやドラムについては、基本的なアイディアを出すのにAKAI PROFESSIONAL MPC Liveを使っています。発想を形にするまでが、めちゃくちゃ速いんですよ。APPLE MacBook Proのトラックパッドよりも“波形に直接触っている感じ”でエディットや打ち込みが行えます。だからとりあえずはMPCで作っておいて、できたものをPRESONUS Studio Oneに移してから再編集したり、打ち込み直したりする。他方、ギターやベース、鍵盤などの旋律楽器は弾いて録音します。打ち込みで作っていたこともありましたが、その音が基準になってしまうと本チャンのレコーディングで楽器を弾く際に“なんだかイメージと違う……”ってことが起こりやすかったんです。

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曲作りの初期段階でアイディアを具現化するために活用しているサンプラーAKAI PROFESSIONAL MPC Live

DAWはStudio Oneなのですね。

山路 いつもエンジニアリングをお願いしているIkomanさんに“Studio Oneが合いそう”って言われて。僕はもともと機材に詳しかったわけではなく、むしろ機械音痴くらいの人間だったので、いきなりAVID Pro Toolsから入ると難しいかもねと。それで、ちょうどGadgetだけだと曲の展開を組みにくいとも思っていたので、Studio Oneを使い始めたんです。Ikomanさんは、Pro Toolsに加えてStudio Oneもお使いなんです。海外のトラック・メイカーにユーザーが多いようで、彼らの曲をミックスするときにソング・ファイルでやり取りできるから便利だそうで。僕も、曲をIkomanさんに送るときはソング・ファイルのままで渡しています。パラデータを書き出す必要が無く、MIDIで打ち込んだパートもそのまま渡せるからスムーズなんです。

 

Studio Oneが自身のスタイルに合っているのですね。

山路 合っていると思います。ABLETON Liveも持っているんですが、セッションビューとアレンジメントビューを行き来するより、1つの画面で完結するStudio Oneの方が自分にとっては何かと速くて。ドラッグ&ドロップ・メインで操作できるのも良いし、“これをやりたい”って思い付いたところからのタイムラグが少ないんです。アイディアをテンポ良く形にしていけるのが好きですね。

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ヘッドフォンはFOCAL Clear Professionalを使用

 

インタビュー後編(会員限定)では、 引き続きプライベート・スタジオの機材を写真とともに紹介しつつ、アルバム制作の音作りに迫ります。

 

Release

『On weekdays』
the engy
ビクター/CONNEXTONE:VICL-65517

Musician:山路洸至(vo、g、prog)、濱田周作(b)、境井祐人(ds、prog)、藤田恭輔(g、cho、k)
Producer:the engy
Engineer:Ikoman、山路洸至
Studio:プライベート、GABU