MACKIE. Thrash212 レビュー:さまざまな設置方法に対応する最大出力1,300WのPA用スピーカー

MACKIE. Thrash212 レビュー:さまざまな設置方法に対応する最大出力1,300WのPA用スピーカー

 とにかくシンプルな構造のPA用パワード・スピーカーMACKIE. Thrash212。誰でも簡単にセットアップして使用でき、時間の無い現場でもトラブルが起きにくいというメリットもある。そのシンプルな形状と、デュアル・アングル・デザインにより、さまざまな方法での設置が可能だ。スピーカー面にあるロゴは文字が無く、設置向きに合わせて回転可能とのこと。それでは詳細を見ていこう。

モニターとメインどちらにも対応する

 Thrash212は1,300WのクラスDアンプを搭載するパワード・スピーカー。12インチ径ウーファー+1インチ径コンプレッション・ツィーターという構成になっている。インプットはXLR/TRSフォーン・コンボ入力端子×2を備え、マイクも直接入力可能だ。ロータリー・フェーダー(ノブ)を回すだけというシンプルな操作性なので、プロでなくても簡単に使用できるだろう。ノブは適度に重みのある触り心地で、本番や転換時に誤って動いてしまうということも起こりにくそうだ。出力から別のサブウーファーなどへ接続することも可能なので、イベントなどにおいてモニター・スピーカー、メイン・スピーカーどちらの用途でも使用できる。ライン入力にも対応するため、DIのパラ・アウトの出力を使用して、キーボードやシンセなどの楽器アンプ代わりとしても使用しやすいだろう。非常に多様性のあるスピーカーだ。

 

 PAエンジニアとしては、スピーカー側でEQをかけたり、レベルを変えたりという概念が基本的には無く、それらはミキサー上でコントロールするというのが通例だ。なので、本機のように内蔵EQなどを省いた設計は明解だし、入力部のシンプルさと数を抑えた操作子はトラブル防止にもなって良い。最近のデジタル・ミキサーには、さまざまな機能が備わっているので、スピーカー側はこのくらいシンプルで全く問題無いと思う。先述の通りTRSフォーンでの入力も可能なので、コンパクトなアナログ・ミキサーなどとの接続も容易だろう。また、ツマミに細かい数値が明記されていない点も気に入った。数値が記載されていると、ついつい数字を見て判断してしまう。取るに足らない細かい部分が気になってしまうということが防げるのはメリットだと思った。また、Thrashシリーズには熱対策保護回路サーマル・リミッターを搭載しているとのこと。こちらもシンプルな構造と併せて、余計なことを考えずに使用できるポイントになりそうだ。

MACKIE. Thrash212のリア・パネル

リア・パネル。端子はマイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)×2、ミックス・アウトを備える。上部にあるノブは左からch1のゲイン、ch2のゲイン、メイン・ボリューム

 パワード・タイプのスピーカーはパッシブ・タイプに比べて重くなりがちなので、持ち手が4つ付いているのも意外と良い。取手は素手で持っても滑りにくく、スピーカー・スタンドへのマウントの際も安心だ。メーカーのWebサイトには“戦車級に丈夫!!!”との記載もあり、頼もしい。とは言えThrash212は特別重くはなく、むしろ他社の同等サイズのパワード・スピーカーに比べ軽量に感じた。スピーカーの縦方向が長めの作りなので、ウェッジ向きに置いた場合、より安定して設置できるだろう。

 

 そして、最も大きなメリットは1,300Wの出力で信じられないくらい手ごろな価格だ。他社製で同等のサイズのスピーカーだと1,000W程度がよくある数値で、価格ももう数万円高くなる(他社が異常に高いわけではない)。

低域は広がり過ぎず高域はピーキーでない

 それでは実際にサウンドを聴いてみよう。まずドラム、ギター、ベース、ピアノ、ボーカル、コーラス2人というシンプルなバンド編成において、コーラス2人用のモニターとしてリハーサルでテストした。

 

 低域は広がり過ぎず、高域はピーキーでなくさらっとしていて耳障りでないという印象。モニターしやすい音色を作りやすいと感じた。素直で色付けが無く、原音を把握しやすい。こういった扱いやすいサウンドにはMACKIE.らしさを感じる。また個人的に高域がピーキーでないことは、“ブースト方向のEQがしやすいこと”という感覚がある。マイナスよりもブースト方向のEQの方がより効果的に感じられることが多いので、個人的には好印象だ。また特に声の帯域は音が作りやすく、ハウリングしにくい印象。アップライト・ピアノも聴き取りやすい音だったので、アコースティック楽器の音作りに苦労しないように思った。

 

 続いて能楽堂での舞台のリハーサルで、メイン・スピーカーの1つとして、また舞台奥に設置するスピーカーとしてテストした。ドライな音場空間だったが、1,300Wという高出力からなのか、余裕のあるサウンドでダイナミクスが付けやすい。音作りが想像しやすい印象を受けた。

 

 Thrash212は、機能に関しては特記することが無いくらいシンプルさが極まったスピーカーだ。実に幅広いシチュエーションで簡単に誰でも使用できるだろう。何も考えずに購入しても、さまざまな使い方を期待できる。シンプルで手ごろな価格なので、ある程度の台数をそろえてバンドなどで自分たちで使用するといった用途にも向いていると感じた。また、同社のサブウーファーと一緒に鳴らせば、メイン・スピーカーとしてもかなり迫力あるサウンドが得られるのではないかと思う。何も考えずに選べて、多様な使い方に対応する機材というのは意外と少ない。今後さまざまな場面で出会しそうなスピーカーである。

 

岡直人
【Profile】フリーランスとして活動するサウンド・エンジニア。君島大空、Tempalay、中村佳穂、ROTH BART BARONなどのライブPAを手掛けるほか、舞台の音響や舞台音楽の制作もこなす。

 

MACKIE. Thrash212

オープン・プライス

(市場予想価格:33,550円前後/1台)

MACKIE. Thrash212

SPECIFICATIONS
▪形式:2ウェイ・パワード ▪スピーカー構成:12インチ径ウーファー(低域)+1インチ径コンプレッション・ツィーター(高域) ▪内蔵アンプ:1,300W、クラスD ▪周波数特性:52Hz〜20kHz(−10dB) ▪最大音圧レベル:125dB ▪外形寸法:375(W)×669(H)×313(D)mm ▪重量:16.51kg

製品情報