上位機の技術を採用しつつコストを抑えたPA用スピーカー「MACKIE. SRT210」レビュー

上位機の技術を採用しつつコストを抑えたPA用スピーカー「MACKIE. SRT210」レビュー

 MACKIE.から今年1月に発表されたPA用パワード・スピーカー、SRTシリーズ。SRM|V-Classシリーズなどの上位機種の技術を採用しながらコスト・パフォーマンスを重視し、低域ユニット10インチ/12インチ/15インチ径の2ウェイ・モデルと18インチ径サブウーファーの計4機種をラインナップしています。今回は10インチのSRT210を試してみたので、早速レビューしていきましょう。

音の明りょう度を高めるDSPモジュール。バランスへの悪影響を抑える保護回路

 SRTシリーズは、どの機種も最大出力1,600W(低域1,400W+高域200W)のクラスDアンプを搭載。独自のDSPモジュール“Advanced Impulse”も特徴で、ホーンの鳴りやコーン・ドライバーによる高域の濁りなど、スピーカーの構造に起因する音響的な問題を解決し、クリーンで明りょうな音質を実現するといいます。高域ドライバーの効率を高めるというカスタム設計のSYM-Xホーン、4chの内蔵デジタル・ミキサー(2モノラル+1ステレオ)、音のバランスへの悪影響を抑えるリミッター&保護回路、SRT Connectアプリ(iOS/Android)によるBluetooth経由のリモート・コントロールなども魅力です。

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背面には、ch1/2のマイク/ライン・イン(XLR/フォーン・コンボ)とダイレクト・アウト(XLR)、レベル・ツマミのほか、ch3/4のライン・インL/R(ステレオ・ミニ)やミックス・アウト(XLR)などを装備。それらの上にはレベル・インジケーターやミキサーの諸機能を扱えるロータリー・エンコーダーがスタンバイ

 このSRT Connectアプリは、シンプルな操作画面でミキサーのチャンネルEQやハイパス・フィルター、音量などを調整できるものです。基本的に、各チャンネルの必要十分なコントロールが一つの画面に集約されているため、初めての方にも分かりやすいと思います。またスピーカーのディレイ・タイムを設定できるのもポイントが高く、現場規模に合わせた“作り込み”の面でも懐の深さを感じさせます。

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内蔵ミキサーのコントロール用アプリSRT Connect。2モノラル+1ステレオの各チャンネルを視認性良く操作できる。フェーダー上部に映るのはタイム・アラインメント・ディレイのコントロールで、ディレイ・タイムとスピーカー〜聴取位置の距離を表示

 Bluetoothはリモート・コントロールだけでなく、音声のワイアレス・ストリーミングにも使用可能。例えば、スマートフォンで再生したBGMを無線でSRTシリーズのミキサーに立ち上げて鳴らせるなど、イベント時に便利でしょう。

声の高域成分の聴こえ方が非常に印象的。大音量時も音のバランスが崩れにくい

 SRTシリーズはポータブルPAシステムとしての用途も見越しているようなので、今回は小規模イベント・スペースやインストア・ライブを想定し、シンプルなセットでSRT210を試しました。音声ソースは女性ボーカルとグルーブ・ギア(ROLAND Verselab MV-1)、場所は京王堀之内のライブ・ハウスtime Tokyoです。

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スタンディングで140名を収容するライブ・ハウス、time TokyoでSRT210をテストする筆者。1台12.8kgなので持ち運びやすく、可搬性にも優れている。

 トラックは、すき間が多めのドラム・パターンやエレクトリック・ピアノが入ったものを使用。まずはSRT210の内蔵ミキサーをフラットな状態にし、音量を徐々に上げていきます。ポータブル・システムとしてはかなり大きな音量にしたところで、ミキサーのチャンネルEQを操作。驚いたことに、相当な音量でありながらトラック全体の周波数特性が破たんしにくく、特にエレピは不快な持ち上がり方がしなかったので、その時点で興味をそそられました。

 

 次に、トラックに合わせてボーカルに参加してもらい、実際の小規模ライブさながらにパフォーマンスをしていただきました。ボーカルはトラックとミックスされた状態でも抜け感が保たれ、全体の音のまとまりが崩れません。また、声の高域成分がまっすぐに飛んでくるような感覚も非常に特徴的です。試しに出力を1,600W付近まで上げてみたところ、やはり出音全体のバランスが大きく崩れることはなく、低域10インチというサイズを考えると、その印象をはるかに上回る余裕を感じました。現場でのフレキシブルな音量増減にも対応し得る挙動は安心感を与えてくれます。なお、SRT210の重量は12.8kg/1台。持ち運ぶ際にも取り回しが楽で、可搬性に優れていると思います。

 

 SRT210を使用する規模やシチュエーションはさまざまかと思いますし、今回はtime Tokyoでのチェックとなりましたが、例えばサブステージとしてのDJブースや小売店でのインストア・イベントなどでも十分な音量感が得られるでしょう。

 

 またこのサイズのスピーカーだと、大音量時に音のバランスの崩れが気になるものですが、不自然さを抑えつつ大きく鳴らせるのがSRT210の魅力。特に“もう少し音量が欲しいんだけど、バランスが崩れてしまうからなぁ……”という経験のある方には、心強いのではないでしょうか。そして、高域のバランスの良さや透明感も出色。楽器の演奏者であれば、客席に立ってプレイしてみると、そのクリアでパワフルなバランスに多少なりとも驚くことと思います。

 

荻野創太
【Profile】フリーランスのサウンド・エンジニア。京王堀之内のライブ・ハウスtime Tokyoのほか、日本各地のライブ・スペースや商業施設などで音響を手掛けている。

 

MACKIE. SRT210

オープン・プライス

(市場予想価格:66,990円前後/1台)

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SPECIFICATIONS
▪形式:2ウェイ・パワード型 ▪スピーカー構成:10インチ・ウーファー(低域)+1.4インチ・コンプレッション・ドライバー(高域) ▪クロスオーバー周波数:2kHz ▪内蔵クラスDアンプ出力:1,400W(低域)+200W(高域) ▪周波数特性:47Hz〜20kHz(−10dB)、57Hz〜20kHz(−3dB) ▪指向性:90°(水平)×60°(垂直) ▪最大音圧レベル:128dB SPL ▪チャンネルEQ:80Hz/2.5kHz/5kHz(いずれも±12dB)の3バンド+80〜150Hzのハイパス・フィルター ▪スピーカー・モード:FLAT/LIVE/SPEECH/CLUB/MONITOR ▪ディレイ:0〜100ms ▪外形寸法:384(W)×584(H)×328(D)mm ▪重量:12.8kg

製品情報

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