「MACKIE. SRM210|V-Class」製品レビュー:DSPによる独自の音響チューニングを施したPA用パワード・スピーカー

MACKIE.のPA用パワード・スピーカー、SRMシリーズのアップデート版となるSRM V-Classシリーズが発売

 MACKIE.のPA用パワード・スピーカー、SRMシリーズのアップデート版となるSRM V-Classシリーズ。設計や機能を一新し、ウーファー径10/12/15インチの2ウェイ・モデルをラインナップしている。今回は10インチのSRM210|V-Classを実際に試し、レビューしていこう。

内蔵ミキサーは2モノラル+1ステレオの4ch
チャンネル/マスターEQやディレイも搭載

 SRM V-Classシリーズのエンクロージャーは、SRMシリーズの丸みを帯びた形状から鋭角的でスマートなデザインに変更されており、側面はマットな質感だ。素手で持っても滑りにくくなっている。前面のグリルは見るからに頑丈で、破損などの心配無く運搬できそうだ。グリル上下にある横長(5cmほど)のLEDは、スピーカーのオン/オフを分かりやすく知らせてくれる。まぶしくない明かりなので、点灯していても気になりにくい。これは意外と重要な部分だと感じるし、ライトのカラーを変更できるのもうれしい。

 

 底面にはスピーカー・スタンド用のソケットが2つあり、それぞれ0°と−7°に作られているため設置角度の調整が可能。ウェッジ・モニターとしても機能し、2台使う場合はミラーで設置することもできる。指向性は90°(水平)×60°(垂直)だ。背面には内蔵の4chデジタル・ミキサーの入出力やコントロールがあり、マイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)×2と両者のダイレクト・アウト(XLR)が装備されている。また、これらとは別途ライン・インL/R(ステレオ・ミニ)もあり、オーディオ再生機器などの入力が容易だ。各チャンネルには入力ゲイン・ノブが用意され、フェーダー(出力音量)はプッシュ機能付きのロータリー・エンコーダーで調整可能。入力ゲイン以外のあらゆるコントロールをこのエンコーダーで行う仕様のため、各種パラメーターの設定が知らない間に変わってしまうようなことは起こりにくい。そのほか各チャンネルには3バンドのインプットEQ(80Hz/2.5/5kHz)、ch1と2にはサブウーファー併用時に向けたハイパス・フィルター(20〜150Hz)が搭載されている。

床置きしたところ。底面(写真右)には2つのスタンド用ソケットが見える

  各チャンネルのサミングの後段には、タイム・アラインメント用のディレイがスタンバイ。0〜100msの連続可変となっており、ディレイ・タイムに合わせてスピーカーと聴取位置の距離が表示(単位はmとft)されるので、素早く視覚的に設定できる。ディレイの後ろにはメイン・フェーダーを挟み、SPEAKER VOICINGというプリセットEQが控えている。Flat、Live、Speech、Club、Monという5種類の設定のほか、ロケーションをInside(屋内)/Outside(屋外)の2種類から選択可能。種類の豊富さに加え現場で即座に使用できるのも魅力で、音楽以外の用途でも非常に役立つだろう。そしてSRMV-Classシリーズは2台をリンクさせることができ、ステレオ・モードとデュアル・ゾーン・モードの2種類を選んで使える。

 

 内蔵ミキサーの機能は、iOS/Android用の無償アプリSRM-ConnectでBluetoothを介し操作することも可能。ミキサー自体はシンプルで非常に分かりやすく、各機能に素早くアクセスできる。この“必要以上に細かく設定できないところ”が、むしろちょうど良いと感じる。

背面にある内蔵ミキサーの入出力&操作子。ch1と2にはマイク/ライン・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)とダイレクト・アウト(XLR)があり、ch3/4はライン・インL/R(ステレオ・ミニ)を備える。ch3/4にはBluetoothオーディオの立ち上げも可能だ。全チャンネルにゲイン・ノブがあり、その上部にはミキサーの諸機能を扱えるロータリー・エンコーダーがスタンバイ。写真右下にあるのはミックス・アウト(XLR)だ

内蔵ミキサーのコントロール用アプリSRM-Connect。フェーダー上部に映るのはタイム・アラインメント・ディレイのコントロールで、ディレイ・タイムとスピーカー〜聴取位置の距離が表示されている

2〜4kHzにピークを感じず聴きやすい音
低域はパワフルながらブーミーになりにくい

 今回試したSRM210|V-Classは外形寸法384(W)×584(H)×328(D)mmで、重量14kg。10インチ・ウーファーと併せて1.4インチのコンプレッション・ドライバーを備え、出力2,000W(低域1,800W+高域200W)のクラスDアンプを積んでいる。リハーサル・スタジオに持ち込み、スタンド設置&ウェッジ想定の床置きでテストしてみた。

 

 まずは楽曲ソースを鳴らしてチェック。高域が聴きやすく、アコースティック・ギターやリバーブが心地良く鳴っていたのが印象的だ。耳障りもしくは無駄な成分を排するという“Advanced Impulse DSPテクノロジー”によるチューニングの効果と思われる。これはマイクをつないでチェックしたときにも顕著で、大音量を出しても高域が部屋の反射の影響を受けにくいように感じた。次にエレアコのギターをつないで演奏/モニタリングしてみたところ、やはり高域のまとまりや中域のすっきりした感じが出音にマッチしていて、楽器用アンプ代わりの使用においても期待が持てそうだ。

 

 そして録音済みのギター、ベース、ドラム、ボーカルをそれぞれ個別に再生。PA用スピーカーにありがちな2〜4kHzのピークが奇麗に収まっている。ドラムのシンバル類がうるさく聴こえず、低域についてはベースが心地良くお腹辺りで体感できた。総じてMACKIE.らしいまとまりの良い音だ。高域にピーキーな部分が無く、さらっとしていて耳なじみが良い。中域は程良く調整されている雰囲気。低域もブーミーにならず、片側2台の対向を想定し横に並べたときも、音像が崩れることは無かった。床置きで鳴らす際は、SPEAKER VOICINGがFlatでもハウリングを起こしづらい音だと感じる。

 

 筆者はSRMシリーズをサブウーファー付きで使ったことがあり、サイズ以上に元気なサウンドという印象があった。SRM210|V-Classでも低音のパワフルさは損なわれていないと思うので、さまざまな音楽現場で安心して使えるパワー感/ライブ感がある。また設定変更や設置がしやすく、初期段階の音作りもスピーディにこなせるスピーカーだと感じた。

 

岡直人
【Profile】フリーランスとして活動するサウンド・エンジニア。君島大空、Tempalay、中村佳穂、ROTH BART BARONなどのライブ PAを手掛けるほか、舞台の音響や舞台音楽の制作もこなす。

 

MACKIE. SRM210|V-Class

オープン・プライス

(市場予想価格:93,720円/1台)

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SPECIFICATIONS
▪形式:2ウェイ・パワード型 ▪スピーカー構成:10インチ径ウーファー+1.4インチ径ポリマー・コンプレッション・ドライバー ▪クロスオーバー周波数:2kHz ▪クロスオーバー・フィルター:24dB/oct ▪周波数特性:45Hz〜20kHz(−10dB) ▪指向性:90°(水平)×60°(垂直) ▪最大音圧レベル:131dB SPL ▪内蔵クラスDアンプ出力:2,000Wピーク(低域1,800W+高域200W) ▪内蔵プロセッサー:10種類のマスターEQ、サブウーファー用HPF(20〜150Hz連続可変)、3バンドのインプットEQ(80Hz、2.5/5kHz/±12dB)、最長100msのディレイ ▪外形寸法:384(W)×584(H)×328(D)mm ▪重量:14kg

製品情報