2018年発売のUno Synthは、コンパクトかつ簡単操作の本格的なモノフォニック・アナログ・シンセサイザーであり、その開発には数々のシンセ開発に参加し、自らも音楽家として活躍するエリク・ノーランダー氏が携わって、細部まで妥協を許さない設計が施されていました。その核心部分である“完全アナログ回路によるコンパクトなシンセ”という思想は、2021年に登場したUno Synth ProとUno Synth Pro Desktopにも継承され、2VCOから3VCOへの変更やデュアル・アナログ・フィルターの搭載などが話題となりました。今回のUno Synth Pro Xはその基本スペックを踏襲しつつより大胆に進化しています。
多くのコントロール・ノブで各パラメーターへダイレクトにアクセス可能
まずは大きく変わった外観ですが、UNO Synth Proに搭載されていた鍵盤の代わりに、ミニ・キーボード・ボタンとステップ・シーケンサーの16個のボタンが配置されました。また多くのコントロール・ノブがパラメーターへのダイレクトなアクセスを可能にしていることから、本来UNO Synthが持っていた音作りのポテンシャルをより発揮できるユーザー・インターフェースをついに獲得したことがうかがえます。
リア・パネルの接続端子を見ると電源端子があり、同梱の電源アダプターで動作する仕様ですが、コンピューターとのMIDI送受信用USB端子からの給電も可能で、実際に動作しました。ですが、純粋にアナログ・シンセである側面からも安定した電源供給は必須と考えられ、電源アダプターでの使用が望ましいと考えられます。そのほか、モノラルですが外部オーディオ入力があり、本機の音源とミックスしたり、フィルターやエフェクトへのルーティングが可能です。
オーディオ出力はステレオ1系統で、ヘッドフォンやMIDI入出力も装備。うれしいことにCV/GATEのIN/OUT端子も2系統用意されています。本機シーケンサーのノート情報やLFOをCV出力して、手持ちのモジュラー・シンセなどに送ることができますので、外部オーディオ入力と合わせた音作り、トラック作りの可能性がグッと広がります。
波形をモーフィング可能な3基のオシレーター
それでは実際に触っていきます。まずオシレーターは3基のウェーブ・モーフィング方式で、三角波、ノコギリ波、パルス波といった基本波形を単純に選択するのではなく、“間の波形”の可変領域が存在し(パルス波は98〜50%の間でPWMが可能)、LFOやベロシティなどで波形をモジュレートできます。そのサウンドは“原初のシンセ”とでも表現できるような、荒々しさすら感じる攻撃的な印象。“柔らかく温かみのある”などと表現されがちなアナログ・シンセですが、本機はフィルターやエフェクトなどをすべてフラットにしていても、前に出てくる存在感の強さがあります。フィルターで音作りしがいある倍音豊かなオシレーターと言えるでしょう。
また、Uno Synth Pro Xは基本的にモノフォニックですが、プリセットをチェックすると、明らかにポリフォニックなシーケンス(3和音)などが収録されていました。これはなぜかと言うと、VOICEモードでPARAPHONICを選択すると、3基の各オシレーターへ個別に演奏情報を送ることが可能で、3ボイス演奏が行えるのです。
そのほかオシレーターで筆者が注目したのはTUNEノブ。中央付近ではいわゆるFINE TUNE(±100cent)をコントロールするために高解像度で可変し、ある領域を超えると半音単位のCOURSE TUNEへと切り替わります。±2オクターブの可変領域の中で大胆なピッチ・チェンジと他オシレーターとのデチューンを一つのノブで高度に実現した仕様です。
オシレーターに対して倍音変化を与えるモジュレーションも豊富で、オシレーター・シンクはもちろん、リング・モジュレーション、FMも可能。独立したホワイト・ノイズ・ジェネレーターもあり、音作りの素材に不足は全くありません。
フィルター部は直列/並列をルーティングできるデュアル仕様で、フィルター1はハイパスとローパスを備えたOTAベースの2ポール仕様。フィルター2は2/4ポールを選択可能なSSI製チップのローパスです。そのかかり具合は申し分なくスムーズで、アナログのアドバンテージを最大限に感じ取れます。また、フィルター2ではレゾナンスを上げて自己発振も可能。過激な倍音をいとも簡単に演出できます。MASTERセクションのDRIVEとの相乗効果で音作りの幅もかなり広いと感じました。フィルター・リンク機能により双方のカットオフやレゾナンスの同時コントロールも行え、これはライブ・パフォーマンスでも重宝するでしょう。
3エンベロープのうち1基はアサイナブル
エンベロープは3基で、ENV1はフィルター、ENV2はアンプに固定され、ENV3はモジュレーション・マトリクスでデスティネーションを選択できます。LFOも2基あるのでモジュレーションのソースが足りないと感じることはほぼないでしょう。各エンベロープはアタックとディケイ間をループ可能。現代的な演出を期待できそうです。なお、モジュレーション・マトリクスは実機でも操作できますが、Mac/Windows用エディター・ソフト、UNO Synth Pro X Editor上での作業が便利です。このソフトではモジュレーション・マトリクス・ページ以外に、エフェクト・ページも用意されていて編集がはかどります。ライブラリー管理が可能なのもありがたい機能です。
エフェクトはモジュレーション、ディレイ、リバーブの3カテゴリーを同時使用できます。これらはデジタルですが、センドとしてルーティングされるので、信号経路は常にアナログのままであることがマニュアルに明記されています。
本機では、ステップ・シーケンサーと組み合わせて使用することを想定したBASSLINEモードが搭載されたことも大きなトピック。これは往年のベース・マシンの挙動を再現するだけでなく、本機のオシレーターやフィルター、豊富なモジュレーションなどは保持したまま、フィルターのカットオフ制限やエンベロープの簡素化、アクセントとの相互作用によって伝説のベース・マシンのフィーリングを反映できます。
ここまで紹介した以外にも、本機には豊富なモードを持つアルペジエイターやノブのオートメーションも可能な64ステップのシーケンサーなどがあります。コンパクトな筐体にこれほどの多機能を詰め込んだアナログ・シンセは他に類を見ないのではないでしょうか。まさに、今の時代にアップデートされたアナログ・シンセと言えるでしょう。ぜひコンピューターや外部モジュラー・シンセなど、自分のシステムに組み入れてオリジナルのサウンドを奏でてください。
深澤秀行
【Profile】シンセサイザー・プログラマー/作編曲家。アニメやゲームのサントラ、作品のリミックスまで幅広く手掛け、「やのとあがつま」やモジュラー・シンセ・ユニット「電子海面」のメンバーとしても活動。
IK MULTIMEDIA Uno Synth Pro X
オープン・プライス
(市場予想価格:85,800円前後)
SPECIFICATIONS
▪シンセ構成:3VCO/2VCF/1VCA/3ENV/2LFO ▪外形寸法:333(W)×50(H)×150(D)mm ▪重量:800g