AUSTRIAN AUDIOの世界 ~現代性と普遍性を兼ね備えるプロダクツ~

AUSTRIAN AUDIOの世界 ~現代性と普遍性を兼ね備えるプロダクツ~

オーストリアのウィーンで2017年に誕生したブランド、AUSTRIAN AUDIO。ビンテージ機器に根差した普遍性を有しつつ、現代にマッチするマイク製品で瞬く間に注目され、最近はヘッドフォンも手掛けている。本企画では、CEOマーティン・サイドル氏(上の写真)へのインタビューをお届けするとともに、製品のユーザー・レポートも展開。AUSTRIAN AUDIOが、なぜプロのエンジニアやアーティストから人気を博すのか紐解いていく。

Photo:Hiroki Obara(マーティン・サイドル氏、CKR12、3Dポップ・ノイズ・ディフューザー)
Translation:Mariko Kawahara(マーティン・サイドル氏インタビュー)

 

CEOマーティン・サイドル氏が語るブランドの理念と挑戦

AUSTRIAN AUDIOのCEOマーティン・サイドル氏

“往年のアナログ・サウンドを賞賛しつつも、今のワークフローに合ったものを作りたい”

 AUSTRIAN AUDIOのCEOマーティン・サイドル氏は、もともとシンガー・ソングライターとして音楽の道に入り、ウィーンの音楽大学ではサウンド・エンジニアリングを学んだ。商業スタジオでの勤務経験もあり、自らの半生を「音楽や音楽のテクノロジー、そしてレコーディングだらけだった」と振り返る。本稿では、サイドル氏の言葉の数々をお伝えしよう。

CK12の元デザイナーがサポート

 「かつての私の目標は、自分の音楽でスターになることでした。その一方で、バンドの録音も大好きだったんです。音楽で生きていきたいなら、自分のプロジェクトだけでなく、さまざまなことをやらなければなりません」と語るサイドル氏。音楽活動やバンドのマネージメントを経て、プロ・オーディオ機器の世界に入ったのは1998年。AKGに始まり、同じハーマン・インターナショナル傘下のJBLやMIDASを渡り歩いた。2010年代の中頃にハーマンが車載用オーディオ機器に注力しはじめると、プロ・オーディオへの熱意を抱き続けていたサイドル氏は独立を決心。元同僚たちに声を掛けて、2017年にAUSTRIAN AUDIOをスタートさせる。

 「ブランド・コンセプトは明確で、音響工学の遺産や伝統を維持しつつ、現代のワークフローにマッチする製品を生み出すことです。音楽制作や録音の方法は、この20年で大きく変わりました。今のポピュラー音楽の過半数は、もはや商業スタジオでは作られていないと思います。居間でも外出先でも、はたまたスマートフォンでも打ち込みや録音が可能ですし、素材はベッドルームのDAWで構築されます。ツールはフレキシブルでないといけません。往年のアナログ・サウンドを賞賛しながらも、全員がスタジオに集まっていた頃とは違う、今のワークフローに合ったものを作りたいのです。我々は、その思いを最初、OC818として具現化しました」

 OC818は、AKGの伝説的なカプセルCK12を基に設計した“CKR12”が備わるコンデンサー・マイク。専用プラグインのPolarDesignerを併用して録音後に指向性を変えられるほか、スマホ用のアプリPolarPilotから指向性や本体ローカット/PADのリモート・コントロールも行える。

 「伝統の部分からお話しすると、我々は1970年代以前のCK12の音をリデザインしたかったのです。ありがたいことに、CK12のオリジナル・デザイナーからサポートを受けることができました。彼は今、94歳で、CK12に着目しながらオーストリアで活動している我々に興味を持ってくれたのです。カプセルの素材はCK12のようなブラスではなく、品質と生産性を高めるためにセラミックを採用しています。セラミックは絶縁体なので、長く歌った後、カプセルに湿気がたまってもリングと電極の間に電気が通らず、シューシューという異音が発生することもありません。これは特許取得済みの技術で、AUSTRIAN AUDIOだけができることなんです。次に、現代のワークフローへマッチする部分について。録音後にプラグインで指向性を変えられるため、録りに使う部屋の特性がよく分からない場合に役立ちます。リモート・コントロールはスマホ・アプリとBluetoothレシーバーOCR8(別売)を併用して行い、指向性を255段階でリアルタイムに調整できる上、設定を保存することが可能。これはOCR8がコントロール信号を電圧に変換し、OC818のアナログ回路の設定をリコールする仕組みです」

ミューズのような著名バンドも使うマイク

 OC818のOCは“Open Condenser”の略で、独自の技術であるオープン・アコースティック・テクノロジーの採用を意味している。この技術は、カプセルと筐体の接点を最小限に抑えることで、音の回折や不要な反射/共振を抑制するもの。名称に“O”を冠する製品は、どれもオープン・アコースティック・テクノロジーをベースとしており、一貫してオープンなサウンドを実現している。

 「OC818は各周波数帯域を不足なく収められるので、録音後、いかようにも調整できます。AUSTRIAN AUDIOのスタジオ用マイクは、どれもOC818と同じ方向性なのです。そして、オープン・アコースティック・テクノロジーのポリシーをステージにも拡張すべく開発したのが、OC707やOD505、OD303といったライブ用のマイクです。例えばアクティブ・ダイナミック・マイクのOD505。ODとは“Open Dynamic”の略で、ハウジングからの反射音がカプセルに達するのを抑えるオープンな構造を指しています。反射は、正確な単一指向性や超指向性を作る上で、妨げになります。オープンであればあるほど指向性の精度を高めることができ、ハウリングを減らせるのです。しかもOD505は、内蔵のアクティブ回路で6~7dB増幅してから出力するため、ハウリングへの耐性がより高いと言えます。また、特許取得済みのウィンド・アブゾーバーでカプセルから空気を引き離すことにより、ポップ・ノイズを低減しているのも特徴です。分厚いパッドを使った風防ではありません。ハンドリング・ノイズは、デジタル・フィルタリングなどを使用せず、2つのカプセルの連携で取り除く仕組みです。無論、落としてもいいように、筐体は頑丈に作っています。我々のライブ用マイクは、ミューズのようなバンドの大規模なツアーで使われているんですよ」

 ウィーンでのハンドメイドも魅力。「製品の85%ほどはウィーンで作っています」とサイドル氏は説明する。

 「まず設計は、すべてウィーンで行っています。部品はいろいろなところから調達していて、電子部品やチップはアジア、プリント基板アセンブリはオーストリアのグラーツから仕入れています。ドイツやオーストラリアから入手するものもありますね。OC818、OC18、OC707、OC7、CC8などはウィーンで組み立てています。そして全製品をウィーンでチェックし、梱包しているのです」

応答良く低域を再現するヘッドフォン

 続いてモニター・ヘッドフォンの話題に。Hi-X65、Hi-X60、Hi-X55、Hi-X50といった製品をそろえており、いずれもポイントは「設計の端緒となったスペシャルなドライバー」だそう。

 「ラウド・スピーカーのドライバーと似ていて、コイルが高可動域(ハイエクスカーション)になっているので、標準的なヘッドフォン・ドライバーの2倍も動くのです。これにより低域の再現性を高めています。ドライバーを大きくするという方法もありますが、大きくすればするほど動きが遅くなって、レスポンスも鈍くなってしまう。我々が採用しているのは44mm径のものですが、可動域を倍にすることで、レスポンスの良い正確な低域再現を行っているのです。その上で、用途を想定しながら各機種を設計しています。Hi-X65は開放型で、ステレオ・フィールドが広いため、ミキシングやマスタリングに最適。ただ、音が漏れてしまうので、録音時のモニタリングには向きません。だから密閉型のHi-X60を用意しているのです。Hi-X55は、音を分析的に聴くのに有用です。1.5~3kHzに特徴を持たせていて、声優の話し声からミックスのミスまで、さまざまなディテールが捉えられます。Hi-X50はオン・イアの機種で、着脱しやすいためDJモニターのような用途に適しています」

 ユニークな技術と実用性を兼ね備えるAUSTRIAN AUDIOの製品。「コンパクトな会社なので、誰もがアイディアを持ち寄れるんです」と、サイドル氏は続ける。

 「定例ミーティングでは、みんなが製品に関するアイディアを出し、実現可能性を話し合います。重要なのは、従業員の大半が余暇をミュージシャン、プロデューサー、レコーディング・エンジニアとして過ごしていること。彼らは、まだ世に出ていない魅力的な製品を考案し、市場はあるのか、開発に値するのか、コストはどれくらいなのか……といったことまで考えます。それを全員が“大丈夫だろう”と言えば、先に進めるのです。そう遠くない未来に、エキサイティングな新製品を発表しようと思っているので、楽しみにしていてください。最後に、AUSTRIAN AUDIOのような新しいブランドを進んで受け入れていただき、感謝しています。あなたも、成功すると信じていることを続けてください。誰かが別のことを言っても、気を逸らされる必要はないんですから」

製品紹介|Microphones~Large Diaphram

OC818

OC818|オープン・プライス(市場予想価格:198,000円前後)

OC818|オープン・プライス(市場予想価格:198,000円前後)

 AKG CK12系のデュアル・セラミック・カプセル=CKR12を備えるコンデンサー・マイク。プラグインPolarDesignerで録音後にも指向性を変えられる上、スマホ・アプリPolarPilotとBluetoothレシーバーOCR8(24,200円)を使った遠隔操作にも対応。

CKR12カプセルの下には、カプセルへの反射を防ぐディフューザーがある

CKR12カプセルの下には、カプセルへの反射を防ぐディフューザーがある

Mac/Windows対応の無償プラグインPolarDesigner。DAWのステレオ・チャンネルに立ち上げ、最大5バンドで指向性や音量を調整した後、モノラルで出力する

Mac/Windows対応の無償プラグインPolarDesigner。DAWのステレオ・チャンネルに立ち上げ、最大5バンドで指向性や音量を調整した後、モノラルで出力する

Android/iOSをサポートする無償アプリのPolarPilot。指向性や本体ローカット/PADをリアルタイムにリモート・コントロールできる。設定の保存も可能

Android/iOSをサポートする無償アプリのPolarPilot。指向性や本体ローカット/PADをリアルタイムにリモート・コントロールできる。設定の保存も可能

OC18

OC18|オープン・プライス(市場予想価格:128,000円前後)

OC18|オープン・プライス(市場予想価格:128,000円前後)

 AKG CK12スタイルのシングル・セラミック・カプセル=CKR6を備えるコンデンサー・マイク。タッチ・ノイズに強いオープン・アコースティック・テクノロジーをはじめ、本体ローカットやPADなど、OC818と同じ仕様を有しつつ単一指向性にフォーカス。

OC16

OC16|オープン・プライス(市場予想価格:63,800円前後)

OC16|オープン・プライス(市場予想価格:63,800円前後)

 CKR6カプセルやオープン・アコースティック・テクノロジーを採用する単一指向性コンデンサー・マイク。本体のPADがなく、ローカットはOC818やOC18の3段階から減って2段階。初めてのコンデンサー・マイクとしても手に取りやすい価格。

製品紹介|Microphones~Handheld

OC707

OC707|オープン・プライス(市場予想価格:80,300円前後)

OC707|オープン・プライス(市場予想価格:80,300円前後)

 AKG CK1を基にしたOCC7カプセルを備えるコンデンサー・マイク。オープン・アコースティック・テクノロジーにより、不要な反射/共振や回折を抑制。本機のサウンドをワイアレス・マイクで使うためのカプセルOC707WL1(80,300円前後)もラインナップ。

OD505

OD505|オープン・プライス(市場予想価格:48,400円前後)

OD505|オープン・プライス(市場予想価格:48,400円前後)

 デュアル・カプセルODC50採用のアクティブ・ダイナミック・マイク。オープン・アコースティック・テクノロジー、3Dポップ・ノイズ・ディフューザー(ウィンド・アブゾーバー)などが特徴。ワイアレス・マイク用カプセルOD505WL1(48,400円前後)も発売中。

ポップ・ノイズを効果的に軽減するための3Dポップ・ノイズ・ディフューザー(ウィンド・アブゾーバー)

ポップ・ノイズを効果的に軽減するための3Dポップ・ノイズ・ディフューザー(ウィンド・アブゾーバー)

OD303

OD303|オープン・プライス(市場予想価格:19,800円前後)

OD303|オープン・プライス(市場予想価格:19,800円前後)

 ダイナミック・マイク。ODC50カプセル、オープン・アコースティック・テクノロジー、3Dポップ・ノイズ・ディフューザー、堅牢性重視のダイキャスト・ボディなどを備えつつ、リーズナブルな価格に設定されている。OD505と同じく超指向性となっている。

製品紹介|Microphones~for Instruments

CC8

CC8|オープン・プライス(市場予想価格:80,300円前後)

CC8|オープン・プライス(市場予想価格:80,300円前後)

 AKG CK1インスパイアのOCC7カプセルを搭載したスモール・ダイアフラムのコンデンサー・マイク。カプセル/トランスレス回路共に、レスポンスの速いサウンドに寄与しているという。

OC7

OC7|オープン・プライス(市場予想価格:80,300円前後)

OC7|オープン・プライス(市場予想価格:80,300円前後)

 OCC7カプセルを備える楽器用コンデンサー・マイク。220°のヘッド回転機構を有し、柔軟なセッティングが可能。

OD5

OD5|オープン・プライス(市場予想価格:48,400円前後)

OD5|オープン・プライス(市場予想価格:48,400円前後)

 楽器用のアクティブ・ダイナミック・マイク。OC7と同様のヘッド回転機構を持つ。

製品紹介|Headphones

Hi-X65 / Hi-X60

Hi-X65|オープン・プライス(市場予想価格:63,800円前後)
Hi-X60|オープン・プライス(市場予想価格:63,800円前後)
【左】Hi-X65|63,800円前後【右】Hi-X60|63,800円前後 ※いずれもオープン・プライス(市場予想価格)

Hi-X65:AUSTRIAN AUDIOの最上位機となる開放型オーバー・イア・ヘッドフォン。ミキシング/マスタリング用として設計されている。

Hi-X60:密閉型オーバー・イア・ヘッドフォンのフラッグシップ機。ミキシング/マスタリングのほか、録音時のモニタリングにも使用できる。

Hi-X55 / Hi-X50

Hi-X55|オープン・プライス(市場予想価格:55,000円前後)
Hi-X50|オープン・プライス(市場予想価格:33,000円前後)
【左】Hi-X55|55,000円前後【右】Hi-X50|33,000円前後 ※いずれもオープン・プライス(市場予想価格)

Hi-X55:スタジオ・ユースの密閉型オーバー・イア・ヘッドフォン。中高域に特徴があり、声の輪郭などを分析的に聴くことができるという。

Hi-X50:密閉型のオン・イア・ヘッドフォン。容易に着脱できるデザインでDJ時のモニタリングなどにも使いやすくできている。もちろん制作にも有用。

Hi-X25BT / Hi-X15

Hi-X25BT|オープン・プライス(市場予想価格:28,600円前後)
Hi-X15|オープン・プライス(市場予想価格:20,900円前後)
【左】Hi-X25BT|28,600円前後【右】Hi-X15|20,900円前後 ※いずれもオープン・プライス(市場予想価格)

Hi-X25BT:Bluetooth接続のほか、USB-Cケーブルでのデジタル接続、USB-C/アナログ・ケーブルによるアナログ接続に対応する密閉型オーバー・イア・モデル。

Hi-X15:モニタリング用途からリスニングまで対応する密閉型オーバー・イア・ヘッドフォン。オール・メタル製ヒンジによる耐久性や低反発イア・パッドなどが特徴。


続いては…プロを魅了するAUSTRIAN AUDIOのプロダクツ〜レコーディング・エンジニア、アーティストの方々に語っていただきました。

製品情報

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