「BOYA BY-M800」製品レビュー:新興ブランドが放つ34mm径ダイアフラム搭載コンデンサー・マイク

BOYAの34mm径ダイアフラム搭載コンデンサー・マイク「BY-M800」

Photo:川村容一

 BOYAは中国のシリコンバレーと呼ばれる深セン市で2007年に誕生した新興ブランド。デジタル一眼やビデオ・カメラ、オーディオ・レコーダー向けのマイクやヘッドフォンを発売しています。何よりも目を引くのが既存のマイク・ブランドと比較して、驚異的な価格の安さ。コンデンサー・マイクでありながら、一般的なダイナミック・マイクよりも低価格なのには、見間違いなのかと一瞬目を疑いました!

子音がはっきり聴こえる明るめなサウンド
配信にも向いた声の聴き取りやすさ

 今回チェックするBY-M800は、34mm径の大型ダイアフラムを搭載したコンデンサー・マイク。一般的なラージ・ダイアフラムのコンデンサー・マイクは1インチ(約25mm)のダイアフラムを搭載しているので、それよりもやや大型です。ただし本体はNEUMANN U87と AKG C414の中間くらいの小ぶりなサイズにまとまっています。指向性はカーディオイドで、−10dBのPADとローカット・フィルターが搭載されています。

本体はスイッチを除き金属製となっていて、34mm(1. 3インチ)のラージ・ダイアフラムを搭載する

本体向かって左側に−10dBのPADスイッチを備える。本体右側にはローカットの切替スイッチを搭載

 ファンタム電源は48Vと24Vに対応。SN比は80dB以上、出力インピーダンスは200Ωとなっています。ポップ・ガードと一体型のショック・マウントが付属しており、こちらは古いマイクによくあるマイク本体をクリップで挟み込むようなタイプではなく、マウントの底面にねじ込む方式で非常に便利でした。市場予想価格が税込で1万円を切っていますが、普通はこのマウントだけでも1万円以上するのではないでしょうか? パッドなどのスイッチはプラスティック製ですが、マイク、マウント共に金属製のしっかりした作りで、見た目からは値段以上の品質を感じます。このほかに3mのXLRケーブルと予備のマウント用ゴムが付属していました。

ポップガードと一体型のショック・マウント、XLRケーブル(3m)、予備のマウント用ゴムが付属品として同梱されている

 それでは実際にマイクをチェックしていきましょう。今回は比較用として、同じくラージ・ダイアフラムのコンデンサー・マイクであるNEUMANN U87とAKG C414、ダイナミック・マイクのSHURE SM57を用意。NEVE 1081タイプのプリアンプでボーカルとアコギをレコーディングしてみました。

 

 まずはボーカルから。BY-M800は一聴してほかのマイクより明るめな雰囲気です。高域の伸びが良いことで知られるC414と比べても、派手めなキャラクターに感じました。周波数特性表を見ると、きらびやかに聴こえる5〜10kHz辺りの帯域がほかのマイクよりもやや下の方の帯域から持ち上がっているのと、400Hz周辺の中低域に少しディップがあるため、このように聴こえるのでしょう。普段声を録音していて、低域がボワついて困っている方にはちょうど良い感じに作用しそうです。また、派手と言っても1.5kHz辺りの中高域が少し凹んでいるので、キンキンして張り付いた感じに聴こえるのではなく、子音がはっきりと聴こえる方向の派手さでした。そのため、ネットでトークを配信するような用途で使うにも内容が聴き取りやすくて良さそうです。不思議なことにBY-M800を聴いたあとで他機種の音色を聴くと、ほかのマイクにはコンプレッサーをかけたのかと錯覚しました。BY-M800は高域がバリッとしていて、ある種の突き抜け感があるためにそう感じたのだと思います。この例えが適切か分かりませんが、ほかのマイクが絹ごし豆腐なら、BY-M800は木綿豆腐のような雰囲気がありますね。EQで補正してほかに近付けてみても、前に出てくるような無骨なキャラクターは残るので、それがこのマイク特有の性質なのだと思います。音が硬めの印象があるSM57と比べても、元気に聴こえる感じがありました。

楽器収録時はワイド・レンジに低域を拾う
固有のキャラクターを持つ中域

 次にアコギの録音で試してみましょう。こちらは打って変わっておとなしい印象になりました。SM57と比べると低音がかなり増え、“さすがラージ・ダイアフラムはワイド・レンジにローを拾うな”と感じました。楽器の低音の比重が大きくなったので、派手さが薄らいだのだと思います。U87やC414は低音がギュッと締まった感じなのと比べて、BY-M800はふわっと膨らんだ感じ。この辺りは前述の2 機種と比較してダイアフラムが大きいことと関係しているかもしれません。比較したマイクが良くも悪くもロックを感じさせる音色になるのに対して、BY-M800はさわやかな音色。他機種に比べて中域の押し出し感はあまり無く、高域が伸びているので近距離で録音してもエアリーな質感になります。ほかのマイクだとピントが合って定位がピンポイントに聴こえるのが、BY-M800ではモノラルで録音しても、ややステレオに広がるような感覚でした。ボーカルと同じ定位にしても、邪魔しないでオケ中に配置できそうなサウンドです。ボーカルとアコギで印象が異なっていますが、フォーカスがソフトで中高域以上が派手なので、ソースによってイメージが変わったのだと思います。

 

 比較対象の中域の作りがどれも似ている中、本機は固有のキャラクターを持っているので、適した組み合わせで使うことで面白い効果が出せるような可能性を感じました。

 

中村公輔
【Profile】neinaや繭のメンバーとしてMille Plateauxなどから作品をリリース。現在はレコーディング・エンジニアとして宇宙ネコ子、折坂悠太、ツチヤニボンド、本日休演などの作品に携わっている。

 

製品情報

BOYA BY-M800

オープン・プライス

(市場予想価格:7,980円前後)

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SPECIFICATIONS
▪指向性:カーディオイド ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪出力インピーダンス:200Ω ▪感度:-33±3dB(0dB=1V/Pa@1kHz) ▪最大音圧レベル:101dB ▪外形寸法:207(W)×115(H)×185(D)mm ▪重量:642g ▪付属品:ショック・マウント、ポップ・ガード、XLRケーブル(3m)

 

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