Seihoが語るATH-M50X / R70X 〜【第3回】プロのモニタリングを支えるAUDIO-TECHNICAの定番ヘッドフォン

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 アーティスト/エンジニアを問わず、プロの中にも多くのファンを持つAUDIO-TECHNICAのモニター・ヘッドフォン。その性能をあらためて検証するのが本連載だ。今回は、アーティスト/DJのSeihoが密閉型のATH-M50Xと開放型のATH-R70Xをピックアップ。さらに、著名スタジオのモニター音場を再現できるEMBODYとの共同開発プラグイン=Immerse Virtual Studioも試していただいた。

Photo:Hiroki Obara

 

Product Overview
ATH-M50X

オープン・プライス:市場予想価格18,000円前後

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 世界中のミュージシャンやリスナー、コンテンツ・クリエイターたちに愛された密閉ダイナミック型ヘッドフォン、M50の次世代モデル。2014年の発売以来、価格とオーディオ性能のバランスが評価され、レコーディング・スタジオやライブ・ステージでも人気を博している。強磁力の45mm径CCAWボイス・コイル・ドライバーによる高解像度サウンドを特徴とし、周波数特性は15Hz〜28kHz。前後90°の反転モニター機構を備えるため、DJプレイなどにも便利だ。重量はコードを除いて285g。

 

Product Overview
ATH-R70X

オープン・プライス:市場予想価格36,000円前後

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 AUDIO-TECHNICA初のプロ・オーディオ向け開放ダイナミック型ヘッドフォン。ドライバーは開放型専用として新たに設計されたもので、口径は45mm。ボディの素材にはカーボン繊維入りの合成樹脂を採用しており、レスポンスの向上を図っている。また強磁力マグネットを採用し、磁気回路は純鉄製。周波数特性は5Hz〜40kHzで、あらゆる帯域においてひずみ無きサウンドを実現しているという。出音に空間的な広がりを与えるハウジングも特徴だ。重量はコードを除いて210gと超軽量。

 

曲作りのテンションを高めるATH-M50X
開放型ながら充実した低域を誇るATH-R70X

 AUDIO-TECHNICAのヘッドフォンと言えば、ATH-M50(ATH-M50Xの前身機種)をDJ用のモニターに使っていた時期があります。周囲のアーティストにもユーザーが多く、今回ATH-M50Xを手に取ったときは“イア・パッドが丈夫になって、さらにヘビーデューティなのかもしれないな”と感じました。アメリカへツアーに出たとき、同世代のアーティストがスタジオやDJブースで使っていたヘッドフォンも多くがATH-M50Xでした。いずれもよく使い込まれた様子だったので、現場向けの機種であることの何よりの証拠ですね。

 

 そのATH-M50Xの使用感については、装着してすぐに“ものすごく着け心地が良いな”と。イア・パッドのクッション性や耳を包み込むような密閉度の高さ、軽量な筐体など、長時間の使用にも耐える要素がそろっています。同様に音質も聴き疲れするものではなく、それでいて驚くほどクリア。普段の通りDAWでのトラック・メイクに使ってみたところ解像度が高く、周波数特性がフラット方向で、モニター機器らしいクオリティだと感じました。ミックスなどに用いてもバランスを見誤ることは無いでしょう。

 

 とは言え淡白な音質というわけではなくて、低域や中高域に少しばかり特徴があり、音圧感に富んだサウンドなので、トラック・メイク中に楽器演奏が気持ち良く行えるのもポイントです。“ものすごく原音忠実に聴こえるけれど演奏していて楽しくない”というヘッドフォンもある中、ATH-M50Xくらい音がガツンと前に来てくれると曲作りのテンションが上がります。また、こういうキャラクターだからこそDJの現場でも重宝されているのではないでしょうか。音圧感と密閉度の高さは、大音量環境においても有利ですからね。

 

 ATH-M50Xは、ノート・パソコンなどのヘッドフォン端子からでも十分な音質が得られるため、外出先での制作にも向くと思います。一方、ATH-R70Xはハイインピーダンスなので、ある程度のクオリティのヘッドフォン・アンプと併用したときに真価を発揮するでしょう。

 

 ATH-R70Xの使用感については、まず圧倒的に軽量なので、ATH-M50X以上に長丁場に向く印象です。そして、その軽量さからは思いも寄らぬほど、低域がしっかりと近く聴こえるところに驚きました。開放型のヘッドフォンには、低域のどこかの周波数がすっぽりと抜けて聴こえるイメージがあったのですが、ATH-R70Xでは30〜40Hz辺りのサブベースを鳴らしてもディップが一切感じられないのです

 

 中〜高域は、ATH-M50Xをしのぐ解像度の高さ。特に高域がよりクリアな印象で、ボーカル・トラックなどを単体でモニターしたときに特性がはっきりとつかめる感覚です。また、開放型ならではの奥行きがあるため、大きめの音量で細かいイコライジングを行うなどしても全く疲れません。

 

個人の聴覚に最適化された音質を生み出す
Immerse Virtual Studio

 これらのAUDIO-TECHNICA製ヘッドフォンに対応したImmerse Virtual Studioは、アメリカの著名スタジオのモニター音場を再現できるAAX/AU/VSTプラグインです。今回の2機種のほか密閉型のATH-M70Xもサポートし、各モデルとユーザーの聴覚に最適化された音質を実現します。仕組みについては、使用前に右耳の写真をスマートフォンで撮ってEMBODYのサーバーへ送り、そこでの解析結果を個人に合った音質として反映するというもの。4つのスタジオと各部屋に置かれたスピーカーを切り替えられる上、アンビエンスの量なども調整できるため、仕上げたミックスを作業中と違う環境で鳴らしたらどんなふうに聴こえるかを容易にチェックすることが可能です。

 

 Immerse Virtual Studioはマスターでの使用が想定されていますが、個々のチャンネルに挿してスピーカー・シミュレーターとして使うのも面白いと思います。例えばギター・アンプ・ヘッドのプラグインと組み合わせれば、これまでにあまり無かったキャビネット・モデリングにもなりそうですね。

 

Immerse Virtual Studio

2,199円/月(サブスクリプション。13カ月目から無料)

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Echo Bar、Spitfire、SAE Diamond Suiteといったアメリカのスタジオのモニター音場をヘッドフォン上で再現できるプラグイン。ATH-M50X、ATH-M70X、ATH-R70Xの3機種をサポートし、対応OSはMac/Windows。パーソナライズ空間オーディオのエキスパート、EMBODYと共同開発した製品である。昨年11月発売のAVID Pro Tools |CarbonにPremiumプラグインとしてプリインストールされ、AVID AAXプラグイン・ストアでは33,000円(税抜)で購入可能

 

Seiho

【BIO】アーティスト/DJ。LAの名門STONES THROW傘下のLEAVING RECORDSからのリリースのほか、Low End Theoryなどへの出演、矢野顕子とのコラボなどの実績を持つ

 

AUDIO-TECHNICA ATH-M50X / R70X 製品情報

www.audio-technica.co.jp

www.audio-technica.co.jp

audio-technica.embody.co

 

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