「AUDIO-TECHNICA ATH-R70X」製品レビュー:210gと軽量のオープン・ダイナミック型リファレンス・ヘッドフォン

AUDIO-TECHNICAATH-R70X
The NAMM Show 2015でAUDIO-TECHNICAから新しいヘッドフォン2機種が発表された。人気のATH-M50Xの上位機種としてまず密閉型のATH-M70Xが2月に発売。そして今回紹介するオープン型のATH-R70Xである。同社の音楽制作用としては初のオープン型であり、新設計のドライバーを搭載している。

安定度の高い装着感
軽量で長時間の使用も快適

密閉型のMシリーズが“プロフェッショナル・モニター”、SX1Aが“スタジオ・モニター”という命名だったのに対し、オープン型のATH-R70Xは“プロフェッショナル・オープンバック・リファレンス・ヘッドフォン”という呼称が付いている。外観から分かるようにハウジングやウィング・サポート、イア・パッドといったオープン型用のパーツはコンシューマー用として好評を博したATH-AD2000の流れにあり、十分な実績を持ったパーツ類に見える。ADシリーズのドライバーは53mm径なので、本機の45mm径ドライバーは専用の新設計となっている。

本機は45mm径ドライバーであることを生かして210g(ケーブルを除く)の超軽量を実現。ATH-AD2000Xより55g、ATH-M70Xより70gも軽い。パリのArro Studioが手掛けたデザインは十分な剛性を持ちながらも新しいシンプルなヘッド・バンドが印象的で、取り回しも良い。軽量化のためにスライダーを装備しておらず、人によってはイア・パッドが均等に当たるとは限らないが、3Dウィング・サポートによって頭頂部がぴったりとフィットし、安定感は高い。結果的に側圧は低めで済むため、通気性の良いイア・パッドの効果と相まって長時間の使用も快適だ。

独自規格の脱着式ケーブルは長さ3mで、左右両方のユニットそれぞれに3極プラグを直接挿す形だ。この一本化されていないケーブル構造により、左右のクロストークを限界まで抑えられるので、分離の良い定位が期待できる。脱着部はバヨネット式になっており、挿し込んで右に回すだけでしっかりとハウジングにロックされる(写真①)。ケーブルのL/Rは自動的に判別されるタイプで、試しに左右のケーブルを入れ替えてもL/Rは変わらなかった。つまり3極プラグの両方へ同じ信号が来ている構造で、いちいち左右を確かめる必要がない。なおユニット側の左右識別はアームの根元内側の目立たない位置にL/Rの刻印がある。

◀写真① 付属のケーブルは3mのストレート・タイプ。L/Rの両ハウジングに接続する着脱式で、独自のバヨネット式ロック機構を備え、作業時の安定を確保 ▲写真① 付属のケーブルは3mのストレート・タイプ。L/Rの両ハウジングに接続する着脱式で、独自のバヨネット式ロック機構を備え、作業時の安定を確保

音質優先の高インピーダンス仕様は
専用アンプとの併用で本領を発揮

ほかのMシリーズやATH-M70Xのインピーダンスが35Ωなのに対し、ATH-R70Xだけが470Ωで、主に業務機器との接続に合わせた仕様となっている。基本的には専用ヘッドフォン・アンプが必要だと考えよう。

今回まずオーディオ・インターフェースのヘッドフォン端子につないでみたが、大変落ち着いた音色で、制作用途として好印象。普段よりだいぶボリュームを上げる必要が生じたが、もちろん音量を上げれば十分に鳴る。量感はATH-M50より控えめだが、それでもたっぷりと豊かな低域だ。その低域の上に切れの良い高域が乗っているという、同社らしい味付けである。

次に古い業務用DATデッキにつないでみて驚いた。同じソースからのデジタル接続なのに、次元が違う音で鳴る。高域の質感/リバーブ感/スピードも段違いで、ずっとワイド・レンジである。以前チェックしたATH-M50ではこのような差は出なかったので、この差が高インピーダンスの恩恵であろう。こちらを聴いた後ではオーディオI/Oのヘッドフォン端子では不十分だったという感想になるのは仕方ない。さらに普段使用している単体ヘッドフォン・アンプに接続してみたところ、DATデッキと同様しっかりとした音質で本機をドライブできた。

最後にモバイル機器にもつないでみたが、当然APPLE iPodやコンピューターのヘッドフォン端子では音量が稼げず、十分には鳴らし切れなかった。7インチ・タブレットにつないだ場合は若干スピード感が出て聴きやすくなる。もちろん余裕のあるドライバーなので、ドライブできる程度まで音量を上げていっても音像は破たんしない。

以上のように、高インピーダンスの本機は接続する相手によってかなり音質が違ってくることが確認できた。トップ・エンドだけでなく低域の量感やレンジ感といったすべての情報で大きな差が生じる。ぜひ単体のヘッドフォン・アンプを用意して使いたいという結論となった。

接続先との相性を見たところで、今回は単体ヘッドフォン・アンプを使ってミックス作業を行ってみた。とてもワイド・レンジで解像度が高くモニターできるので細部の状況まで確認しやすい。特にローエンドまで余裕を持って大音量でチェックできるのが頼もしい。通常密閉型において低域EQの極端な増幅はひずみやすく、ヘッドフォンを傷めないように注意深く操作する必要がある。その点、本機ではまるでラージ・モニターを使っているような感覚で作業できるのが快適に感じた。

MシリーズとADシリーズの融合点とも言える本機の最大の魅力は、原音に忠実な再生を210gの軽量ボディで堪能できる点にある。専用のヘッドフォン・アンプを用意すればミックスに使えるのはもちろんだが、特に長時間になりがちなアレンジ作業にお薦めしたい。既に人気があるADシリーズよりもさらに40〜60gも軽いのだ。

サウンド&レコーディング・マガジン 2015年8月号より)

AUDIO-TECHNICA
ATH-R70X
オープン・プライス(市場予想価格:36,000円前後)
▪型式:オープン・ダイナミック型 ▪出力音圧レベル:98dB/mW ▪周波数帯域:5Hz〜40kHz ▪最大入力:1,000mW ▪インピーダンス:470Ω ▪重量:210g(コードを除く)