原真人が語るATH-M50X / M70X / R70X 〜【第1回】プロのモニタリングを支えるAUDIO-TECHNICAの定番ヘッドフォン

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 アーティスト/エンジニアを問わず、プロの中にも多くのファンを持つAUDIO-TECHNICAのモニター・ヘッドフォン。その性能をあらためて検証するのが本連載だ。初回は密閉型のATH-M50XとATH-M70X、開放型のATH-R70Xをピックアップ。さらに、これら3機種で著名スタジオのモニター音場を再現できるプラグイン=Immerse Virtual Studioも紹介したい。エンジニアの原真人氏に使用していただき、インプレッションを語ってもらおう。

Photo:Chika Suzuki Cooperation:otost.(www.otoco.co.jp

 

音量でのバランス変化が少ないATH-M50X
ATH-M70Xは原音忠実度がより高いモデル

 僕はAUDIO-TECHNICAのヘッドフォンをミキシングに愛用していて、以前はATH-M50Xの前身ATH-M50、ここ数年はATH-MSR7を使っています。モニター機器には人それぞれ“平均的にこのくらいの音量で聴く”というボリューム感があると思うんです。大音量を好む人も居れば小さめで聴く人も居て、まちまちなのでしょうが、そのボリューム感でバランス良く聴こえる機種が自分に合うものだと考えています。僕にとっては、AUDIO-TECHNICAのヘッドフォンが好みのボリューム感で鳴らしたときに最も聴きやすかったので、ミキシング用のモニター機器として選ぶに至りました。

 

 今回のATH-M50Xは、大きめボリュームで聴くことを見越して作られていると思います。中高域がやや硬めですが、音量を上げても耳に痛くなく、ライブ録音やDJプレイなどで外音が大きいときにも使いやすいでしょう。側圧が強めなのは、現場での使用も想定しているからかもしれません。中低域以下にも特徴があり、全体として上下がやや持ち上がっているので小音量時にもバランスが崩れにくく、低域が物足りなく感じられてベースを上げ過ぎてしまうようなことも無さそう。スタジオ・モニターに不慣れな方でもバランスを取りやすいと思います。その反面、ダイナミック・レンジはATH-M70XやATH-R70Xに分があり、ATH-M50Xを使うならダイナミクスがある程度一定の音楽の方がマッチするでしょう。

 

ATH-M50X

17,000円前後

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世界中のスタジオに採用されたATH-M50の後継機。音楽制作向け密閉型ヘッドフォンMシリーズの一台で、45mmCCAWボイス・コイル・ドライバーを有し、解像度の高さを特徴とする。片耳モニタリングが可能なため、DJなどにも有用。周波数特性は15Hz~28kHz

 

 ATH-M70Xは、完全にミキシング向けのナチュラルな音質です。7~8kHz辺りが硬めに聴こえなくもないのですが、それより上の帯域や中高域、中低域などに膨らみが感じられず、とにかくソースが正確に再現される印象。EQなどで動かした部分を動かした分だけ見せてくれる感じで、超低域まで変化や差異をとらえやすく、ダイナミクスの再現にも優れています。ただ、ダイナミック・レンジがナローな音楽を聴くと、その狭さやコンプレッションの度合いがありのまま再現されるため、ATH-M50Xのようなモデルに比べて迫力やパンチが足りないように感じられるかもしれません。ですので、ラウドなロックをミックスするときには音量を上げておいたり、上げなくても正確に判断できるようなミキシングの中~上級者にとっては“音を精密にジャッジできる顕微鏡のようなヘッドフォン”として武器になるでしょう。もちろんダイナミック・レンジの広い音楽(アコースティック系など)にはうってつけです。

 

ATH-M70X

31,000円前後

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Mシリーズのフラッグシップ。45mmCCAWボイス・コイル・ドライバーを備えつつ、ハウジングやアーム、スライダーにアルミニウムを使い不要な振動を抑えるなど、エンジニアリングに特化した設計。周波数特性は5Hz~40kHz

 

低域までしっかりと再現するATH-R70X
プラグインでスピーカー的な鳴りを獲得

 個人的には開放型のヘッドフォンというものを選んでこなかったのですが、ATH-R70Xは“スピーカーとヘッドフォンの良いところ取り”と言える素晴らしい一台です。スピーカーのように空間を把握しやすく、それでいて密閉型ヘッドフォンと同様に個々の音のディテールまでしっかりと分かる。パンチの面では密閉型よりもずっとナチュラルで、高域にしてもATH-M70Xにあるような若干の特徴さえ感じられませんが、その割にアタックや粒立ちがとらえやすく、トランジェント特性に優れる印象です。低域は、やはり密閉型のようなパンチのある聴こえ方ではないものの、開放型とは思えないほどしっかりとした鳴り。ROLAND TR-909系のキックなどもグッと来るし、ローエンドについても正確に判断できるため、一台でミックスの大半を済ませることができそうです。個人的には言うことなしのヘッドフォンですが、インピーダンスが470Ωと高く、良好なバランスで聴ける音量の範囲が狭いように感じたので、性能を生かし切るためにはある程度のクオリティのヘッドフォン・アンプが必要です。

 

ATH-R70X

36,000円前後

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AUDIO-TECHNICA初のプロ向け開放型ヘッドフォン。新開発の45mmドライバーを備え、カーボン繊維入りの合成樹脂ダイアフラムによりレスポンス向上を図っている。コードを除いて210gという軽量設計で、周波数特性は5Hz~40kHz

 

 これらのヘッドフォンとImmerse Virtual Studioを併用すると、密閉型の機種でもスピーカーライクな聴こえ方が得られます。昨今は自宅での仕込みが増えて、ヘッドフォンの使用頻度が上がっている方も居るでしょうが、スピーカー的な音で作業したいという方は、一度このプラグインを試してみるのもよいのではないかと思います。

 

Immerse Virtual Studio

2,199円/月(サブスクリプション。13カ月目から無料)

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Echo Bar、Spitfire、SAE Diamond Suiteといったアメリカのスタジオのモニター音場をヘッドフォン上で再現できるプラグイン。本稿で紹介した3モデルをサポートし、対応OSはMac/Windows。パーソナライズ空間オーディオのエキスパート、EMBODYと共同開発した製品である。11月発売のAVID Pro Tools |CarbonにPremiumプラグインとしてプリインストールされ、AVID AAXプラグイン・ストアでは33,000円(税抜)で購入可能

※ヘッドフォンの価格はオープン・プライス:市場予想価格(税抜)

 

原真人

【BIO】スパーブを経て2005年よりフリーのレコーディング・エンジニアに。大森靖子、細野晴臣、カーネーション、古川麦、World Standardなど数多くのアーティストの作品を手掛ける

 

ATH-M50X / M70X / R70X 製品情報

www.audio-technica.co.jp

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audio-technica.embody.co

 

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