
ホールド感/遮音性共に高いが
長時間付けていても耳が痛くならない
ATH-M70Xは密閉ダイナミック型で、ドライバーの口径は45mm。強磁力マグネットとCCAW(銅被覆アルミニウム線)ボイス・コイルのコンビネーションによる解像度の高さを特徴としている。ケーブルを除く重量は280gで、不要な振動を抑えるためにアルミニウム製のハウジングやアーム、スライダーなどを採用。見た目以上にしっかりとしていて、高級感が漂っている。
新開発のイア・パッドとヘッド・パッドの感触は独特で、耳を覆うようにフィットするため遮音性がなかなか良い。また耳に直接当たる部分はどこも柔らかいので、長時間付けていても痛くならない。側圧は若干高めだがしっかりとホールドされる感じで、少し頭を振ってもパッドが密着したまま。このズレを防ぐ吸い付き具合は新しい感覚だ。インピーダンスは35Ω、出力音圧レベルは97dB/mWで、携帯プレーヤーやパソコンのヘッドフォン端子に直接つないでも全く問題無いレベルで再生される。
ケーブルは左側片出しで着脱可能。1.2mのカール・コード、3mと1.2mのストレート・ケーブルの計3本が付属するので、ダビングやミックスなどシーンに応じて使い分けられる(写真①)。ヘッドフォン本体の端子には“バヨネット式ロック機構”が採用されており、接点が緩むことなく安心して使えるのもポイントだ。

情報量が多く音の細部までよく分かる
高域はきめ細かく中域はスピーディ
ここからは音質について見ていこう。最初に聴いた瞬間は“硬め”な印象だったが、耳が慣れてくるにつれて各楽器の定位感や臨場感など、サウンドのディテールがとてもきめ細かく再現されることが分かってきた。情報量がとにかく多い感じで、カタログに記載の“5Hz〜40kHz”という周波数特性にも納得がいく。
さて、いろいろな再生条件で試すうちにあることに気付いた。高解像度のヘッドフォンは、往々にして再生機器の良しあしをも鮮明に描き出すものだが、実は2つの種類に分かれる。一つは再生条件にミスマッチし、本来のパフォーマンスを発揮できないもの。もう一つは、再生条件が悪くてもそれをカバーして鳴ってくれるものだ。ATH-M70Xは後者にあたる。モニター・コントローラーのCRANE SONG Avocet、レコーダーのYAMAHA CDR1000、APPLE MacBook Pro、iPhoneのそれぞれに直接つなぎ同じソースをチェックしてみたところ、各機のヘッドフォン・アンプの音質差を克明に伝えてくれたのだ。
密閉型であるものの、聴こえてくる音が近過ぎないのも特徴の一つ。例えば交響曲などの再現性も非常に高く、ホールの臨場感までたっぷりと伝えるため、オープン・エアのヘッドフォンで聴いているのかと錯覚するほど余裕のある響きだ。定位感もやはり素晴らしく、独特なまでに演奏者のポジションを正確に表現する。
周波数的にはきめが細かくヌケの良い高域が印象的で、弦楽器のエッジや弾き方のニュアンスなどがよく分かる。ロック系の音楽でもハイハットやカッティング・ギターのキレが良く、“膜”がかかっているような感じは無い。中域は、従来の同社ヘッドフォンの多くに感じていた色付けが全く無い印象。ヌケの良い高域とのバランスが良く、レスポンスがとても速い。ジャズの音源ではサックスやピアノの生々しさ、ボーカルの色気などがきちんと表現され、そこでも解像度の高さを感じた。低域はやや少ないと思ったが、全体のバランスからすると物足りないということはない。スピードのある中高域をサポートしている感じで、“迫力”というよりは“上品”に引き締まっている印象だ。ただし各種ジャンルでふくよかな150〜250Hz辺りがスッキリと聴こえるので、音作りの際はそこに留意しつつ調整すると良いだろう。
人によって好みが分かれるヘッドフォンだと思うが、自分の好みと異なる方向の音に慣れると今までに感じられなかった新鮮な感覚に出会えるものだ。“聴き込むほどに味が出てくる”……それがATH-M70Xである。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2015年5・6月号より)