古賀健一が語るATH-R70X / Immerse Virtual Studio 〜【第4回】プロのモニタリングを支えるAUDIO-TECHNICAの定番ヘッドフォン

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 プロの中にも多くのファンを持つAUDIO-TECHNICAのモニター・ヘッドフォン。今回は、開放型モデルATH-R70Xのユーザーであるレコーディング・エンジニア古賀健一氏が登場。著名スタジオのモニター音場をAUDIO-TECHNICAのヘッドフォンで再現できるプラグイン=Immerse Virtual Studioと併せて語っていただいた。

Photo:Chika Suzuki

 

Product Overview
ATH-R70X

オープン・プライス:市場予想価格39,468円前後

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 AUDIO-TECHNICA初のプロ・オーディオ向け開放ダイナミック型ヘッドフォン。ドライバーは開放型専用として新たに設計されたもので、口径は45mm。ボディの素材にはカーボン繊維入りの合成樹脂を採用しており、レスポンスの向上を図っている。また強磁力マグネットを採用し、磁気回路は純鉄製。周波数特性は5Hz〜40kHzで、あらゆる帯域においてひずみ無きサウンドを実現しているという。出音に空間的な広がりを与えるハウジングも特徴だ。重量はコードを除いて210gと超軽量。

 

トランジェントや定位をとらえやすいATH-R70X
個人に最適化されるImmerse Virtual Studio

 3〜4年前に知り合いのエンジニアたちとモニター・ヘッドフォンの比較試聴会を行ったんです。計40機種ほど集めて、密閉型と開放型の各カテゴリーで聴き比べをしてみたところ、後者において人気だった機種にATH-R70Xがありました。個人的には、そのとき試した開放型モデルの中で一番好みで、特に低域の見えやすさが購入の決め手に。ローエンドに至るまで、密閉型を超えるくらいの再現度なんです。全体の周波数特性についてもナチュラルな印象で、トランジェントや定位がとらえやすい。またフィット感が高く、なおかつ軽量なので長時間使っていても疲れにくいんです。

 

 AUDIO-TECHNICAと言えば密閉型のATH-M70Xも好きで、試聴会のときしかり、若い方々に人気があるイメージです。どんなヘッドフォンを買えばいいですか?と相談されたら幾つかリストアップして紹介することにしているんですが、ATH-M70Xを選ぶ人が結構居るんですよ。ちなみに僕のスタジオでは今後、レコーディング用のモニター・ヘッドフォンをATH-M70Xに統一する予定です。

 

 ATH-R70XとATH-M70X、密閉型のATH-M50Xに対応したプラグインとしてImmerse Virtual Studioが発売されています。複数のスタジオ・モニター環境をヘッドフォン上で再現するもので、それぞれのスピーカーやアンビエンスのモデリングを搭載。またユーザーの右耳の写真からHRTF(頭部伝達関数)を算出し、個々人の聴覚特性に最適化させた音を生成するため、“人によって聴こえ方がまちまち”といったことが起こらないとされています。使用するメリットとしては、大きく次の2つが挙げられると思います。

①ヘッドフォンを使いながらにして、スピーカーで鳴らしたような音場が得られる
②さまざまなモニター環境を切り替えて使えるため、ミックスを客観視しやすい

 まずは①に関して。現代のヘッドフォンには周波数レンジの広い機種が多く、低域なども見えやすいのですが、普段スピーカーをメインに使っている身としてはステレオ・イメージなどの違いから、ミックスのバランスを取りづらいときがあるんです。でもImmerse Virtual Studioがあれば、ヘッドフォンとスピーカーの中間と言えるような音が得られるため、バランスを取る際の選択肢の一つになるかもしれません。

 

手持ちのモニター機器がヘッドフォンだけでも
複数の環境/視点でミックス・チェックできる

 Immerse Virtual Studioでは、各スタジオで大小さまざまなスピーカーのモデリングを切り替えて使えます。いわば複数のスピーカーの音が実機をそろえることなく手軽に体験できるわけです。中にはおいそれと購入できないもの、買ったとしても自宅では鳴らし切れないものも含まれているので、ミックスをヘッドフォン1台で完結させるようなベッドルーム・クリエイターにもマッチしそう。そして、これは②と関連しています。僕らエンジニアは、あらゆる環境できちんと再生されるミックスを作らなければならないので、いろいろなモニター機器でチェックするんです。つまり複数の環境/視点で確認するわけですが、同じようなことがImmerse Virtual Studioでも行えるのではないかと思います

 

 スピーカー・モデリングのクオリティについては、例えばSpitfire StudioのFOCAL Trio6 BEを聴いたときに“ちゃんとFOCALのベリリウム・ツィーターの音がする”という印象を受けました。なので“あのスピーカーだと、どう聴こえるだろう?”といったチェックに有用かもしれません。またアンビエンスを調整できるため、増やしていけば大音量時の部屋鳴りを含んだ聴こえ方まで再現可能。通常のプラグインと同じくトラックに挿し、一種の部屋鳴りを再現するリバーブ(バイノーラル・エフェクト的なアプローチ)としても使えると思いました。

 

 こうしたモデリング・サウンドが、人によってバラつき無くイーブンに聴こえるようなので再現性が高いでしょう。エンジニアとしていかに接していくか、そして秘められた可能性は何なのかを考えていきたいですね。

 

Immerse Virtual Studio

2,419円/月(サブスクリプション。13カ月目から無料)
23,319円(永続ライセンス)

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Echo Bar、SAE Diamond Suite、Spitfire、Music Friendsといったアメリカのスタジオのモニター音場(=常設スピーカー+ルーム・アコースティック)をヘッドフォン上で再現できるプラグイン。ATH-M50X、ATH-M70X、ATH-R70Xの3機種をサポートし、Mac/Windowsに対応。パーソナライズ空間オーディオのエキスパート、 EMBODY VR Inc.と共同開発した製品だ。昨年発売のAVID Pro Tools |CarbonにPremiumプラグインとしてプリインストールされ、AVID AAXプラグイン・ストアでは36,300円で購入可能。

 

古賀健一

【BIO】レコーディング・エンジニア。青葉台スタジオを経て、Xylomania Studioを設立。2020年にDolby Atmos対応に改修。Gotch、Official髭男dism、ichikoro、Turntable Filmsらの作品に携わる

 

AUDIO-TECHNICA ATH-R70X 製品情報

www.audio-technica.co.jp

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audio-technica.embody.co

 

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