これだからDPが手放せない!珠玉の付属プラグイン5選 〜内田智之が使うDigital Performer【第3回】

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 どうも内田智之です! これまでDigital Performer(以下DP)の歴史やMIDIについてお伝えしてきました。今回は、DP付属のオーディオ・プラグインの中から内田的ベスト5を紹介します。僕はこれらのプラグインのおかげでDPが手放せなくなりました。普段の使い方も交えながら各プラグインの魅力を伝えたいと思います。

マスタリング・グレードの高品位な音質
Masterworks EQ

 何は無くともEQ!ということで、トップ・バッターはMasterworks EQ。マスタリング・グレードの超高品位EQです。バンドごとに色分けされた伝統的なデザインで、つまみを動かしたときの追従性も相まってとても使いやすく、何より出音がすごく良い。また、FETボタンでスペクトラム・アナライザーが表示でき、これがものすごく見やすいです! 表示が正確なのはもちろん、周波数分解能とフレーム・レートが共に高く、耳と目で判断することで余計なピークや必要な帯域がすぐに分かります。この機能のおかげで、各周波数がどういう音なのか、アンサンブルにおける各楽器が受け持つべき周波数帯が理解でき、理想の音が素早く得られるようになったので、EQの腕が格段に上がったと感じます。ほかのプラグインのプリ/ポストEQとして挿すことも多く、プロジェクト全体のEQが8割以上Masterworks EQということも珍しくありません。とにかくEQするのが楽しくなるので、EQ初心者の方にこそ使っていただきたいプラグインですね。

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Masterworks EQ。各バンドは周波数に制限が無いため、2バンドを同じ周波数にしてより深いディップを作ることも可能

 倍音構成が激しく変わる楽器や素材の場合、瞬間的に耳に痛いと感じるピークを通常のEQでカットすると、そのピークが無い間もカットされてしまい、それが原因で楽器や素材の魅力が失われることがあります。そんなときに活躍するのがDynamic Equalizerです。EQとコンプレッサーがバンドごとに組み合わさっており、設定したEQのゲインが0でも、スレッショルドを超えたときだけその周波数を抑えてくれます。ダイナミクスがメインで、EQはその補正用といったイメージです。Masterworks EQと同じくFETボタンでスペクトラム・アナライザーを表示できるので、とても簡単に該当の周波数を見付け出せます。トラックごとにピークや周波数をコントロールすることで、最終的なミックスの仕上がりが変わってくるので、Masterworks EQとセットで手放せないプラグインです。

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Dynamic Equalizer。通常のEQとしても使うことも可能だ

 次は3バンドのマルチバンド・コンプ、Masterworks Compressor。こちらもMasterworksシリーズの超高品位プラグインです。パンチと透明感の両方が得られる音質でとても気に入っています。マルチバンド・コンプというと操作が難しいイメージですが、Masterworks Compressorはインターフェースのデザインが素晴らしく、直感的に設定できるので素早く音を作ることが可能です。ソロ/バイパス・スイッチで各バンドのかかり具合がチェックでき、ソロのみを使うことでアイソレーターとしても活用できます。マスター・バスにはもちろん、ドラムやベースにもよく使いますね。特にベースでは基音となる低域の量感を固定したまま、中域で音のキャラクターを自由自在に操れるので、ボトムを気にせず音作りに集中できます。Masterworks EQとセットでほとんどのマスタリング作業がこなせるので、絶対に手放せないプラグインの一つです。

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3バンドのマルチバンド・コンプ、Masterworks Compressor。各バンド間のつながりがスムーズで、非常に滑らかにコンプレッションしてくれる

クリエイティブ系のPreAmp-1は
ひずみのバリエーションが魅力

 かれこれ20年以上使い続けているのがPreAmp-1。DPのネイティブ・システムMAS初期から付属している歴史の長いクリエイティブ系プラグインです。トラックの素材をひずませる、または汚すことで倍音を増やし、オケの中での存在感を出す目的で使います。プリEQ→ひずみ→コンプ→ポストEQの4セクション構成となっており、何と言ってもひずみセクションで生み出せるバリエーションの広さが魅力。あらゆるトラックで威力を発揮してくれます。

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クリエイティブ系プラグインのPreAmp-1。ひずみを生み出す中央の黒いセクション“カラーレーション”は、つまみこそ少ないが音にさまざまな表情を付けることができる

 このプラグインの肝はズバリ“ティンバー”つまみ。ここでひずみのキャラクターを決め、“ドライブ”“プッシュ”でひずみ量をコントロールします。プリEQとインプット・レベルでもかなりの変化が楽しめるので、使えば使うほどノウハウがたまっていき、使い飽きることがありません。素材を完全にひずませるのはもちろん、わずかなひずみで輪郭を強調させるといった使い方も得意です。僕はドラムやベース、シンセ、ボーカルとさまざまなトラックで使ってきました。設定次第でベースやボーカルの芯を太くしたり、コード・シンセの音色すら変えてしまう設定も可能だったりします。また、プリEQはひずみセクションに与える影響がかなり大きいので、最近ではMasterworks EQをプリEQとして組み合わせることも多いです。いまだ“新しい音が作れるのではないか”と思える奥の深いプラグイン、これは手放せません。ちなみにPreAmp-2などの後継はまだ存在しないので、MOTUに期待しています。

 

 堂々のトリはTrimです。これもMAS初期から付属するプラグイン。できることはパンとゲインの調整、位相反転……以上! 一体何のために使うのかと思われるかもしれません。しかし、これがかゆいところに手が届く、至るところで大活躍する実に素晴らしいプラグインなのです。

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ユーティリティ・プラグインのTrim。ステレオ・トラックに挿した場合、L/Rchを独立して、パン、レベル、位相がコントロールできる

 思い付く用途として、トラックのオーディオやソフト音源のゲインが足りないときのレベル補正、プラグインとプラグイン間でのレベル補正、アナログ素材など0.01dB単位のL/Rレベル差補正、ステレオ素材の強制モノラル化、L/R入れ替え、位相補正……とさまざまなものが挙げられます。またレベル・メーターの表示範囲を-140dBから+20dBの間で任意に指定できるため、各所でのノイズ・レベル、オーバー・レベルの確認にも使うことが可能。楽器トラックに直接挿す以外にも、AUXトラックなどエフェクト成分の定位や位相を調整したり、最近ではMasterworks Compressorと組み合わせ、パラレルで用意したトラック間で位相をズラしてキャンセルすることで、周波数帯ごとにトラックを分けるといった技も編み出しました。このようにアイディア次第で用途が無限に広がる、まるで万能文房具のような、なくてはならないプラグインということがお分かりいただけたでしょう。

 

 DP付属のプラグインは派手ではないかもしれませんが、長年の相棒として高品位かつ的確に仕事をしてくれる素晴らしいものばかり。ぜひ試していただけたらうれしいです。それではまた次回!

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紹介した以外にも、多彩なプラグインがDPには付属する。ACE30などのアンプ・シミュレーターやコンパクト・エフェクター系、ギター・シンセ・エフェクトのMegaSynth(画面)など、ギターに活用できるプラグインも多い

内田智之

【Profile】小学3年生の自由研究にカセットMTRで作った自作曲を提出し、学校が湧く。東京音楽大学で作曲の基礎をたたき込まれ、幾つかのコンテストで入賞。『beatmania』が好き過ぎてコナミへ入社し、Mr.T名義で数多くの名曲を残す。ソニー・ミュージックパブリッシングの専属作家としてHey! Say! JUMP、乃木坂46などへ楽曲を提供。2020年からは本格的にYouTubeで動画配信を開始する。趣味は料理と電子工作、そしてレトロ・ゲーム。

【Recent Work】

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BEMANI曲をバンドで演奏してみた
※「airflow -dreaming of the sky-」の作編曲プロデュースを担当
V.A.(KONAMI)

 

製品情報

h-resolution.com

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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