アンドリュー・シェップスが語るWAVES

 アデル、ジェイ・Z、メタリカ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなどの著名アーティストを手掛け、これまでに幾度もグラミーを受賞しているミックス・エンジニア/プロデューサーのアンドリュー・シェップス氏。ここでは彼が愛用するWAVESプラグインと、それらの使い方などについて語っていただいた。また彼との共同開発によって生まれたWAVESプラグインも掲載したので、ぜひ参考にしてみてほしい。

Renaissance Voxは
ボーカルを前に出したいときに用います

 アデル、ジェイ・Z、メタリカなどのアーティストを手掛けるミックス・エンジニア/プロデューサーのアンドリュー・シェップス氏。彼が一番最初に使用したWAVESプラグインは、EQのQ10 Equalizer(以下、Q10)だったと言う。

 「私の記憶によると、Q10はWAVESからリリースされた最初のプラグインで、私の知っている限りでは初めてのサード・パーティ製のプラグインでもありました。そして、それはまさに当時のDAWの新しい領域を開拓しているように感じたのです。そのとき、メーカーの人がこんなことを言っていたのを覚えています。“私たちは、ハードウェアを精密にモデリングしたEQプラグインを作る必要はない”と。とても印象的でした。それまで、一つのEQにハイパス/ローパス・フィルター、バンドパス・フィルター、シェルビングなどEQモードを柔軟に扱える10バンドEQは存在していませんでしたし、それをたった一つのプラグイン内で行うことができるなんてとても驚くべきことでした!」

 何年もの間、シェップス氏は大量のアウトボードと大きなコンソールを使ってミックスしており、プラグインを使うのは細かい周波数帯域の調整、派手なエフェクト処理、またはハードウェアでは困難なオートメーション設定を行うときくらいだと話す。しかし、ここ2年くらいはそうではないそうだ。

 「現在、私は100%イン・ザ・ボックスでミックスをしており、完全にプラグインが中心のワークフローとなったのです。もちろんレコーディングをするには機材が必要で、私はこれまで使用してきたすべてのハードウェアを愛しています。しかし、ミックスではもうこれらを使う必要はないでしょう」

 シェップス氏はミックス時にハイパス・フィルターを幾つも用いるため、現在もQ10を使っているという。その理由をこう説明する。

 「すべてのハイパス・フィルターはそれぞれのキャラクターを持っており、特にスロープの値が違ったりするんです。だから私は、いまだにQ10にこだわり続けているんですよ」

 ここでシェップス氏に、普段から愛用するWAVESプラグインを幾つか聞いてみよう。

 「まずは、ボーカル・ダイナミクス・プラグインのRenaissance Vox。シンプルな操作性で、私はボーカルを少しだけ前に出したいときによく用います。次にアビイ・ロード・スタジオ独自のダブリング手法を再現したプラグイン、Reel ADTも好きです。恐らく皆さんには聴こえていないと思いますが、私はリバーブやディレイを使ってステレオ・イメージを広げたり、音に厚みを出したりしています。また私はサウンドにキャラクターと深みを与えるために、いつもピッチ・シフトがかかったショート・ディレイを探しているのですが、Reel ADTはまさにそういった効果を付加することに特化しているんです。あなたが望むならクレイジーなサウンドにすることもできますし、特徴のある深みを与えることも可能です。設定次第でさまざまな効果を与えることができるでしょう」

API 560は中域のブースト感が好きで
このようなプラグインはほかにありません

 そのほかシェップス氏が好きなのは、フランジャー/フェイザー・プラグインのMetaFlangerだという。

 「デフォルトではLFOデプスにサイン波が設定されていますが、ときどき三角波に変えたり、ステレオ・イメージを広げてみたりするんです。あとはオートメーションを設定したり。例えば、曲のブリッジで遅めにフランジャーをかけ、徐々に速くしていくのです。それに伴いMixとFeedbackの値もオートメーションで変化させたりしますね。このような感じで私はMetaFlangerを使っています」

 WAVESプラグインにはAPIのEQをモデリングしたAPI 550A/550B/560があるが、中でもシェップス氏はAPI 560が大好きだそうだ。

 「それまで実機ではいつも550Aを用いており、560は全く使用していませんでした。しかしWAVESプラグインではAPI 560の方を使っているんです。理由は中域のブースト感が好きだから。この引き締まった中域の感じを出せるEQプラグインはほかにはないでしょう」

 EQに続いてコンプレッサーでは、WAVES CLA-76とWAVES CLA-3Aがシェップス氏の好みだそう。彼は理由をこう語ってくれた。

 「なぜならこれらのサウンドにはとても粘り気があり、私にとって非常に特別な音がします。普段使っている実機は、プラグインとくらべて音が少しひずんでおり、恐らくそれが逆に私がCLA-76とCLA-3Aのサウンドを、きめ細かくて明るく感じる理由なのでしょう。だから、私は実機よりもプラグインのCLA-76とCLA-3Aの音色が好きなのです」

 ほかにも、エンジニアのジャック・ジョセフ・プイグ氏が所有する真空管コンプレッサーFAIRCHILD 670をモデリングしたプラグイン=PuigChild 670も愛用しているそうだ。シェップス氏は「私はFAIRCHILDの音が好きではないので今まで一度も使ったことがありませんが、PuigChild 670のサウンドはとても美しいんです」と話す。

 最後に、シェップス氏からこんなコメントをいただいた。

 「レコーディング/ミックスで大切な機材は次の2つです。まずは優れたマイク、そして良いスピーカー。つまりチェインの最初と最後ですね。チェインの中間であるプリアンプやEQ、コンプレッサーなどのアウトボード類が思い浮かぶかもしれません。もし、あなたに余裕があるのなら手に入れれば良いでしょう。しかし、これらのアウトボード類は必ずしも“必要”ではないのです。なぜなら、WAVESプラグインがあるからです」

アンドリュー・シェップス 共同開発プラグイン

▲Scheps Omni Channelは、サチュレーション/コンプ/EQ/ディエッサー/ゲートの計5つのスロットからなるチャンネル・ストリップ型のプラグイン。さらに、チェイン内のどこへでもスロットをインサートできるINSERTスロットも装備し、Scheps Omni Channel自身のモジュールほか、WAVESプラグインを読み込むことができる ▲Scheps Omni Channelは、サチュレーション/コンプ/EQ/ディエッサー/ゲートの計5つのスロットからなるチャンネル・ストリップ型のプラグイン。さらに、チェイン内のどこへでもスロットをインサートできるINSERTスロットも装備し、Scheps Omni Channel自身のモジュールほか、WAVESプラグインを読み込むことができる
▲Scheps Parallel Particlesは、ワンノブ型のエフェクト4つが統合されたプラグイン。原音に超低域の倍音を付加するSUBや、高域をブーストするAIRなどのパラメーターを備えている ▲Scheps Parallel Particlesは、ワンノブ型のエフェクト4つが統合されたプラグイン。原音に超低域の倍音を付加するSUBや、高域をブーストするAIRなどのパラメーターを備えている
▲NEVE 1073をモデルにシェップス氏と共同開発されたプラグイン=Scheps 73。オリジナルに搭載されたMARINAIRトランスも新たにモデリングし直され、より高い精度で実機を再現しているという ▲NEVE 1073をモデルにシェップス氏と共同開発されたプラグイン=Scheps 73。オリジナルに搭載されたMARINAIRトランスも新たにモデリングし直され、より高い精度で実機を再現しているという

アンドリュー・シェップスが愛用する WAVESプラグインたち

▲WAVESが開発した最初のプラグインであるQ10 Equalizer。32ビット浮動小数点(フロート)に対応している ▲WAVESが開発した最初のプラグインであるQ10 Equalizer。32ビット浮動小数点(フロート)に対応している
▲ボーカル・ダイナミクス・プラグインのRenaissance Vox。シンプルな操作性でゲート/コンプ処理が行える ▲ボーカル・ダイナミクス・プラグインのRenaissance Vox。シンプルな操作性でゲート/コンプ処理が行える
▲MetaFlangerは、フランジャー/フェイザー・プラグイン。テープ・ディレイ・エミュレーション・スイッチや、波形表示のLFOデプス機能を装備している ▲MetaFlangerは、フランジャー/フェイザー・プラグイン。テープ・ディレイ・エミュレーション・スイッチや、波形表示のLFOデプス機能を装備している
▶アビイ・ロード・スタジオ独自のダブリング手法を再現したプラグインのReel ADT。2つの信号のテープ・サチュレーションの具合も別々に設定することができる ▶アビイ・ロード・スタジオ独自のダブリング手法を再現したプラグインのReel ADT。2つの信号のテープ・サチュレーションの具合も別々に設定することができる
▲クリス・ロード=アルジ氏が所有するビンテージ・コンプレッサー、UREI 1176を忠実にモデリングしたプラグインのCLA-76 ▲クリス・ロード=アルジ氏が所有するビンテージ・コンプレッサー、UREI 1176を忠実にモデリングしたプラグインのCLA-76
▲CLA-76同様、こちらもクリス・ロード=アルジ氏との共同開発によって生まれたプラグイン・コンプレッサーのCLA-3A。ロード=アルジ氏のUREI LA-3Aがモデルとなっている ▲CLA-76同様、こちらもクリス・ロード=アルジ氏との共同開発によって生まれたプラグイン・コンプレッサーのCLA-3A。ロード=アルジ氏のUREI LA-3Aがモデルとなっている
▲1967年にAPIから発売された10バンド・グラフィックEQ=560を基にしたプラグイン、API 560。ブースト/カット量でQ幅を自動調整する機能を搭載する ▲1967年にAPIから発売された10バンド・グラフィックEQ=560を基にしたプラグイン、API 560。ブースト/カット量でQ幅を自動調整する機能を搭載する
▲U2やブラック・アイド・ピーズを手掛けるエンジニア=ジャック・ジョセフ・プイグ氏が所有する真空管コンプレッサーFAIRCHILD 670を細部までモデリングしたプラグイン、PuigChild 670 ▲U2やブラック・アイド・ピーズを手掛けるエンジニア=ジャック・ジョセフ・プイグ氏が所有する真空管コンプレッサーFAIRCHILD 670を細部までモデリングしたプラグイン、PuigChild 670

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メディア・インテグレーション WAVESオフィシャル・サイト
https://www.minet.jp/brand/waves/top/

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https://store.minet.jp/

サウンド&レコーディング・マガジン 2020年2月号より)