WAVESの先進性と進化

 DAWでの制作では不可欠なプラグイン・エフェクト。そのルーツと言えるメーカーWAVESは、既に200種に迫るプラグインをリリースしている一大ブランドだ。一方で、そのラインナップが膨大なだけに、初めてのユーザーにとっては自分に合った製品を見つけにくいという悩みもあるだろう。また、長年のWAVES愛用者であっても今まで気づかずに過ごしてしまっていたプラグインもあるはずだ。そこで、特集でWAVESのプラグインの魅力をあらためて深く掘り下げてみることに。あなたの悩みは、WAVESプラグインが解決する! そんな約200種という膨大なプラグイン・ラインナップを誇るWAVES。まずはその歴史を振り返ることで、大まかなプラグインの分類やブランドとしての哲学を探ってみることにしよう。

最初の製品は1993年リリースのQ10

 WAVESのストーリーは、二人のイスラエル人の出会いから始まる。エンジニアリングのバックグラウンドを持つジラール・ケレン氏(現CEO)は、1980年代初頭、いとこの紹介でバンド活動に取り組むメイアー・シャーシュア氏(現CTO)に出会う。二人とも大学で数学や物理を専攻していたこともあって、デジタル技術で音の処理を行うという共通の目標を打ち立てた。当時はまだコンピューターのCPUクロックが数十MHz、内蔵ハード・ディスクも数十MBという時代。つまり、1曲分のオーディオ・データをCDクオリティでコンピューターに取り込むことすら難しいときに、デジタルでオーディオ処理を行うというその先見の明には驚かされる。

 二人は当初、ボコーダーを作ろうと考えたそうだが、その過程で優れた特性のフィルターが必要となり、これが後にWAVES最初の製品となるイコライザー・プラグイン、Q10の原型となる。その技術に関心を持ったアメリカのベンチャー企業が二人を雇い入れるが、1992年に同社の運転資金が底を突いた。そしてケレン氏とシャーシュア氏は独立してWAVESを創業する。折良くAVID Pro Toolsの前身であるDIGIDESIGN Sound Designer IIがプラグインで機能を拡張できるアーキテクチャーを採用。1993年10月、初のサード・パーティ用プラグインとしてWAVESが10バンドEQのQ10 Equalizerをリリースした。

▲Q10 Equalizer。WAVES最初のプラグインは、フルパラメトリック10バンドのEQ。2017年にリリース25周年を記念しAudioTrack、L1 Ultramaximizerとともに画面デザインを一新した(旧デザインでも使用可能)。この3つのプラグインは同時に64ビット精度となり、32ビット浮動小数処理にも対応するアップデートも実現 ▲Q10 Equalizer。WAVES最初のプラグインは、フルパラメトリック10バンドのEQ。2017年にリリース25周年を記念しAudioTrack、L1 Ultramaximizerとともに画面デザインを一新した(旧デザインでも使用可能)。この3つのプラグインは同時に64ビット精度となり、32ビット浮動小数処理にも対応するアップデートも実現

 WAVESはその後L1 Ultramaximizer、C1 Compressor、S1 Stereo Imagerという、現在も人気のプラグインを次々とリリース。並行してADOBE Premierなど、新たなプラットフォームへの対応を果たした。その後もVSTやAU、NKSなど、新しい規格が誕生するたびにWAVESはバージョン・アップで対応し続けてきている。

▲S1 Stereo Imager。実はQ10よりも先に開発が進められたが、当時のプロセッサーの処理能力や、ユーザーのなじみの深さを優先したために4番目のリリースとなったステレオ・イメージャー。近年では左右のスピーカー外に定位するような音が求められるケースが多く、ふたたび注目を集めている。左右の広さを保ったままステレオ・パンニングも可能 ▲S1 Stereo Imager。実はQ10よりも先に開発が進められたが、当時のプロセッサーの処理能力や、ユーザーのなじみの深さを優先したために4番目のリリースとなったステレオ・イメージャー。近年では左右のスピーカー外に定位するような音が求められるケースが多く、ふたたび注目を集めている。左右の広さを保ったままステレオ・パンニングも可能

デジタル化の流れを踏まえアナログの再現に着手

 WAVESの創業当初、デジタル処理のプラグインに求められていたのは、アナログ機器が苦手とする正確な処理であった。また、まだDSPの制御に複雑なプログラミングを直接しなければいけなかった当時、画面上でグラフィカルなコントロールができるという点も画期的だった。

 ところが、次第にコンピューター内部でオーディオ処理が完結される時代になり、プラグインに望まれる機能がアナログ機器の代替へと移り変わっていく。WAVESでは1997年のRenaissance Compressorを皮切りに、アナログのようなフィーリングを備えたRenaissance Seriesをリリースする。

▲Renaissance Compressor。Opto/Electro、Smooth/Warmの切り替えでさまざまな特性が得られるコンプレッサー。最新のVer. 11ではDark/Lightという新しいスキンも採用し、スタイリッシュなユーザー・インターフェースとなった(従来の画面もLegacyとして表示可能) ▲Renaissance Compressor。Opto/Electro、Smooth/Warmの切り替えでさまざまな特性が得られるコンプレッサー。最新のVer. 11ではDark/Lightという新しいスキンも採用し、スタイリッシュなユーザー・インターフェースとなった(従来の画面もLegacyとして表示可能)

 その後も、サラウンド対応の360° Surround Toolsやマスタリング用のリニア・フェイズ系エフェクト、インパルス・レスポンス・リバーブのIR-1、ピッチ補正ツールのWAVES Tuneなど、デジタルの特徴を生かした製品をリリースしながら、2005年にはギター・アンプ&エフェクトをシミュレートしたGTR、そして2006年には大型コンソールのEQ/ダイナミクスを再現したSSL 4000 Collectionが登場。モデリング技術によってアナログ回路をコピーする技術の布石は2004年リリースのQ-Cloneから登場したが、実在の名機を再現する方向に大きく舵を切った。これはコンソールレスの環境で制作するユーザーが増えたことによって、逆にコンソールのサウンドが求められるようになってきたことへの、WAVESからの返答だろう。

▲SSL 4000 Collection。SSL SL4000E/Gシリーズのチャンネル・ストリップやバス・コンプなどを再現したプラグイン4種を収録。このバンドルとAbbey Road Collectionは最上位バンドルMercuryにも含まれていないが、プロの必携ツールとして人気 ▲SSL 4000 Collection。SSL SL4000E/Gシリーズのチャンネル・ストリップやバス・コンプなどを再現したプラグイン4種を収録。このバンドルとAbbey Road Collectionは最上位バンドルMercuryにも含まれていないが、プロの必携ツールとして人気

 翌2007年にはV-Collection、API Collectionが、さらに2008年にはエンジニアのジャック・ジョセフ・プイグ氏が所有するビンテージ・アウトボードをモデリングしたJJP Analog Legendsがリリースされる。

 こうした再現系プラグインでは、アビイ・ロード・スタジオと提携によって生み出されたAbbey Road Collectionが近年の注目株。アビイ・ロード所有のビンテージ機材だけでなく、Abbey Road Chambers(2018年)ではエコー・チェンバーの響きまでもプラグイン化している。

▲Abbey Road Chambers。ビートルズが愛したアビイ・ロード2stのエコー・チェンバーに加え、同スタジオのミラー・ルーム、オリンピック・スタジオのストーン・ルームの響きを再現。収録マイクや再生スピーカーの種類と位置も選択可能。コンソールやセンド段のテープ・ディレイなどもモデリングしている ▲Abbey Road Chambers。ビートルズが愛したアビイ・ロード2stのエコー・チェンバーに加え、同スタジオのミラー・ルーム、オリンピック・スタジオのストーン・ルームの響きを再現。収録マイクや再生スピーカーの種類と位置も選択可能。コンソールやセンド段のテープ・ディレイなどもモデリングしている

ミックスのワークフローを変えるプラグイン

 さらに、全く新しいコンセプトのプラグインとしてSignature Seriesが2009年からリリースされる。これは特定の機材を再現するのではなく、著名エンジニアの手法そのものをプラグイン化するというもの。

 トニー・マセラティ氏をはじめ、ジャック・ジョセフ・プイグ氏、クリス・ロード=アルジ氏、エディ・クレイマー氏など新旧の名エンジニアたちの技法をわずかなパラメーターにまとめたものだ。同様に、たった一つのノブだけでコントロール可能なOneKnob Seriesが2011年に登場。さらにOneKnob SeriesのコンセプトがSignature Seriesにも応用され、2016年にはGreg Wells Signature Seriesとしてリリースされた。

▲Greg Wells Voice Centric。著名エンジニアの手法をプラグイン化するSignature Series。Greg Wells Signatureの4製品はいずれも“Centric”と銘打たれ、中央の大きなノブで効果をコントロールできるシンプルな仕様となっている。グレッグ・ウェルズ氏はアデル、ケイティ・ペリー、ワン・リパブリック、ミーカ、トゥエンティ・ワン・パイロッツなどの作品にプロデューサー/エンジニアとして参加している人物 ▲Greg Wells Voice Centric。著名エンジニアの手法をプラグイン化するSignature Series。Greg Wells Signatureの4製品はいずれも“Centric”と銘打たれ、中央の大きなノブで効果をコントロールできるシンプルな仕様となっている。グレッグ・ウェルズ氏はアデル、ケイティ・ペリー、ワン・リパブリック、ミーカ、トゥエンティ・ワン・パイロッツなどの作品にプロデューサー/エンジニアとして参加している人物

 こうしたシンプルな操作性を持つ複合エフェクトの登場は、必ずしもオリジナルのハードウェアを知らない世代が増えたことや、エンジニアリングにさほど明るくないクリエイターにまでDAWが浸透したことを反映したものだろう。一方で、時間をかけずに良い音が作れる点に多くのプロ・エンジニアが着目し、こうしたプラグインを使い始めてもいるのだ。

 現在のWAVESプラグインのバージョンは11。Renaissance Seriesに新しいユーザー・インターフェースが採用されるなど、従来のユーザーの互換性を考慮しながら、新しい試みがなされている。そのほか、WAVESにはアナログの再現とデジタルをハイブリッドしたH-Seriesや、この特集でも取り上げるプラグイン・インストゥルメント群、優れたユーティリティなど、音楽制作のトレンドに沿ったプラグインをそろえており、音楽クリエイターからエンジニア、ポスプロなど、さまざまな用途に対応できるラインナップがそろっている。近年はPAでも多くのWAVESプラグインが活用されるようになった。

 なお、WAVESでは、かつては関連性の高いプラグインをまとめたバンドル形式で製品を販売していたが、現在は個々のプラグインも購入可能。しかも、自分が所有しているプラグイン/バンドルが含まれるバンドルにアップグレードすることが可能となっているのもうれしいポイントだ。 

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サウンド&レコーディング・マガジン 2020年2月号より)