「TK AUDIO T-Komp」製品レビュー:バリアブルMu方式のレシオ・カーブで動作するデュアル・モノ・コンプ

TK AUDIOT-Komp
 “ビンテージのエッセンス”と“現代で求められる機能”をリーズナブルな価格帯で実現する、トーマス“TK”クリスティアンソン氏によるスウェーデンのブランド、TK AUDIO。筆者は本誌2019年9月号でバス・コンプレッサーのBC1-THDをレビューしましたが、まさにコンセプト通りの誠実なサウンドでした。今回紹介するのは同社のT-Kompなるデュアル・モノ・コンプレッサー。ブランド名をもじった自信作ということでしょうか? 期待が高まります。

2つのコンプレッション回路を選択可能
ハイパス・フィルターとブレンド機能も実装

 コンプレッサーといってもパーツや電気回路構成によってさまざまなコンプレッション・スタイルを持ったモデルがあるのは、サンレコ読者の皆様はご存じのことでしょう。T-Kompはレシオがリダクション量に応じて変化するバリアブルMuコンプレッサーのレシオ・カーブを、真空管を使わずに再現していることが大きな特徴です。
 設定項目はフロント・パネル左端からスレッショルド、メイクアップ、ブレンド、タイミングの4つ。本機にはアタックとリリースのつまみが無く、1~4の数字とA(アダプティブ・モード)で設定できるタイミングというパラメーターで、アタックとリリースをコントロールします。1が最速で、数字が進むにつれて遅く緩くコンプレッションがかかる仕組みです。最も遅い4は、DBX 160VUがシミュレートされているとのこと。原音とエフェクト音を混ぜるブレンド・ノブもポイントです。攻めの設定がパッと試せるのはクリエイティビティが刺激されますね。これらのつまみはすべてステップ式です。

 タイミング・ノブの隣には、4つの機能を制御するスイッチが並んでいます。左上から時計周りに、コンプレッション回路のフィードフォワード/フィードバックを切り替えるFB、エフェクトのオン/オフを行うIN、1:1〜20:1のレシオ・カーブを1:1〜2:1にする2:1、コンプレッサー検知信号のハイパス・フィルター(150Hz/−6dB/oct)を起動させるHPFです。

▲4つのスイッチにより、さまざまなコンプレッションを実現する。左上から時計回りに回路のフィードフォワード/フィードバックを切り替えるFB、コンプレッションを有効にするIN、ハイパス・フィルター(1 50Hz/−6dB/Oct)をかけるHPF、レシオ・カーブを1:1〜2:1および1:1〜10:1から選ぶ2:1を装備する ▲4つのスイッチにより、さまざまなコンプレッションを実現する。左上から時計回りに回路のフィードフォワード/フィードバックを切り替えるFB、コンプレッションを有効にするIN、ハイパス・フィルター(150Hz/−6dB/Oct)をかけるHPF、レシオ・カーブを1:1〜2:1および1:1〜10:1から選ぶ2:1を装備する

 中でも興味を引かれたのはFBスイッチ。コンプレッサーを動作させるために入力信号をどこで検知するかが、2通り用意されています。フィードフォワードは現代の機器やプラグインでよく使われている、入力信号をコンプレッサー検知に使う手法。一方フィードバックはビンテージ・コンプレッサーでよく使われていた回路で、一度リダクションされた信号をコンプレッサー検知に使います。VINTAGEDESIGNというブランドも手掛ける、クリスティアンソン氏のこだわりが感じられる機能ですね。

音色変化の少ないカラッとしたサウンド
ビンテージ・コンプのような音色にもできる

 それではマスターにインサートしてみましょう。まずはミドルテンポの女性ボーカルのバンド曲にかけます。1980~1990年代のイギリスっぽい、カラッとしたサウンドというのが第一印象。コンプレッション後の質感は、大きく変わりません。BC1-THDも似た傾向だったので、TK AUDIOのポリシーなのだと思います。真空管非搭載のモデルなので当たり前ではありますが、バリアブルMuコンプレッサーのような真空管機器らしい色付けはありませんでした。

 さらに細かくチェックしていきます。フィードフォワード回路でタイミングを1、レシオを1:1〜2:1にして、1dBほどリダクションしてみました。アタック/リリース最速なだけあって、キックとスネアのトランジェントがつぶれて丸くなり、聴きやすくなりますね。中域がキュッと前に来ます。コンプレッションによる低域のうねりが気持ち良いのですが、若干詰まって聴こえてきたのでタイミングを緩くしていきます。2に設定するとキックのビーター感が戻ってきました。この曲調だとこれぐらいの押し出し感がちょうど良さそうです。さらに4に設定してもアタックは遅過ぎず、どの設定も実用的。グルーブの細かい調整が行えそうです。

 Aと表記されたアダプティブ・モードは1~4とは少し違った変化です。説明書には“不要な低周波数を防ぐために速いシグナルに対しては速く、遅いシグナルに対しては遅くRMSディテクターが機能する”とありますが、効果としてはトランジェント的なピークは抑えつつもアタックが残り、深くかけても歌が後ろに引っ込みません。高域を多く含むシンバルやアコギの接触音といったパートはディエッサーをかけたようになだらかになりますが、キックなどの低域はムッチリ感を保ったままにできました。もちろんこのモードでも深くリダクションすれば、張り付いたようなサウンドにすることも可能です。

 次にFBスイッチを入れてみると、ビンテージ・コンプレッサーのような全周波数帯域がヌメッとした質感になりました。ピークがうまく取れて、上品な一体感を演出してくれます。キックやスネアで引っかかっていたコンプが歌でも引っかかるようになり、均一に音楽的なかかり方をしてくれますね。安心できる聴き心地を求めるなら、FBスイッチは効果絶大。これは面白い機能ですね。ただし、楽曲の持つスピード感が変わって遅く聴こえるようになるかもしれないので、狙うサウンドによって使い分ける必要はあります。

 レシオを1:1~20:1にした場合ではどうでしょうか?テンポ速めの生ドラムにインサートしてみましょう。タイミング1でスレッショルドを深くしていきます。1dB程度のリダクションだとほど良いパンチ感が得られ、上品なコンプレッサーといった雰囲気。続けて3dB付近までリダクションさせるとキャラクターが濃くなり、コンプ感が分かりやすくなりました。リダクション量が10dBまでいくと音色の変化は少ないものの、あのギスギス感をちゃんと表現してくれます。

 さまざまな設定で試してみましたが、このようにリダクション量により変動するレシオに伴ってキャラクターが変化していくのが、バリアブルMuコンプレッサーのレシオ・カーブのシミュレートなのだと実感できました。この価格帯にもかかわらず実に多機能なコンプレッサーで、あっぱれの振れ幅です。ハードウェアをいじり倒して偶然得られる想像以上の結果や、楽しさを体験するにはもってこいのギアだと思います。

▲リア・パネルの端子は入出力(XLR)のみとシンプルな構成 ▲リア・パネルの端子は入出力(XLR)のみとシンプルな構成

サウンド&レコーディング・マガジン 2020年3月号より)

TK AUDIO
T-Komp
オープン・プライス(市場予想価格:145,000円前後)
▪入力インピーダンス:24kΩ ▪出力インピーダンス:50Ω ▪最大入力レベル:+26dBu ▪最大出力レベル:+26dBu ▪周波数特性:20Hz〜20kHz(±1dB) ▪外形寸法:420(W)×42(H)×250(D)mm ▪重量:3.04kg