WavetableやAnalogを活用したサンプル要らずの音作りテクニック 〜Seihoが使うLive【第2回】

DAW「Live」の使い方をSeihoが解説する

 どうもSeihoです。先月の話の続きね。それが、ある日突然、吉田先生が小学校に来なくなっちゃって……。もちろん音楽の授業はすべて休みになるし、担任の先生も“病気じゃないし、事情が分からない”って話してて、子供ながらに何かに巻き込まれたんじゃないかって心配してた。それから2週間後の月曜の朝礼に吉田先生が戻ってきたの。まさかの髪をすべてピンクに染めて。あ、もう文字数が。真相は来月の最終回で! それじゃ行ってみよー。

多機能で使いやすいWavetable
LFOを活用した鳴りの良いベース作り

 Live Suiteには、多機能なウェーブテーブル・シンセ=Wavetableが内蔵されています。11種のカテゴリーには多くのウェーブテーブルを搭載。各ウェーブテーブルは連続的に変化する複数の波形から構成されていて、波形横のスライダーでオシレーターの再生位置を変化させることで、複雑な音色変化を得られるのです。オシレーター・エフェクトにはFM、Classic、Modernモードが備わっています。

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Live Suiteに付属のWavetable。画面を拡張するとオシレーターやエンベロープの波形が拡大して表示される。上段にオシレーター×2基+サブオシレーター、下段にエンベロープ・ジェネレーター×3、LFO×2が位置する。オシレーターのウェーブテーブルは連続的に変化する複数の波形で構成。波形横にあるスライダーでポジションを選択したり、LFOなどで連続的に位置を変化させることで、複雑な音色変化を得ることができる

 ユニゾンも搭載されていて、ランダムな間隔でピッチを揺らすShimmer、デチューン後にパンニングするClassic、オシレーター位置とデチューン量をランダムにするRandom Noteなど全部で6種類。オシレーター数を設定するVoicesと効果の強さを設定するAmountも用意されています。

 

 僕はDistortionカテゴリー内のClipped Sweepを使ってダブステップで使用されるような強いベースを作ったりもするので、ここではその作り方を紹介します。まずはマトリックス・タブでOsc 1 Pos(オシレーター1の波形位置)にLFOをアサイン。するとWavetableの位置が動いて波形が変化するので、LFOのアタックで立ち上がりを、Amountで幅を決めましょう。次に一定間隔でMIDIノートを打ち込みます。そして、サンプル&ホールドにしたLFO2でAmountを変化させ、フリーズしてオーディオに。すると、波形位置がランダムで変化するので、MIDIノート上は同じピッチでも、毎回鳴りが違うベース音になります。あとは好きな音をサンプラーに入れて使ってもいいですし、ベース単音で良い鳴りの波形を切り取って別のオーディオ・トラックに張り付けたりもします。モジュラー・シンセ的にガンガンいじれて楽しく、画面に表示される波形やパラメーターがいっぱい動くからかわいい! 愛着が湧きます。

 

ピッチやリバーブを複雑に変化させ
曲のスパイスになる素材を探す

 次は、ピッチ・シフト・エフェクトのGrain Delayを紹介。これを使うと、フィードバック音が繰り返されるたびにピッチが上がっていくので、ボーカル素材のピッチを1オクターブ上げたい場合などに、有機的な変化が付けられます。リード・シンセに使っても面白いですね。複雑な効果が出るので、使ったらめちゃめちゃテンションが上がると思います。パラメーターはFeedback、Pitch、Rand Pitchなどがあり、2つのパラメーターを選んでXY軸上でコントロールすることも可能。僕の曲では、「Memory of Crying」の1音目が“ザ・Grain Delay”という感じの音ですね。そのころはよくボーカル・チョップにGrain DelayとReverbをかけていました。

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ピッチ・シフト・エフェクトのGrain Delay。主要なパラメーターはSpray/Frequency/Pitch/Random Pitch/Feedback/DryWetの6種類。画面左と下に表示された項目をそれぞれ選択することで、XY軸上で2つのパラメーターの数値を同時にコントロールすることができる

 併せてよく使うのが前回も紹介したMax for LiveパッチのLFOやShaper。Grain DelayのFeedbackやDry/Wet、ディレイ幅、FrequencyにLFOをマッピングすると、思いもよらない効果が得られます。ReverbにもLFOを適用。Dry/WetやDecay Timeを変化させるために、LFOを2つ用意します。どちらも波形はRandomを選び、Rateは任意の拍数に設定。1つはDry/Wet、もう1つはDecay Timeにマッピングすることで、ディレイが突然長くなったり短くなったりするボーカル・トラックにできます。同様に、ドラム・ループでも、リバーブが長くて気持ち良いスネアが突然現れたりします。

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Grain DelayとReverbのパラメーターをMaxパッチのLFOやShaperで動かすと思いも寄らない効果を発揮する。LFO内の左上に表示されているのがマッピングしているパラメーター名(赤枠)。ここではReverbのDry/Wetをランダム波で動かしている

 僕は制作過程として、まず全体を作って、あとからスパイスを加えていきます。そのスパイスとして、ドラム・トラックやリフをめちゃくちゃに崩してみて、効果的になるように入れていくことが多いんです。こういうセットにとりあえず流し込んでみて、良かったものを素材として持っておくのはお勧めです。

 

ホワイト・ノイズから作るハイハット
合わせ技によるダブ・サイレン制作

 次に、Live内蔵のAnalogを使ってノイズからハイハットを作る方法を紹介します。Osc1のShapeはホワイト・ノイズを選択。Fil1はハイパス・フィルターを選択し、Frequencyの幅も調整します。その横にあるAmp1のリリースは最短に。これで、MIDIノートが長ければオープン・ハイハット、短ければクローズ・ハイハットのようになり、Amp1のDecayを調整することで鳴り方が変わります。さらにLFO1をオンにし、Fil1のFreq ModにあるLFO1の値を少し上げることで、Frequencyの幅がわずかに変化しフィルターが開け閉めされるので、有機的に鳴らすことが可能に。加えて、Amp1のDecayを、小さめの幅にしたMax for LiveパッチのLFOでマッピングすると、さらにハイハットらしく気持ち良く鳴らすことができます。ベロシティの強弱はLive 11のランダマイズ機能でも、MIDIエフェクトのVelocityで付けてもよいですね。

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ハイハットを作るために使用したAnalog。Osc1でホワイト・ノイズを選択→フィルターはハイパス・フィルター(HP)を設定→Amp1のリリースを最小(5ms)にすることで、MIDIノートの長さによってハイハットのクローズ/オープンが変化する。筆者はAnalogとともにMIDIエフェクトVelocity内のRandom値を調整することで各音色のベロシティにバラつきを出すが、Live 11のランダマイズ機能でも同様の処理が可能となった

 応用としては、LFOの代わりにShaperを使い、Decayの値がゆっくり伸びるようにすると、徐々にオープンしていくハイハットを作ることも可能。手動で徐々にノートが長くなるように打ち込めば“ハイハットだと思っていたら実はノイズだった”という展開を作ることもでき、盛り上げたいときには効果的です。

 

 最後に、展開して広がりが出るダブ・サイレンのような音もWavetableやAnalogで作れます。Wavetableのポジションが変わるときの音色変化が面白いので、具体例を説明しましょう。まずはマトリックス・タブでOsc 1 Posにエンベロープ・ジェネレーター(以下Env)をアサインし、ディケイを長くするとオシレーターの位置がゆっくり下がります。次にLFOをスクエア波にしてアタックを上げ、Pitchにアサイン。すると、時間経過でオシレーターの位置が変化しつつピッチが上がっていくので、展開前のSEとして便利です。さらに、LFOのRateをEnvで変化するようにマトリックス・タブでアサインし、これをEchoで飛ばすとダブ・サイレンのような音になります。LFOやEnvの概念が分かれば一瞬で作れますし、サンプル無しでも簡単にできるので、みなさんも試してみてください!

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WavetableとEchoの組み合わせでダブ・サイレンのような音を作ることも可能。Wavetable上のタブ・マトリックスで各パラメーターをアサインしながら作っていく。手順は、Osc 1 Pos(オシレーター1の波形位置)にEnv 2(エンベロープ・ジェネレーター)をアサイン(黄枠)→エンベロープのディケイを長くする→PitchにLFO1をアサイン(紫枠)→LFO1をスクエア波にしてアタックを上げる→LFO 1 RateにEnv 3をアサイン(緑枠)。これにEchoを適用する

Seiho

【Profile】米PitchforkやFADERなど多くの海外メディアからのアテンションを受け、LOW END THEORY、SXSWといった海外主要イベントへ出演。フライング・ロータス、ディスクロージャー、マシュー・ハーバート、カシミア・キャットらとのツアーや、三浦大知、矢野顕子、KID FRESINO、PUNPEEらとの共演やプロデュース、またAvec Avecとのポップ・デュオ=Sugar’s Campaignなどで知られる大阪出身のアーティスト、プロデューサー。

【Recent work】

『DESTINATION』
Seiho

(The Deep Land of Gray and Red)

 

製品情報

 

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