ジャンルレスなポップ・ミュージックを奏でる変態紳士クラブの一員、WILYWNKAが1月28日に6人のラッパーを客演に迎えた最新EP『NOT FOR RADIO』をリリースした。アメリカ東海岸の90'sヒップ・ホップ感漂う本作には、BACHLOGICやtofubeatsに加え、BudaMunkなど計8名がビート・プロデューサーとして名を連ねている。今回は、収録が行われた1% StudioでWILYWNKAとエンジニアの中武講平氏に話を聞いた。また後半では、本作のうち2曲に携わるビート・メイカーENDRUNにもインタビューを行った。
Text:Susumu Nakagawa Photo:AmonRyu
インタビュー前編はこちら:
センターにドシッと定位させることによってラップの存在感や説得力が増すと思うんです
ーレコーディング中には、どのようなことに気を付けていますか?
WILYWNKA いつも講平さんに、声のトーンやテンションを確認してもらっています。
中武 単純にテイクごとに変わってしまう場合もありますし、曲によってはどんなトーンがオケとマッチするのか、そういったことをアドバイスしているんです。
WILYWNKA もう一つ重要なのが、レコーディング前にやる講平さんとの情報交換タイム。“こういう曲が好きで、こういうのやりたいんですよ〜”とか、そういうのを30分から1時間くらいしゃべりますね(笑)。これが意外と大事。スタジオに入って“はい、すぐレコーディングやりますっ”となる前にワン・クッション入れることでリラックスできるし、信頼関係も作れるような気がしています。そういったマインド作りがとても大切なんです。マインドがしっかり整ってないと、結果として声にも表れてしまうので……レコーディング時は常にノー・ストレスでやりたいですね。
ーお気に入りのマイクはありますか?
WILYWNKA SONY C-800Gです。これで全曲録っています。NEUMANNのマイクでも調子良かった記憶があるんですが、自分の声が若干細く感じることもありました。C-800Gだとラップが断然“マッチョ”に聴こえます(笑)。
中武 WILY君の声はC-800Gで録ると抜けてくるので、そのあとのEQ処理も楽ですね。以前SOYUZ 017 FETを試したこともありましたが、“高域を上げてくれ”って結構言われたので、ハイファイなマイクが合うと思います。
WILYWNKA 自分はほんまに声が低いので、オケに混ぜるとスッと後ろに隠れちゃうんですよ。スタジオのモニター・チェックではOKでも、あとで安いイアフォンで聴くといまいち音が抜けてこないこともあったので、今回は特にこの点を講平さんに相談しました。
中武 ラップが抜けないからと言って音量を上げると、今度はオケとのバランスが悪くなります。ボーカルの場合は音程があるためか、オケとのバランスを取りやすいのですが、ラップだとそれが分かりにくいので難しいんですよ。
ー具体的にどのように改善されたのですか?
中武 C-800Gにハイファイ寄りなサウンドのマイクプリAVALON DESIGN VT-737SPを通し、コンプを薄めにかけています。ダイナミクスを残してあげることで、声の芯も残せるので。
ープラグインではどのような処理を?
中武 AVID Pro Tools上では、まずFABFILTER Pro-Q3で基本的なEQ処理をして、コンプレッサーのKLANGHELM MJUCで倍音を、UNIVERSAL AUDIO Pultec EQP-1A(Legacy)で高域を足し、WAVES DeEsserで耳に痛い部分をリダクションしました。出過ぎているところをカットし、おいしい周波数帯域だけ残した上で、全体の音量を上げるとうまく行くんです。
ーラップのミックスに関して、ほかにもこだわりが?
WILYWNKA よく言うのは、ラップの音像をあまりステレオに広げないでほしいということかな。歌とかやったらすごく壮大に聴こえて有効的だと思うんですけど、ラップの場合、それは違うなって。センターにドシッと腰を下ろすことによって、ラップの存在感や説得力が増すと思いますね。
ーWILYWNKAさんの自宅にも、簡単な録音環境があるのですか?
WILYWNKA APPLE MacBook ProにPro Toolsを入れています。オーディオI/OはUNIVERSAL AUDIO Apollo Twin Xで、マイクはSHURE SM7B、モニター・スピーカーはIK MULTIMEDIA ILoud Micro Monitorです。SM7Bはめっちゃ指向性が良いですね! スピーカーから音を出しながらでも、奇麗にラップが録れちゃいます(笑)。
ーそれだけしっかり宅録環境が整っていると、どんどん曲が作れそうですね。
WILYWNKA 実は、もう3rdソロ・アルバムの制作に取りかかっているところなんです。今はそれくらいしか言えませんが、今作同様、また頑固に自分のヒップホップをやりきろうと思っています。中学生のときにヒップホップに出会い、ドキっとさせられて以来、今もまだその衝動を忘れずにラップをやっているので、今度は自分が今のキッズたちにそれをぶちかます番だと思っています!
ビート・メイカーENDRUN インタビュー
『NOT FOR RADIO』の収録曲「Big City Roller feat. KID PENSEUR」と「24 Spit feat. BES」に携わる大阪在住のビート・メイカー、ENDRUN。サンプリングした上モノを中心に構築するオーセンティックなヒップホップが得意だ。そんな彼に、この2曲について詳しい話を聞いてみよう。
いろいろなサンプルが奇跡的にうまくつながった
ーWILYWNKAと出会ったきっかけは?
ENDRUN 『NOT FOR RADIO』のジャケット・デザインを手掛けるrollswyzeから紹介されました。まだWILYWNKAが18歳くらいのときです。それから何度か一緒にスタジオに入って曲を作るようになり、今日に至ります。
ー「Big City Roller feat. KID PENSEUR」は、どのような流れで出来上がったのでしょう?
ENDRUN ビートをWILYWNKAに投げたら良いリアクションが返ってきたので、後日彼の家で一緒にアレンジを煮詰めました。彼もその場でリリックを書いていましたね。イントロの長さを調整したり、ラップに合わせてバースとフックの小節数を変更したり、そういったことをやったんです。
ー同曲は、サンプリング・ネタを用いた90'sヒップホップに仕上がっていますね。
ENDRUN よくサンプリングするんですが、この曲はいろいろな部分が奇跡的にうまくつながって完成したんです(笑)。
ービート・メイキングはどのような手順で?
ENDRUN まずはメインとなる部分をサンプリングして上モノを作ります。そこにローカット・フィルターを入れ、ループ再生しながらベース・リフやドラム・パターンを打ち込んでいくんです。一通りループが完成したら、今度は上モノのサンプルをミュートし、作成したベースやドラムがそのままハマる場所をサンプリング元の音源から探し出すという流れですね。この曲ではイントロがちょうどハマったので、それをバースで使っています。そのほかにも、アウトロの声ネタを抜き出してフィル部分に応用するということなどしていますね。
ー同曲の音源には何を用いていますか?
ENDRUN 基本的に、ドラムにはサンプル素材、ベースはIK MULTIMEDIA Modo Bassといった感じです。上モノには、自分の方で琴を足しているのですが、これにはKORGのソフト音源バンドルKorg Collectionに同梱のTritonを使用しています。自分としては、かなり満足いく仕上がりになったと思いますね。
コライトすることでビートを客観的に判断できる
ー「24 Spit feat. BES」についてはいかがでしょう?
ENDRUN ニューヨーク在住の日本人DJ/ビートメイカーDJ SCRATCH NICEが送ってきたドラムに、自分がサンプリングの上モノを乗せた曲なんですが、ベースにはModo Bassをメインで用いて、部分的にKORG Korg GadgetのMadridを使用しています。上モノにベースをレイヤーしたときに違和感を感じるところがあったので、そこだけMadridの音に差し替えているんです。こうすることによって、うまく上モノとマッチしたベースを作ることができました。
ービート全体から独特のグルーブを感じます。
ENDRUN サンプリングしたピアノには曲のテンポに合わないハイハットが重なっていたので、ピアノを強調するようにフィルターをかけています。この曲のサンプルには3つの音源から抜き出した別々のサウンドを使用しているんです。もともと異なる音源なのでキーやテンポが違ったり、意図しない音が入り込んだりしているのですが、逆にそれがサンプリングの面白いところ。予期せぬサウンドによって起こるミラクルが、サンプリングの醍醐味だと言えますね。
ーお気に入りのプラグイン・エフェクトは何ですか?
ENDRUN UADプラグインのUNIVERSAL AUDIO 610-Aです。ドラムをパキッとさせたいときによく使います。XLN AUDIO RC-20 Retro Colorは音作りのしやすさと、豊富なプリセットが魅力的ですね。
ービート・メイキングにおいて、ENDRUNさんが大切にしていることは何でしょう?
ENDRUN 一人でやらず、誰かとコライトすること。一人で作っていると、曲が良いのか悪いのか分からなくなるときがありますが、誰かと作業することによってビートを客観的に判断できるようになると思うからです。
インタビュー前編では、EP制作のきっかけからレコーディングの経緯、多彩なラッパー、ビート・メイカー陣とのコラボについて話を聞きました。
Release
『NOT FOR RADIO』
WILYWNKA
(1%)
Musician:WILYWNKA(vo)、KID PENSEUR(vo)、BES(vo)、REAL-T(vo)、kZm(vo)、MILES WORD(vo)、ISSUGI (vo)、BACHLOGIC(prog)、ENDRUN(prog)、DJ SCRATCH NICE(prog)、FEZBEATZ(prog)、JASON X(prog)、BudaMunk(prog)、NAGMATIC(prog)、tofubeats(prog)
Producer:WILYWNKA
Engineer:中武講平、サージ・ツァイ
Studio:1% Studio、プラチナム・サウンド