WILYWNKA インタビュー【前編】〜最新EP『NOT FOR RADIO』リスペクトする人たちと実現したヒップホップ作品

WILYWNKA インタビュー【前編】〜最新EP『NOT FOR RADIO』リスペクトする人たちと実現したヒップホップ作品

ジャンルレスなポップ・ミュージックを奏でる変態紳士クラブの一員、WILYWNKAが1月28日に6人のラッパーを客演に迎えた最新EP『NOT FOR RADIO』をリリースした。アメリカ東海岸の90'sヒップ・ホップ感漂う本作には、BACHLOGICやtofubeatsに加え、BudaMunkなど計8名がビート・プロデューサーとして名を連ねている。今回は、収録が行われた1% StudioでWILYWNKAとエンジニアの中武講平氏に話を聞いた。また後半では、本作のうち2曲に携わるビート・メイカーENDRUNにもインタビューを行った。

Text:Susumu Nakagawa Photo:AmonRyu

自分がリスペクトしている人たちとやりたいヒップホップを作れて純粋にうれしい

『NOT FOR RADIO』を聴くと、良い意味で“土臭い雰囲気”のWILYWNKA像が見えてきますね。

WILYWNKA はい。ジャンルレスなポップ・ミュージックを奏でる“変態紳士クラブのWILYWNKA”とはまた違った一面が見られると思います。このEPは、昔から自分が好きやった先輩だったり、今まで自分がフィーチャリングしたかったけどパッと頼めなかったりしたラッパーやビート・メイカーに声を掛けているんです。昔から一緒にやりたかった人たちだけでヒップホップ色の強いEPを作ろうと思ったんですよ。

 

制作はいつごろから始まったのでしょうか?

WILYWNKA 半年くらい前からです。どの曲も割とテンポ良く、スムーズに進みました。

中武 レコーディングの際は、1% Studioへ各ラッパーの皆さんたちに来てもらったんですけど、どの曲も良い雰囲気で作業していましたね。

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レコーディング場所となった1% Studioにて対談する、WILYWNKA(写真左)とエンジニアの中武講平氏(同右)。中武氏は、2004年にブルックリンのブッシュウィック・スタジオにてキャリアをスタートし、帰国後はavex studioやprime sound studio formに在籍。現在は1% Studio専属エンジニアとして活動している。これまでにANARCHYやWILYWNKA、Leon Fanourakis、SIRUP、黒夢、相川七瀬などの作品に携わっている

ビート・メイカー陣もバラエティに富んだ内容になっていますね。

WILYWNKA BACHLOGICさんとは以前、一緒に作品を作ったことがあります。BudaMunkさんはずっと自分が一緒にやりたかった方で、今回2曲参加するビート・メイカーのENDRUN君に紹介してもらってやっと実現しました。

 

tofubeatsさんも参加しています。

WILYWNKA tofuさんは普段からシティ・ポップっぽいビートが多いと思うんですけど、今回はリクエストするときから“90's感のあるビートが欲しい”って伝えていて。結果、すごく良い感じに間を取ったビートができたので最高でした。FEZBEATZはREAL-T君とかとずっと曲を作っている人で、JASON Xは自分が中学生くらいのときから知っている地元の先輩。彼らとも一緒にやれたのがうれしかったです。

 

ビート・メイカーは全曲で異なりますが、EP全体としてはオーセンティックなヒップホップに統一されているように感じました。

WILYWNKA 『NOT FOR RADIO』というタイトルにあるように、はっきり言って今作はめちゃくちゃポップなものではないので正直“大衆的なものなのか?”って言われたら違う気がするんです。でも自分らの中では一番格好良いと感じる音楽をやっていて……これが“売れるべきなんだ”と思って作っています。自分の原点となる音楽だし、これがマイ・スタイルなんで。変態紳士クラブではすごくポップなことをやらせてもらえている分、ソロでは男臭いWILYWNKAの一面をしっかりと見せられたらなと思いますね。

中武 レコーディングのとき、横から見ていてすごく楽しそうだなって思いましたね、単純に(笑)。

WILYWNKA そうですね、自分がリスペクトしている人たちとやりたいヒップホップ作品を出せて純粋にうれしいです。ゲストもビートも最高なんで、今めちゃくちゃ充実感に満たされています。

スタジオにサブウーファーは必須。ヒップホップは低域が鳴る環境で絶対に作るべき!

制作時には多くのビートがWILYWNKAさんのところに集まったと思うのですが、その中から幾つかをセレクトする際、どういったところが決め手となったのでしょうか?

WILYWNKA ビートを選ぶときは、基本的にイントロの第一印象で決めるんです。1分も聴かないですね。あとは自然にラップが乗る感じだったらOK。

 

今作で特に印象的だったビートはどれですか?

WILYWNKA どれも格好良いんですけど、あえて言うならBudaMunk君が手掛けた「Coast 2 Coast feat. kZm」かな。すごくシンプルな変態的なアレンジのビートですよね(笑)。パッと聴いたら乗りにくいかもしれませんが、ああいうビートこそラッパーのスキルの見せどころやなって。参加してくれたkZm君のレスポンスも素晴らしく早くて、自分の中では彼のプロップス(評価)がめちゃくちゃ上がりました。

中武 レコーディングもサクサクっと終わりましたね。

WILYWNKA 「24 Spit feat. BES」も“秒”でしたよ。この曲は講平さんのミックスによってグッと良くなりましたね!低域がバリバリ出てくるようになった。

中武 ローエンドの処理をしっかりしたんですが、そのときに役立ったのがサブウーファーのPMC PMC8-2 Sub。今ちょうどメインテナンスに出しているのでスタジオにありませんが、ローエンドが一段と見やすくなりました。

WILYWNKA スタジオにサブウーファーは必須ですね。絶対にヒップホップは、低域がブンブン鳴るスタジオで作るべきですよ。 中武 僕とWILY君は歳が結構離れているんですけど、90'sニューヨーク・ヒップホップ辺りの趣味が合うんです。この曲はレコードをサンプリングした声ネタやスクラッチ・サウンドが入っているので特にそうですが、EP全体的にも90'sヒップホップのような感じだったため、当時の雰囲気を意識しつつ、現代的にブラッシュアップしました。

1% Studioのメイン・デスク。モニター・スピーカーにはYAMAHA MSP10 Studio(外側)とGENELEC 8030A(内側)を設置す

1% Studioのメイン・デスク。モニター・スピーカーにはYAMAHA MSP10 Studio(外側)とGENELEC 8030A(内側)を設置する

ラックには、モニター・コントローラーのANTELOPE SatoriやオーディオI/OのAPOGEE Symphony I/O、マイクプリのAVALON DESIGN VT-737SP、コンプレッサーのUREI 1176LNを格

ラックには、モニター・コントローラーのANTELOPE SatoriやオーディオI/OのAPOGEE Symphony I/O、マイクプリのAVALON DESIGN VT-737SP、コンプレッサーのUREI 1176LNを格納

90'sヒップホップを意識しつつも現代的に?

中武 そうです。例えば「24 Spit feat. BES」はローファイにし過ぎると、本当に90'sヒップホップになってしまい、地味になるので、そうならないようにしたんです。

 

具体的にはどのようなことをしたのですか?

中武 ハイエンドとローエンドの処理ですね。ただ、ハイエンドを上げると今度はサンプリング・ノイズも一緒に持ち上がってしまうので、その辺のあんばいに注意して作業しました。ローエンドについては、ベースにUNIVERSAL AUDIO UADプラグインのLittle Labs VOGを挿して低域をブーストし、IZOTOPE NeutronのExciterで倍音を足しています。サンプリングの上モノは元からローファイな雰囲気だったので、若干ノイズ処理をしたくらいですね。

 

 

インタビュー後編(会員限定)では、WILYWNKAのラップ・レコーディングやプラグイン処理に加えて、WILYWNKAの宅録環境も公開! そして、本作のうち2曲に携わるビート・メイカーENDRUNにも制作について話を聞きました。

Release

『NOT FOR RADIO』
WILYWNKA
(1%)

Musician:WILYWNKA(vo)、KID PENSEUR(vo)、BES(vo)、REAL-T(vo)、kZm(vo)、MILES WORD(vo)、ISSUGI (vo)、BACHLOGIC(prog)、ENDRUN(prog)、DJ SCRATCH NICE(prog)、FEZBEATZ(prog)、JASON X(prog)、BudaMunk(prog)、NAGMATIC(prog)、tofubeats(prog)
Producer:WILYWNKA
Engineer:中武講平、サージ・ツァイ
Studio:1% Studio、プラチナム・サウンド

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