鈴木慶一 インタビュー 〜変化や劣化を利用しつつ結果的には進化したと思う

鈴木慶一 インタビュー 〜変化や劣化を利用しつつ結果的には進化したと思う

結成47年を迎えたムーンライダーズ。2011年の活動休止、2013年かしぶち哲郎(ds)の他界、その後の“休止の休止”を経て、昨年復活を宣言し、11年ぶりのアルバム『It's the moooonriders』をリリースした。サウンド&レコーディング・マガジン6月号では6人のメンバーそれぞれのインタビューに加え、サポート&スタッフにも取材。Webサイト「サンレコ」ではそこから一部をお届けしていく。まずは鈴木慶一(vo、g、k)に、新しいムーンライダーズの姿を語ってもらった。

Text:iori matsumoto Photo:Hiroki Obara

等分=平均化を意識しないでエゴを出していくことを容認する

慶一さんは、活動休止前の2011年のライブで“進化したら、またお会いしましょう”とおっしゃっていました。

慶一 ライブをやったり、レコーディングに入る前は、進化したかどうか、不安でいっぱいですよ。それは作ってみないと分からないし、行動を起こさないといけない。でも、結果的には進化したと思う。ライブを含めてね。もちろん変化や劣化もあるよ。みんな70歳前後だし、例えば武川君が大病をして高い声が出なくなったりしている。でも、その劣化を利用しつつ、進化に持っていく。

 

ライブは、断続的にですが、継続されてきました。

慶一 2020年の『カメラ=万年筆』40周年再現ライブはポイントになったね。元は、30歳前後の演奏でしょ? しかもコンピューターを使っていない。その人力の音楽を再現するのが良かったんじゃないでしょうか。あそこでどれだけ今、何ができるかを確認したんだよね。そして、年末の中野サンプラザに突入していく。バンドの本来のあり方というか、ライブをやって、レコーディングに突入するという、いいリハビリテーションになって、良い形のスタート・ラインが作れた。その中野サンプラザ公演の選曲は鈴木博文がやりたいと言って、それは良かったんだけど、その後のライブについて全員で選曲するのは難しいので、石原真さんにお願いした。そのうちにデモが集まってきたんだけど、メンバー同士で選べないので、これも外部の人に選曲を委ねようとなった。ファンハウス時代のディレクターだった松本篤彦さんにも加わってもらうことで、G.H.Q.というチームにしたんだ。GEEK HIGH QUALITYの略だけど、オタク(GEEK)だから、我々が忘れていることを覚えている。ライブのセットリストも、自分たちで決めると定番になりつつあったんだけど、それを破壊してくれた。

 

これまでは慶一さんがそうした役割を担っていた?

慶一 結果的にだけどね。私はリーダーとは思っていないけれど、いわばA&R的な立場ではあった。でも、そうでなくなりつつあるなと。メンバーがやる気になって、舞台美術とかの細かい打ち合わせにも来るようになったんだよ。ライブの選曲に鈴木博文が積極的にかかわるなんて、それは進化の一つだよね。あと、以前は、議論がソフト・ランディングするときの肝になっていたのは、岡田(徹)君とかしぶち(哲郎)君だった。

 

以前は、メンバー6等分であることにこだわりがあったように思います。でも、かしぶちさんという大きなピースが居なくなったことで、等分の必要が無くなった?

慶一 そうね。等分とは民主的にやっていくということだけど、そうじゃなくて、“民主主義“になった。民主主義とは、等分=平均化を意識しないで、エゴが出たらそれはそれでよろしい。でもその判断は全員で口を出して物事を作っていこうということ。多数決原理だから、不満もあるだろう。“等分でいいや”という柔らかい民主的なところから、よりハードなプレイスに行った。少数派の意見も保証し、自由を満喫できる場所にね。

 

それは今のムーンライダーズに必要なんですね。

慶一 必要であるからそうなったんだ。かしぶち君が居ればまた全然別なものになっていただろうし、岡田君が怪我をしていなければ……今回フル参加していればもっと変わっただろう。そのいびつな感じが民主主義。リーダーっぽい人が居れば、どこかでテーマを提出したり、こんな感じでどうだろうかというのはできる。ムーンライダーズではその辺があいまいだった。でも、それがあいまいではなくなって、表出した。だから作っていて、面白くもあり、ハードでもある。また、バンドっていうのはそういうもんだ。楽なときは無いんだ(笑)。

2011年に活動休止する前のムーンライダーズ。左から、武川雅寛(vln、tp、vo)、岡田徹(k、vo)、鈴木慶一(vo、g、k)、かしぶち哲郎(ds、vo)、白井良明(g、vo)、鈴木博文(b、vo)

みんなで一緒にベーシック録音する形に回帰

レコーディングのスタートはどのように?

慶一 一つポイントとなったのは2020年にデモ・テープを集め出したこと。コロナ禍で、みんな暇だろうと考えた。SNSでバトンを渡しているくらいなら、音楽を作るべきだし、この機会を利用しようじゃないかと。それを皆さんにメールで相談してみて、まず曲を作ってみよう、1分くらいの短いものでいいよというんで、作り出した。以降、どんどんデモが集まって、最終的な選曲会議は2021年10月。50曲くらいをリハーサル・スタジオにみんな集まって、6〜7時間かかって聴いた。それで最初に2曲、G.H.Q.に選んでもらったんだけど、それが「Smile」と「S.A.D」で、私は正直言ってびっくりしたね。私の曲が選ばれていないことではなくて、3拍子の「Smile」と、正体不明の無国籍サウンドの「S.A.D」だから。当然その2曲からレコーディングに入っていく。

 

2000年代以降、生演奏の比重が増した印象がありましたが、今回のアルバムはまた違って、バンド感と言いますか、サウンドでも“6等分の感覚”が溶けて、侵食し合っているような感じがします。

慶一 21世紀に入ってからの10年と違うのは、まずはみんな一緒にベーシックを演奏したことだね。休止前は、武川(雅寛)君の曲ではそういうことをしていた。つまりデモがシンプルだから、こちらも取り組みやすいし、変化が付く。逆にかっちりしたデモの場合は、そこからの差し替えになる。今回、そうした作業は減ったね。私の曲は結構デモを作り上げてしまったので、差し替え作業が多かったけど。これまで、岡田君の作り方は青写真がしっかりしていて、差し替えだけなんだけど、怪我であまりスタジオに来られない状況があった。だから岡田君のデモは全部生に置き換えていった。これは相当珍しいことだね。なので岡田君作曲の「岸辺のダンス」は、ライブ用に鈴木博文が歌詞とともに基本的なアレンジを作ってきたので、それを下敷きにした。

 

できなくなっている部分を補い合う形ですね。

慶一 今度はさらに(佐藤)優介(k)君と澤部渡(vo:スカート)君にも参加してもらって、録音や曲を作ってもらう。ライブでの体感を反映して、武川君が高い声が出なくなった分を澤部君にやってもらう。リード・ボーカルも誰々ってことでなく、みんなで回す。これは劣化したところを助け合っているというか、老人バンドにありがちな形だと思う。ブライアン・ウィルソンに例えれば、澤部君はジェフリー(フォスケット)、優介君はダリアン(サハナジャ)なんだな。

 

でも、彼らは、過去を再現するショウを成立させるためのサポートではなく、新しいムーンライダーズの姿を見せるための貢献をしてくれていると思います。

慶一 そうだね。昨年末の恵比寿公演の後、澤部君と優介君には“メンバーでいいじゃないか”と言ったんだ。今後アルバムを作るとしたら、澤部君の曲が入るかもしれない。この6人じゃなきゃダメだというのは、かしぶち君が亡くなったことで欠落しているので、一つ決心がついた。それと、岡田君の参加の仕方がかつてとは違うし、くじら(武川)の声も違う。その辺を考えると、そういう参加ででいいんじゃないかと。彼らはアレンジがとんでもない方向に行ってもついてくるし、しかしオリジナル通りに弾いているものもある。能力も高いし、才能もある。自分の作品も作っているわけだしね。こっちが忘れていることまで知っているからびっくりした。G.H.Q.が、意外なライブ選曲をしてくるのも同じ。やったことがない曲は、やりたくないというのが本音だよ。プレッシャーがあるからね。そして、それを演奏するときは澤部君と優介君が助けてくれる。

 

夏秋文尚さんも、アルバム全曲のドラムと作曲で参加は初めてですね。

慶一 2011年以前は部分参加だった。全曲ドラムが夏秋君に変わったことによって、これがまた違うでしょう。でもこのアルバムにはかしぶち君に対するオマージュが3つ入っている。それは気付く人は気付くでしょう。

昨年移転した、鈴木慶一のプライベート・スタジオJapan International Sound & Magic。機材のみならず、新旧のレコードやCD、書籍、ビデオ、音楽グッズに囲まれており、彼の脳内を垣間見るような気にさせられる。取材時にもジェフ・マルダー『His Last Letter』のLPボックスがやっと買えたと破顔

鈴木慶一
【Profile】1951年、東京は羽田に生まれる。はちみつぱいを経てムーンライダーズを結成。ソロや楽曲提供に加え、ゲーム『MOTHER』、映画『座頭市』『アウトレイジビヨンド〜最終章〜』『東京ゴッドファーザーズ』などの映画音楽、CM音楽などを多数手掛ける。俳優としてもさまざまな作品に出演。


 このインタビューの完全版は、サウンド&レコーディング・マガジン 2022年6月号でお読みいただけます。また、サンレコWebプランでは、過去のムーンライダーズ表紙号を含む全バックナンバーがオンラインでお読みいただけます。

Release

『It's the moooonriders』
ムーンライダーズ
(日本コロムビア)

Musician:鈴木慶一(vo、g、k)、岡田徹(k)、武川雅寛(vo、vln、tp、mandolin、bouzouki、g、他)、白井良明(vo、g、k)、鈴木博文(vo、b、harm、p)、夏秋文尚(ds、vo、perc、口琴)、佐藤優介(k、p、vib)、CTO LAB(k)、東涼太(sax)、湯浅加代子(tb)、織田祐亮(tp)、xiangyu(vo)、澤部渡(vo)、DAOKO(vo)、ゴンドウトモヒコ(flugelhorn)、春風亭昇太(voice)
Producers:moonriders
Engineer:福原正博、水谷勇紀、他
Studio:サウンドクルー、MIT、他

RITTOR BASEで行われた特別試聴会&トーク