老舗レコーディング・スタジオを舞台にしたドキュメンタリー映画『音響ハウス Melody-Go-Round』

 

サンレコよりも歴史の長い銀座の老舗=音響ハウス

  東京・銀座という一等地にあるレコーディング・スタジオ、音響ハウス。多くのミュージシャンやエンジニア、レーベル・スタッフが訪れたであろうこのスタジオは、1974年創業とその歴史も古い。小誌『サウンド&レコーディング・マガジン』の創刊は1981年なので、その当時から音響ハウスで行われていたレコーディングの模様を掲載してきた。

 

 現在も、あるときはアーティストの取材、またあるときは特集や企画の相談など、私を含め多くのスタッフが幾度となく訪れている。例えば、2019年2月号での星野源の表紙&巻頭インタビューは音響ハウスで撮影したものだ。あるいは2018年8月号の特集「「パーツ」と「回路」解体新書」はスタジオでさまざまな機器のメインテナンスを手掛ける須田淳也氏をはじめ、スタッフの皆様にご助力いただいた。

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「パーツ」と「回路」の解体新書を収録。Web会員の方はこちらからお読みいただけます

 昨年春、音響ハウス所属のマスタリング・エンジニア石井亘氏を通じて、社長の高根護康氏からスタジオのドキュメンタリー映画を制作していることを伝えられ、写真や資料の提供協力をお申し出いただき、快諾した。そうしたご縁もあり、公開に先駆けた試写会に伺ったので、ここでレポートしていく。

 

スタジオで音楽が生まれる瞬間を映画にとらえる

 映画『音響ハウス Melody-Go-Round』の“縦軸”は、この映画のテーマ曲を、ギタリストの佐橋佳幸とエンジニアの飯尾芳史氏のプロデュースでレコーディングしていく課程を追ったドキュメント。まず、佐橋のデモを元に、井上鑑(k)、高橋幸宏(ds)という強力な布陣でベーシックが収録されていく。

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飯尾芳史氏

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佐橋佳幸

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高橋幸宏

 このセッションでのやり取りや演奏内容と並んで、録音後のトークも見ものだ。高橋が最初に音響ハウスで録音したのは、サディスティック・ミカ・バンド。当時の音響ハウスでの深夜に及ぶレコーディングと、「WA-KAH! CHICO」(3rdアルバム『HOT! MENU』収録)とのエピソードが語られる。

 

Wa-Kah! Chico (Instrumental)

Wa-Kah! Chico (Instrumental)

  • サディスティック・ミカ・バンド
  • 日本
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 その後、村田陽一(tb)、本田雅人(sax)、西村浩二(tp)、山本拓夫(sax)によるホーン・セクション、「僕にとってはアビイ・ロード・スタジオ2stよりも音響ハウス2stの方がいろいろな意味を持つ」と語る葉加瀬太郎(vln)のダビングを経て、大貫妙子の作詞とコーラス、そして収録時13歳という若きシンガーHANA(大貫がボーカル・ディレクション)とレコーディングは進んでいく。

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葉加瀬太郎

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大貫妙子のコーラス・レコーディング

 

関係者の証言で綴る1980年代の日本音楽界の熱量

 映画の“横軸”を構成するのは、さまざまな関係者のインタビューだ。先述の須田氏や石井氏をはじめとする現役スタッフに加え、アーティスト/外部エンジニアだけでなく、音響ハウス設立時を知るOB、CM音楽プロデューサーなどが、コメントを寄せる。

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佐野元春も証言者として登場

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メインテナンス・エンジニアがセッション前にスタジオの機材をチェックする様子も映し出される

 こうして語られる“現在の音響ハウス”と並行して、とりわけ多くが割かれるのは1980年代の話。アーティストの作品としてリリースされる作品に限らず、CM音楽の制作基地として機能していた時代のことを、坂本龍一や鈴木慶一(ムーンライダーズ)、矢野顕子が証言する。坂本は「当時、音響ハウスに“住んでいる”と言っていた」と発言。鈴木はインタビュー中に『火の玉ボーイ』録音時のエピソードを思い出し披露。矢野は幼い子供(言うまでもなく長女は坂本美雨)を連れて深夜にCM録音していた話を語る。また、松任谷正隆&松任谷由実が語るデジタル・レコーディング草創期の話も興味深い。エンジニアの田中信一氏や、音響ハウスOBであるオノ・セイゲン氏も、当時のスタジオ・ワークの様子を伝える。

スカンピン

スカンピン

  • 鈴木慶一とムーンライダーズ
  • ロック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

 

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矢野顕子

 こうしたエピソードを見せられると、この映画が音響ハウスの45年を追ったストーリーであると同時に、日本の音楽業界が持っていた熱量を伝えてくれる作品でもある……そんなことをつい思ってしまった。音響ハウスは往時の総本山の一つであったことは間違いないが、さまざまな場所で一曲一曲、一音一音にアーティストやエンジニア、スタッフが心血を注いでいたことがひしひしと伝わってくる。

 

 何より印象的なのは、坂本龍一が「東京に音響ハウスが残っていることは、本当にぜいたくなことなんです」と語る一言。機材の発達とともに音楽のスタイルも変化し、ベッドルーム・ミュージックでも世界的ヒットになるようになった昨今、大きなスタジオの存在意義も問われ、多くの名門スタジオがその役目を終えてきた。それでもなお、音響ハウス(そしてそのほかの現存する名スタジオ)が残っているのは、多くの音楽家や音楽制作者が必要としているからにほかならないだろう。

 

 

11月14日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

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『音響ハウス Melody-Go-Round』
出演:佐橋佳幸、飯尾芳史、高橋幸宏、井上鑑、滝瀬茂、坂本龍一、関口直人、矢野顕子、吉江一男、渡辺秀文、沖祐市、川上つよし、佐野元春、David Lee Roth、綾戸智恵、下河辺晴三、松任谷正隆、松任谷由実、山崎聖次、葉加瀬太郎、村田陽一、本田雅人、西村浩二、山本拓夫、牧村憲一、田中信一、オノ・セイゲン、鈴木慶一、大貫妙子、HANA、笹路正徳、山室久男、山根恒二、中里正男、遠藤誠、河野恵実、須田淳也、尾崎紀身、石井亘 <登場順>

主題歌 「Melody-Go-Round」HANA with 銀音堂
作詞:大貫妙子 作曲:佐橋佳幸
編曲:佐橋佳幸、飯尾芳史 ブラス編曲:村田陽一

監督:相原裕美
エグゼクティブプロデューサー:高根護康 プロデューサー:尾崎紀身
撮影:北島元朗 編集:宇野寿信 サウンドデザイナー:山田克之 テクニカルディレクター:新木進 ラインプロデューサー:小瀧陽介
製作:音響ハウス 配給:太秦
2019年 / 日本 / カラー / ビスタ / Digital / 5.1ch / 99分

©2019 株式会社 音響ハウス

 

劇場情報はこちら

onkiohaus-movie.jp

 

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