[この記事はサウンド&レコーディング・マガジン2012年5月号の記事をWEB用に編集したものです]
最大9人編成のバンドを
2chのライブ・ミキシングで録音
セッションの会場となったのは東京・銀座にある音響ハウスの最上階に位置するSTUDIO NO.1。レコーディング・ルームはメイン・ルームと5つのブースからなり、大所帯の録音にもマッチするスタジオだ。
今回のセッションはCojokの2人......阿瀬さとしがエレクトロニクスとギター、Kcoが歌とアコースティック・ギターを担い、チェロ、バイオリン×2、ビオラからなる徳澤青弦率いるカルテットが基本編成となる。各ミュージシャンの配置は、メイン・ルームに阿瀬と徳澤が率いるカルテット、それに加えて根岸が展開。4つのブースには屋敷、Kco、権藤に加えて、阿瀬のギター・アンプを配置した。また30名分の客席をコントロール・ルーム内に設置し、モニター・スピーカーから出力してライブを試聴する形式を取った。
レコーディング/ミックスを担当したのは飯尾芳史氏。YMOを始め槇原敬之、藤井フミヤなどの多くのアーティストを手掛けるエンジニア。
「歌とギターにエレクトロニクス、それにストリングスが主体のサウンドだったので、全体的にエッジの立ち過ぎない柔らかい音で録りたいと思っていました」
各楽器のマイキングは、Kcoの歌とアコースティック・ギターにはSHURE SM 58をボーカルとギターにそれぞれにセッティング。生ドラムには。"AKG D112好き"でも知られる飯尾氏らしく、ドラムのマイキングはキック〜タム類すべてにAKG D112をセット。また今回屋敷が使用したLUDWIGのドラム・セットに加えて、阿瀬が使用したギター・アンプFENDER Blues Deluxeも飯尾氏が所有するもので、こちらにもAKG D112をセットしていた。
ストリングのマイキングには各楽器にSONY C-38Bを、全体の収音にSCHOEPS CMC-55Uを2本セット。C-38Bはバイオリン、ビオラには奏者の頭上に配置。高さはちょうど飯尾氏が椅子に座り、腕を頭上に伸ばした付近にセット。チェロは楽器の正面を狙う。ストリングのマイキングに関して飯尾氏は次のように語る。
「ビンテージ・マイクのC-38Bはハイが立つキャラクターではないので、楽器から遠ざけると、弦の擦音を捉えにくくなるので近めにセットしました。なおかつアンビエンス用として立てたCMC-55Uを中心にしたバランスに仕上げました」
続いて飯尾氏にセッションのルーティングについて語ってもらった。
「プリアンプはすべてSSL SL 9000Jのヘッドアンプを使いました。コンプは基本的にFAIRCHILD Model 670をトータルでかけているので、単独でSSLのコンプを使ったのはアコースティック・ギターとボーカルくらいですね。アウトボードのエフェクトはKcoさんのボーカルとアコギ、ストリングスにROLAND SDE-3000、SDE-2000、QUANTEC QRS/Lを使っています」
ちなみに今回のライブ・セッションはSSLのコンソールでリアルタイム・ミキシングした2ミックスをKORG MR-2000Sへ録音。サンプリング・レートは5.6MHzを採用した。
▲会場となった音響ハウスSTUIDIO NO.1は、72㎡のメイン・ルームに加えて5つの録音ブースを備える。中央にはストリングのカルテットが位置し、写真奥がCojokの阿瀬、その右隣に根岸が配置される。4つの録音ブースには写真手前より、権藤、CojokのKco、阿瀬のギター・アンプ、屋敷のドラムが入れられた
▲録音で使用したKORGのMR-2000S。今回の録音はSSLでミキシングしたものを2チャンネルで録音したため、基本的には最上段をメインとして、下の2台は予備。最下段のものは不意なピーク対策として録音レベルを下げた設定で使用した
気鋭音楽家と熟練の奏者による
ダイナミックなバンド・サウンド
当日は徳澤が作成した譜面を元にリハーサルが進められ、飛び入り参加となった根岸や権藤のパートを含めて、原曲を聴きながらその場で各パートのアレンジを加える。さすがは一流ミュージシャンの集まりだけあり、譜面を追いつつ1〜2回音を合わせただけで曲が形になっていく。懐の深い演奏と柔軟な表現力に、俄然本番での演奏に期待がふくらんだ。
ライブ本番はまず「Aging Tapestry」のエフェクティブなサウンドでCojokの深淵な世界観を描き出し、ゲストの権藤がエフェクティブなフリューゲルホルンで彩りを加える。その中を艶のあるアコギの音色が、静まりかえったコントロール・ルームに響きわたる。続く「Baroqua」ではKcoの歌と、それに呼応する叙情的なストリングスの一体感がハイライトとなった。
ここでさらにスペシャル・ゲストの屋敷と根岸をレコーディング・ルームへ迎え入れる。サイケ・フォークな「Lemon Drops」では、曲の後半では屋敷&根岸のリズム隊が加わることで、一気に熱を帯びたバンド・サウンドへ変化。続く「Unspoken」は4分打ちのキックが主体のリズムが印象的なスピーディーなナンバー。リズム隊が織り成すしなやかなグルーブに観客も思わずカラダを動かす。「The Melody I Will Hum」はストリングやリズム・セクションが徐々に展開され、Kcoは潤沢な声量で奔放な表現を聴かせる。ここでゲスト・ミュージシャンの3人は退場し、その素晴らしい演奏にコントロール・ルームからも大きな拍手が沸いた。
ラスト・ナンバーである「Kyoto」は、ささやくようなブレイクビーツの下で歌とストリング、アコースティック・ギターが織りなす静かなトーンのサウンドで幕をしめる。アンビエント〜エレクトロからロック〜フォークまで、多彩な世界観を音楽的に描いたパフォーマンスに会場からも惜しみない拍手が送られ、幕を閉じた。
▲Cojok阿瀬のコーナー。中央のAPPLE MacBookにABLETON LiveとAPPLE Logicを立ち上げ、LiveはSEやノイズを、Logicではシーケンスを走らせつつ、KORG Micro KontrolやAPPLE iPhoneのTOUCH OSCでコントロールする。これらの信号はMOTU 828から出力。SEの音声のみTAPCOのミキサーを介してKORG Kaoss Padでエフェクトをかけたものをコントロール・ルームに出力した。なお右手のAPPLE MacBookはバックアップ用
▲阿瀬のギターは左からSCHECTER TR-ST、FENDER Jazz Master、右はガット・ギターで、下写真はギター用マルチ・エフェクターZOOM G9.2tt
▲KcoのアコギとボーカルはともにSHURE SM 58で収音
▲ストリングスの収音にはSONY C-38Bを4本使用し、アンビエンス・マイクにはSCHOEPS CMC-55Uを2本セットした
録り音のリアリティを重視すべく
録音レベルのみを調整
DSD録音に関して飯尾氏は「DAWの録音と比較すると、DSDは音に余裕を感じました」と好印象を持ったようだ。今回は録り音のリアリティを最大限に生かし、録音のレベルの調整のみを行った。本番終了後にMR-2000Sで録った音をプレイバックすると、上から下まで澄み切った奥行きのあるサウンドはまさにDSD。卓越したミュージシャンによる生演奏を純度100%で捉えたかのような自然な音を堪能することができた。
今回のレコーディング・セッションを終えて「ライブ・ミキシングに近い作業だった」と語った飯尾氏、最後にこのスタイルでの録音に新たな可能性を感じたと語ってくれた。
「こういう一発録りはアレンジャーやミュージシャンに負担はかかりますが、僕らが子供のころに憧れていたレコードって、それができる特別なアーティストが出せる作品だったと思うんです。ですから今回のライブのように、優れたミュージシャンがひょんなタイミングで集まり、一発で録った作品がもっとあってもいいと思いました」
▲STUDIO NO.1のコントロール・ルーム。メイン・コンソールのSSL SL 9000Jを用いて、ライブ・ミキシングした2チャンネルの音声をKORG MR-2000Sへ録音した。モニター・スピーカーは飯尾氏が持参したFOSTEX NF-1の"飯尾モデル"を使用
Cojok+徳澤青弦カルテット『QUANT』
1.Aging Tapestry
2.Baroqua
3.Lemon Drops
4.Unspoken
5.The Kisses
6.The Melody I Will Hum
7.Kyoto
※ファイル・フォーマットは下記の3種類、2つのパッケージの配信となります。
○24ビット/48kHzのWAV
○1ビット/2.8MHz DSFとMP3のバンドル
いずれもアルバムのみの販売で価格は1,000円
購入はOTOTOYのサイトから!