11年ぶりのアルバム『It's the moooonriders』をリリースしたムーンライダーズのインタビューを誌面から抜粋してお届けする。ロックからジャズ、ボサノバなどさまざまなスタイルを体得しながら、一聴してそれと分かる江戸っ子ギター・サウンドを奏でる白井良明。一人だけ2ndからムーンライダーズへ参加したロン・ウッド的存在であり、メンバーの中でもソロや自身のバンドfor instance、サポートなど、最も“他流試合”をこなす白井にとってのムーンライダーズとは何だろうか?
Text:iori matsumoto Photo(Ryomei Shirai):Hiroki Obara
正直“休止の休止”なんて無いと覚悟した
ーアルバムを制作するという話が出たときに、良明さんはどう思われました?
白井 “ふ〜ん”って思いましたね。否定的な意味じゃなくて、割とニュートラルに。『カメラ=万年筆』の再現配信ライブ(2020年)をやったときに、かつてと同じような演奏をしているんだけど、何か違うエネルギーがあった。その前年の末に、かしぶち君の七回忌が渋谷B.Y.G.であって(Tribute to Mr.Kashibuchi『冬のバラ』)、そこでも言いようの無いエッジの効いたエネルギーが出てきた。そうやってエッジが出てきたことに反応しようとして、この流れになってきたんだと思うんです。僕自身は、2011年に休止が決まったときに、もしかして独りになる時間なのかなと思った。正直、“休止の休止”なんて無いと思ったし、覚悟したもの。もう独りなんだと。それでソロでやりだすんですけどね。
ー休止期間中も、良明さんは活発に活動していた印象があります。
白井 最初は僕だけで、ルーパーを使ってライブをやっていたんだけど、これだけじゃないなと。それで、若い人が集まるULTIMATE SESSIONという即興的な企画があって、それに出てみようと思ったの。toeの柏倉隆史君(ds)、オータコージ君(ds)、Sawagiの雲丹亀卓人君(b)とかと出会うんです。ほかにも、downyの秋山タカヒコさん(ds)、the band apartの木暮栄一さん(ds)とか、そういう人たちと自由なセッションを重ねることで、先が見えたんですよね。ライダーズはもう無いと思っていたから、そこで自分がやりたいことを共有できる人を探して、for instanceというバンドを作った。
ーそういう時期を経て、今のムーンライダーズで、どういう録音作品を作るべきだと思われましたか?
白井 楽しく始めたわけだけど、最初は数曲のデモが集まったときにあまりパッとしなかった。でも、次の段階でデモ曲が増えてきて、G.H.Q.が選曲しているうちに、エッジが立ってくる曲が多くて、夢中になったんです。
ー最初は皆さん、新しいムーンライダーズ像を探っていたのでしょうか?
白井 うんうん、探りますよね。
クリーン・トーンが今回の僕のテーマ。パンニングで音像を変えていこうとした
ー新作『It's the moooonriders』で、良明さんの曲は3つあります。特に「親より偉い子供はいない」は、良明さんの個人的なことを歌っていながら、普遍的なテーマとして響いてきますね。
白井 僕がそう思っていることをSNSで書いたら、ふーちゃん(鈴木博文)が“これはもう、歌になるね”という返答を入れてくれて。それですぐ作ったという経緯なんだけどね。僕は自分の思ったことしか詞に書けないから、春風亭昇太師匠が参加してくれた部分はふーちゃんが詞を作ってくれたんです。わざと“ヨシアキ!”ってふーちゃんが入れるわけよ。そう言われると親から怒られるものだとばかり思ってしまう(笑)。ゲンコツとか痛いからね。大サビは、ギター・ソロがみんなにエリック・クラプトンって言われますけど、ここが一番言いたいところで。
ーデモはどのようなシステムで作られるのですか?
白井 APPLE Logic。いっとう新しいので、NATIVE INSTRUMENT Guitar Rig Proと、Logicに付いている音源を使っています。ギターはね、必ずBEYOND Beyond Tube Bufferで真空管サウンドかつローインピーダンスにして、オーディオ・インターフェースに入力しています。
ーオーディオ・インターフェースは何をお使いですか?
白井 今はね、MACKIE. Big Knob Studio。前は16chのMOTU 896HDを使っていたんだけど、壊れちゃって。意外とシンプルになったけど、システム全体の音はすごく良いです。特にGuitar Rig Proは良いよね。あとはギターの種類。ギターの音とアンプの音を知っていないと、その曲に合ったものが選べない。経験は大事だと思うよ。アメリカン・ロック系なのか、ブリティッシュ系の音なのかとかさ。そういうのもある程度流れを知っていた方が便利だよね。
ー今回は、良明さんのギターがアルペジオでたくさん鳴っているのが新しいアプローチだと思いました。
白井 あんまりひずんだ音は無いでしょ? さっき言った"エリック・クラプトン”以外はほとんど全部クリーン・トーン。これは今回の僕のテーマなんですよ。最近カントリーとジャズが混ざったようなサウンドをギター・トリオでやりたいなと思っているんだけど、それでクリーン・トーンを研究している。
ーそれも1色じゃなくてカラフルなんですよね。
白井 たぶん、コードに対してテンション・ノートをすごく使うんです。テンションも、かわいいテンションとか、怖いテンションとかいろいろあって、それを経験からして分かっているつもりで、それをこの曲のどこに当てようかを考える。そんなのが生きていると思うね。今までのムーンライダーズのサウンドの構築は、ドラムとベースがあって、右に僕のギター、左に慶一君のギターっていう構図があった。今回はそうじゃなくて、僕のギターが左右にあって、慶一君はこの辺、くじら君(武川)のバイオリンはこの辺……という、パンニングでライダーズの音像を変えていこうと意図がありました。かしぶち君が居ない部分で、苦労というか、良い苦労をしていたから、そんなやり方も一つあったかな。それで僕のギターは、そういうシンプルで奇麗な音を目指した。そこは、ピンチはチャンスと考えてさ。例えばフラメンコっぽい「岸辺のダンス」は、岡田君の曲だけど、かしぶち君の匂いがあるような感じがするでしょ? かしぶち君が居ない中で匂いをどう出していくかと考える人も居るし、違うことをやろうとした人も居た。“かしぶち君、そのチャンスをありがとう”という意味でね。それはいろいろで、一つじゃない。僕はどちらかというと後者で、いろいろな答えを出さなきゃいけないと思っていて、一つの答えとしてギターのサウンドでやってみたというわけです。
ームーンライダーズの音楽は、個々のメンバーが時間とともに層を積み重ねて、それを切ったときにできる“ある断面”が、その時々のライブだったり、アルバムだったりする。今作で特に強く、そんなことを感じました。
白井 11年ぶりだから、メンバーがそれぞれ様変わりしているわけじゃないですか? 音楽的にも、体調面でも。それを断面図に入れ込む。老齢ロックという、ある種、最先端の現場を表現していかないと。
ー良明さんが“老齢ロックの夜明け”というキャッチ・コピーを考えたと聞きました。
白井 アルバム・タイトル案として出していたんだけど、“歳を取っているのはみんな分かっているからそうじゃない方がいい”ってさ(笑)。キャッチ・コピーみたいだと言われたけど、それがキャッチ・コピーとして、まだ生きている。
ー“夜明け”には、まだやるんだぞという意気込みが感じられて、終わる気がしなくていいですね。
白井 昔、“ヘビー・メタルの夜明け”みたいな日本盤タイトルがあったじゃない? それなんだよね(笑)。
白井良明
【Profile】1954年、東京都墨田区に生まれる。立教大学在学中からプロとして活動。ソロ、自身のバンドfor instance、プロデュースのほか、『20世紀少年』『聖☆おにいさん』などの映画音楽も手掛ける。通称:ギター番長。
このインタビューの完全版は、サウンド&レコーディング・マガジン 2022年6月号でお読みいただけます。また、サンレコWebプランでは、過去のムーンライダーズ表紙号を含む全バックナンバーがオンラインでお読みいただけます。
Release
『It's the moooonriders』
ムーンライダーズ
(日本コロムビア)
Musician:鈴木慶一(vo、g、k)、岡田徹(k)、武川雅寛(vo、vln、tp、mandolin、bouzouki、g、他)、白井良明(vo、g、k)、鈴木博文(vo、b、harm、p)、夏秋文尚(ds、vo、perc、口琴)、佐藤優介(k、p、vib)、CTO LAB(k)、東涼太(sax)、湯浅加代子(tb)、織田祐亮(tp)、xiangyu(vo)、澤部渡(vo)、DAOKO(vo)、ゴンドウトモヒコ(flugelhorn)、春風亭昇太(voice)
Producers:moonriders
Engineer:福原正博、水谷勇紀、他
Studio:サウンドクルー、MIT、他