鈴木博文 インタビュー 〜まだムーンライダーズとしてやりたいことがある

鈴木博文 インタビュー 〜まだムーンライダーズとしてやりたいことがある

11年ぶりのアルバム『It's the moooonriders』をリリースしたムーンライダーズのインタビューを誌面から抜粋してお届けする。ムーンライダーズのベーシストとしてだけでなく、2019年には14作目となるソロ・アルバム『ピカソ』をリリースするなど精力的に活動を行っている鈴木博文。『It's the moooonriders』では、「monorail」「Smile」の作詞作曲と、ほかの曲でも作詞を行っている。彼が音楽を作り出す拠点が自宅の一室に設けた、通称“湾岸スタジオ”。数々の名曲が誕生したその空間で話を聞いた。 

Text:Satoshi Torii Photo:Hiroki Obara

ケンカをしても意味が無い。面白いものになればそれでいい

アルバムを制作するきっかけが、2020年の『カメラ=万年筆』の再現ライブと伺いました。

博文 アルバム発売から40周年で、コロナの影響で8月に無観客でやったんです。何周年、というのがみんな好きなんだよね。私は全然好きじゃないんだけど(笑)。そういう周年が重なって、年に1回くらいは活動していました。『カメラ=万年筆』のライブのときに実験的なことを好き放題やってみたら、みんなそれぞれ違う感じなんだけど、ぐしゃぐしゃで面白かった。それはみんなも感じていたと思う。

 

ライブで大きな手応えを感じたと。

博文 そうですね。じゃあやってみないか、となってそれぞれがデモを作り始めました。1年くらいかかって、全員分合わせて50曲は集まったかな。聴くのも大変だけど、どこかで集結して1回聴かないと前に進まないからね。

 

博文さんはデモを何曲作ったのですか?

博文 申し訳ないけど3曲しか(笑)。1曲だけ落選しています。ソロも同時にやっているから、“歌わせたい、放り投げたい”みたいな曲がムーンライダーズ用。“鈴木慶一に歌ってもらいたい”という曲を投げた感じですね、今回は。

 

慶一さんに歌ってほしいと思ったのはどうしてなのでしょうか?

博文 歌の声質が均一にある方が、ムーンライダーズのアルバムとして分かりやすいから、誰か一人居た方がいいんじゃないかと。特に歌詞が分かりにくいと言われているので、分かりやすくするためにもボーカリストは同じ方がいい。徐々に外堀を埋めていくと言うのかな。歌って重要だから、難しい言葉を歌っていても一人が通底して歌ってくれれば何か分かるんじゃないかと思っています。

 

一方完成した『It's the moooonriders』では、一曲の中でも代わる代わる歌っている印象があります。

博文  私はそう思っていたけど、鈴木慶一はそうは受け取らなかった(笑)。一曲を全部歌うということに懲り懲りしているというのか、もっと面白くしたい。ビーチ・ボーイズみたいに、みんなで歌えるんだから歌った方が良いと。

 

そこで意見はぶつからなかったのですか?

博文  それは別に無いです。彼が“こういう歌だからこうやって振り分けた方が面白い”と言うので、面白いなと。そこでケンカをしてもあまり意味が無い。面白いものになればそれでいいんです。

鈴木博文の作業拠点、湾岸スタジオ。デスクの右側にあるのが音楽制作用のコンピューター、APPLE Power Mac G4。約20年間使い続けているもので、Mac OS 9.2、DAWとして使うMOTU DIgital Performerもバージョン3だ。取材時に起動してもらった際も一度では立ち上がらない状態で、“機材をそろえますよ”という声もかかるそう。1980年代にはカセットMTRのTEAC 144、オープンリール・レコーダーのFOSTEX A8を使用し、コンソールなども用意していたとのこと

鈴木博文の作業拠点、湾岸スタジオ。デスクの右側にあるのが音楽制作用のコンピューター、APPLE Power Mac G4。約20年間使い続けているもので、Mac OS 9.2、DAWとして使うMOTU DIgital Performerもバージョン3だ。取材時に起動してもらった際も一度では立ち上がらない状態で、“機材をそろえますよ”という声もかかるそう。1980年代にはカセットMTRのTEAC 144、オープンリール・レコーダーのFOSTEX A8を使用し、コンソールなども用意していたとのこと

あえてバラバラになるようにほかの人の歌を聴かせないで同時に録音した

博文さんが手掛けた「monorail」は実験的な印象もありますが、1曲目という曲順にかなり驚きました。

博文  私もびっくりしましたよ。収録曲と曲順は第三者(G.H.Q.)が選んでいるので。メンバーが選ぶと自分の曲を1曲目にしたがる人もいるから(笑)。選んだリストを見て、“おっ、いいじゃないか”とみんなが言っていました。

 

ピアノも湾岸スタジオで録ったのですか?

博文  ここのピアノを、RODE NT1を立てて録りました。ピアノはやっぱり演奏者の頭の上にマイクを立てないとね。ステレオにしちゃうと位相の問題とかよく分からないから。

 

クレジットでは、ほかのメンバーのパートが主にボイスとなっています。逆再生のエフェクトは、デモの段階から既にあったのでしょうか?

博文  逆再生はデモを作ったMOTU Digital Performer上で処理しています。デモでほぼ出来上がっていて、メンバーの声と(佐藤)優介のピアノが入っていないくらい。メンバーが参加していないのもまずいので声を入れようとなって。そこで考えたのが、声を入れる小節だけは決めておいて、ほかの人の声は聴かずに自分のタイミングで入るという方法。みんなで同時に録音はしているけれど、バラバラになりました。

 

変わった手法ですね。

博文  昔からそう。こういうのは何回やってもしょうがないので、2回目でOK。でもみんな楽しそうにやっていたから良かった。白井さんはピアノ・エコーだと言って、ピアノの中に顔を突っ込んでやっていました(笑)。あとは、デモのピアノがモノラルだったので、優介がダビングしています。

湾岸スタジオの機材類。上からALESIS Micro Limiter(リミッター)、MOTU 2408(オーディオ・インターフェース)、Midi Timepiece(MIDIインターフェース)、ROLAND Fantom-XR(シンセ・モジュール)、DRAWMER 1960(コンプレッサー/マイクプリ)。博文は「2408は音が良い」と絶賛していた

湾岸スタジオの機材類。上からALESIS Micro Limiter(リミッター)、MOTU 2408(オーディオ・インターフェース)、Midi Timepiece(MIDIインターフェース)、ROLAND Fantom-XR(シンセ・モジュール)、DRAWMER 1960(コンプレッサー/マイクプリ)。博文は「2408は音が良い」と絶賛していた

もう1曲の「Smile」は、普遍的なタイトルですが、ポジティブだけではない意味を楽曲から感じます。鍵となるワードから曲作りが進んでいくのでしょうか?

博文  そうですね。それが出てこないと発展しないというか。“monorail”というのも同様です。

 

曲と歌詞はどちらが先ですか?

博文  曲を作りつつワードを探しているみたいだね、頭の中では。途中でワードが出てきて書き留めたりなんかして。両方同時っていうのはあり得ないですけど、「モダーン・ラヴァーズ」(『モダーン・ミュージック』に収録)は同時だったかな。ピアノを弾いていたら、“今夜こそは”っていう歌詞が同時にできた。自分でもびっくりしたけど、あんなことは二度と無いです。

 

「岸辺のダンス」は、岡田さん作曲、博文さん作詞で、これまでにもお二人がコンビを組んだ楽曲は多数ありますが、今回はどういった形で作ったのでしょうか?

博文  一回しか出てこない大サビのメジャーに変わるところは、まるっきり岡田さんが作った部分です。あれだけは使ってほしいと言うので。そのほか、メロディは岡田さんが作ったものですけど、エキゾチックな部分のアレンジはほとんど自分でやりましたね。

 

冒頭の「monorail」からのギャップがすごいです。

博文  反省点としては、まだ歌詞が分かりづらいと思いますね(笑)。もっと分かりやすくできるだろうと。ほかの人の歌詞にも言いたいところが……助詞をちょっと、とか。美学校で作詞講座の講師をやっているので、先生病が出ちゃいます。

 

良明さん作曲の「親より偉い子供はいない」は、歌詞が良明さんとの共作です。良明さんのSNSへの投稿がきっかけと伺っています。

博文  “ラップをふーちゃん頼むよ”って言われて、じゃあ“ヨシアキ”って言葉を出したいなと。そしたら流行しちゃってね。白井さんのことをヨシアキって言うようになったらすごく嫌がる(笑)。大サビの“もっと愛されたくて”のところは、彼が自分で作っていました。これだけじゃストンと行き過ぎるから最後に何かがないとと思って入れたみたいです。

 

鈴木博文
【Profile】1954年、東京都出身。1973年より、松本隆らとムーンライダーズ(オリジナル・ムーンライダーズ)として音楽活動を開始。実兄・鈴木慶一に誘われ、1976年にムーンライダーズに参加。1987年にレーベル、メトロトロン・レコードを創設。神保町の美学校にて、作詞講座の講師も務めている。


 このインタビューの完全版は、サウンド&レコーディング・マガジン 2022年6月号でお読みいただけます。また、サンレコWebプランでは、過去のムーンライダーズ表紙号を含む全バックナンバーがオンラインでお読みいただけます。

Release

『It's the moooonriders』
ムーンライダーズ
(日本コロムビア)

Musician:鈴木慶一(vo、g、k)、岡田徹(k)、武川雅寛(vo、vln、tp、mandolin、bouzouki、g、他)、白井良明(vo、g、k)、鈴木博文(vo、b、harm、p)、夏秋文尚(ds、vo、perc、口琴)、佐藤優介(k、p、vib)、CTO LAB(k)、東涼太(sax)、湯浅加代子(tb)、織田祐亮(tp)、xiangyu(vo)、澤部渡(vo)、DAOKO(vo)、ゴンドウトモヒコ(flugelhorn)、春風亭昇太(voice)
Producers:moonriders
Engineer:福原正博、水谷勇紀、他
Studio:サウンドクルー、MIT、他

RITTOR BASEで行われた特別試聴会&トーク