ドレイクやエミネム、テイラー・スウィフト、ポスト・マローンなどを手掛けてきた音楽プロデューサー、フランク・デュークスことアダム・キング・フィーニー。インタビュー後編では、LAを拠点とした音楽制作環境と、新たなアーティストとしての活動=Gingについて語ってもらった。
Text:Paul Tingen Translation:Takuto Kaneko
インタビュー前編はこちら:
ロサンゼルスに所有するコテージをスタジオとして使用
もともとフィーニーはホームタウンであるトロントと仕事の本拠地であるロサンゼルスを行ったり来たりしていたが、2018年になるころにはロサンゼルスに移住する。2021年5月時点、彼は街中にある数件の古いコテージを所有しており、その中の1軒をLyric Studioという名のスタジオとして使用している。
「15年にわたって大量のアナログ・キーボードやシンセを集めてきました。前にも言った通りエキサイティングかどうかが私にとって一番大事な要素で、アナログ・キーボードは間違いなくエキサイティングなアイテムですね! 一時はあまりにのめり込み、Craigslist(アメリカでポピュラーなオンライン・フリーマーケット)やeBay、地方の楽器店を巡りまくってとにかくクールな見た目のもの、クールなノイズを出すもの、何かしらインスピレーションを感じたものをひたすら買い集めていました。最初に買ったアナログ・キーボードは多分CRUMARのシンセだったと思います。音色は3種類しかなかったのですが、自分の好きなレコードそのままのサウンドが出てきたので驚いたのを覚えています。その次にROLAND Juno-60を買い、さらにその次がYAMAHA CS-10でしたかね。最初に手に入れた大型のシンセはYAMAHA CS-60でしたが、そのころにはアナログ・キーボードへの熱狂は少し落ち着いてきました。当時はすべてアナログでなければだめだと思っていたのですが、今ではそこまで極端でなくても大丈夫だと思うようになりました」
実際に彼はアナログ機材への執着心をだいぶ無くしたように見える。経験を積んで成長することによってアナログが不可欠ではないことに気が付いたという。
「アナログかデジタルかということよりも、インスピレーションの方が大事なんです。何が音楽制作をよりエキサイティングにしてくれるのかということです。アナログ・レコーディングやアナログ処理は今でも好きですし、それによって心理的に受ける影響もとても良いものだと思っています。コンピューターの前に座ってじっとしているよりもインスピレーションを得られますからね。全体のサウンドをよりアナログな風味に持って行く方向性に変わりはありませんが、すべてをアナログで行う必要はもうないんです。バンドとやるならアナログじゃなきゃと思っていた時期もありましたが、今ではテープでレコーディングすることなんて想像すらできません。今のデジタル技術と私のスキルを持ってすれば誰にも差が分からないレベルまで持っていけると感じています。デジタルで作業しつつもアナログの魂をとらえることは可能なのです。WAVES J37 Tapeのように本物のアナログと相違ないフィーリングとサウンドを出してくれるプラグインもありますからね。このプラグインは私の一番のお気に入りかもしれません」
ABLETON Liveを中心としたデジタルな音楽制作環境
フィーニーの音楽制作の中心にあるのはABLETON Liveだ。もともとはレコードとMPCシリーズだけを使っていたが、2007年にLiveを使い始めたという。最初はMPCで作ったビートを録音するために使おうと思っていたが、そのうちセットアップの中心になったそうだ。それ以来ずっとLive一筋だという。
「過去にはほかのDAWに比べて機能的に物足りない部分もありましたが、今ではその差はかなり無くなっていると思います。Liveは究極的に発展したテープ・マシンだと思って使っているんです」
音楽制作のプロセスはとてもシンプルで直感的だと思うとフィーニーは言う。エキサイティングだと思うことに従い、その流れを大事にするゆえだろう。
「ピアノを使って曲作りを始めることもありますが、大体の場合はギターから入ることの方が多いですね。専属エンジニアのタイラー・マーフィがLiveを使ってレコーディングした上でグリッド状にその素材を並べてくれるので、それを使って一緒にタイム・ストレッチをしたり、いろいろなことを行います。Liveでのこうした作業は非常に自然で直感的なんですよね。そこにビートを足したり、ときにはドラムを演奏して足したりもします。こうやって私たちはLiveの機能をフル活用した最高の手法を作り上げてきました。レコード・プロデューサーにテクニカルな知識は必要無いと信じています。それよりも何か大事な意思決定ができることの方が必要でしょう。そういう意味で、タイラーは私のブレインであり、テクニカルなことを一手に引き受けてくれる右腕です。彼が居てくれるおかげでクリエイティブなことに集中できるんです」
フィーニー監修のソフト・シンセThe PrinceやアーティストGingとしてのこれから
続いて、フィーニーにより開発されたサンプル・ベースのソフト・シンセThe Princeについて話を聞いた。もともとはトロントとロサンゼルスを行き来していたころ、アナログ・キーボードやアンプ、ペダルを使用するのに難儀していたというのっぴきならない事情に迫られて始まったプロジェクトだったという。
「ポータブルな方法で自分のサウンドを持ち運ぶ方法を探しており、このプロジェクトを始めたんです。最終的に、The Princeは20年にわたる私のコレクションの集大成になりました。私は基本的に、好きなサウンドを一カ所に集め、それをJ37 Tapeでまとめて使っています」
CRADLE APPS The Prince
CRADLE APPS The Princeは、サンプルを中心としたソフト・シンセ。フィーニー=フランク・デュークスが監修し、今までのヒット作や有名作で使われたサウンド、彼のお気に入りサウンドを収録している。テクニカルな知識が無くとも使えるように、シンプルで直感的な操作性を追求したという
この記事はフィーニーのフランク・デュークスとしての活動をまとめるものとなった。彼は2022年よりアーティスト・ネームをGingに変える。簡単に言ってしまえば“フランク・デュークスは死んだ。Gingよ永遠に”と言えるかもしれない。フィーニーは今後もプロデュースを続けると明言しているのでこれは大袈裟な言い方であるのも事実だが、今後発表されるアルバムやシングルはすべてGingの名の下にリリースされ、彼のアーティストとしてのキャリアは今後ここにフォーカスされることになる。
「3年ほど前のことです。トップ・プロデューサーになりたいという夢はほぼ実現できたと感じるようになったと同時に、今後は一体どうしたらエキサイトできるんだろうと心配するようにもなったんです。こうしたことから、今後は自分の音楽をアーティストとして自らの名前でリリースするというアイディアに傾いていきました」
ソングライターやレコード・プロデューサーからの発展形として、このアイディアは自然なものに感じるかもしれない。しかし実際は多くの意味で違うとフィーニーは語った。
「プロデューサーとして求められるのはアーティストのビジョンをサポートすることです。そこに自らの考えを入れ込むこともできますが、究極的に良いプロデューサーというのはアーティストのビジョンをどれだけ実現できるかで決まってきます。私は今、人生の中で“自分のビジョン”を認識するポイントに差し掛かりました。私のキャリアでの次のフェーズは、私自身のストーリーを他人に伝えることと、できるだけ多くの人とシェアをすることになるでしょう。私が監修したCRADLE APPSのソフト・シンセ、The Princeが良い例です。これからは自分の曲を自分で書き、自分で歌い、ビデオも自分で監督することになると思います。他人と一緒に何かをする際はコラボレーションという形になるでしょう」
アーティストとしてのフィーニーは、これまでのプロデューサーとしてのフィーニーとは別物である一方で、共通する部分もあるとフィーニーは言う。
「今までプロデューサーとして意識していたことは皆を驚かせることでしたが、これはアーティストになっても変わらないでしょう」
アダム・キング・フィーニーの“フランク・デュークス”としての活動は終わったが、今後のGingとしての新たな活動が楽しみでならない。
インタビュー前編では、 彼のルーツや音楽制作を始めるきっかけ、そしてプロデューサーとしての地位を築くまでの歴史を辿ります。