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デビッド・バロンのプライベート・スタジオ|Private Studio 2022

デビッド・バロンのプライベート・スタジオ|Private Studio 2022

NY郊外のアート・コロニーに設けられた膨大なビンテージ・シンセが待ち構える邸宅

 かつてジミ・ヘンドリックスが住んだ家からわずか数十mのところに、キーボード奏者/シンセ・プログラマー/レコーディング・エンジニアとして、レニー・クラヴィッツを支え、マイケル・ジャクソンのアルバム制作にかかわり、メーガン・トレイナーの大ヒット曲を生み出したデヴィッド・バロンのプライベート・スタジオ、Sun Mountain Studioがある。膨大なシンセを備えたこの空間を見ていこう。

Text:Sam Kawa

楽器の不完全さが生き生きとしたサウンドを生み出す

 ロックの聖地とも呼ばれるニューヨーク州ウッドストック。キャッツキル山地の避暑地として、またアート・コロニー(芸術村)として知られ、ボブ・ディランやジミ・ヘンドリックスなどが移り住み、この地名を冠したウッドストック・フェスティバルはアメリカ音楽の象徴とも言える。

 

 「ボーカル・ブースは、ヘンドリックス・ルームと呼んでいるんです。壁にはヘンドリックスが弓と矢を持つ写真が掛かっています。目指すポイントを高くするという意味です」

 

 バロンがこの地に移ってきたのは2000年。もともとは彼のシンセサイザー・コレクションを収容するために建てられたものだ。

 

 「それまではレニー・クラヴィッツと共有でマンハッタンにスタジオを持っていたのですが、賃貸契約が切れたことをきっかけに、ここをスタジオに変えたのです」

 

 美しいアショカン湖を見渡せる2階ピアノ・ルームの下が、コントロール・ルームとメイン・ブースとなっている。

 

 「高さ5m近いアーチ型天井があるピアノ・ルームには、STEINWAY Bを置いていて、ドラム、ストリングスなど、多くのエア感とアンビエンスを必要とするレコーディングに使用しています。一方、メイン・ブースは音響的にはかなりデッド。オルガンとギター・アンプなどをこの部屋に設置しています。1970年代R&Bのようなデッドなドラム・サウンドにも最適ですね」

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2階にあるピアノ・ルーム。高さ5mほどのアーチ型天井の空間に、STEINWAY Bタイプのグランド・ピアノが置かれている

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メイン・ブース。MOOG Sonic SixやWURLITZER 200A、MUSSERのビブラフォンなどの姿が見える。奥にあるのはBALDWINのエレクトリック・ハープシコード

 コントロール・ルームには、膨大な数のレアなシンセ・コレクションの一部が収納。楽器へのこだわりは、ミュージシャン/アーティストとしての彼の基盤とも言える。

 

 「私はリアルな音、楽器に取り囲まれた雰囲気が好きなのです。楽器の不完全さというか、ある種の欠陥というものによって、サンプルとバーチャルな楽器だけを使用した場合だとつかむことが難しい、生き生きとしたサウンドを生み出すことができるのです。レコーディングするときはインスピレーションがすべてです。さらにデッドとライブの2つのブースがもたらす音響が役立ちます。デッドなスペースでも、アンビエンスとマッチさせてミックスさせると、オーディオの深度も大幅に向上します。それらは演奏者にもインスピレーションを与え、パフォーマンスにも影響してくるんです」

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コントロール・ルームのデスクには多数のアウトボードをマウント。右のラックにはMILLENNIA NSEQ、THERMIONIC CULTURE Phoenix、MILLENNIA HV3D-8、BRICASTI DESIGN M7などの姿が見える。メイン・モニターはATC SCM110で、TRINNOV AUDIOの補正技術でルーム・アコースティックに合わせてチューニングしているという。DAWコントローラーのAVID S1とモニター・コントローラーCRANE SONG Avocetを設置

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コントロール・ルームに置かれたモジュラー・シンセ、MOOG IIIP。上に置かれたKENTON Pro 4でCV/MIDI変換をし、AVID Pro Toolsとの接続を果たしている

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コントロール・ルームの右に置かれたARP 2500。1970年に発表されたARPのファースト・モデルで、マトリクス・スイッチでのパッチングが行える

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EMS VCS3をはじめKORG PS-3100、SYNTON Syrinx、ARP Odysseyといった新旧シンセが並ぶ。下のRHODESは88鍵仕様のMK1 Suitcase

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ROLAND System-100のModel 101、CR-68、ARP Odyssey Quadraに混ざって、SyrinxやKORG Prologueなどの現行シンセも設置。奥にはE-MUモジュラーも見える

Pro Toolsに取り込む前にアナログ処理。頭の中でしっかりと音を“ゲット”しておく

 近年、ロック作品でエンジニアを手掛けることの多いバロンにとって、マイクは重要な要素となっている。

 

 「特に優れたボーカル・マイクは、曲を“単に良いもの”から“素晴らしいもの”へと変えることができます。私自身はAC701タイプの真空管が特に気に入ってます。最近行ったザ・ルミニアーズやシャナイア・トゥエインの新作ではNEUMANN M269をメインに使用しましたが、サウンドのエッジを柔らかくしたいときなどは同社のU67も使っています。他にも、STEINWAYのグランド・ピアノにはNEUMANN M49のペア、アコースティック・ギターにはNEUMANN KM56とSCHOEPS M222のペアがお気に入りですね」

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アショカン湖を臨むバルコニーに並べたマイク類。NEUMANNのビンテージをメインにしながら、AEAやSONTRONICSなどの現行リボン・マイクも多数所有する

 DAWはAVID Pro Tools|HDXだが、AD変換前にマイクプリ、EQ、コンプレッサーといったアナログ機材を通してサウンドを処理することがほとんどであると言う。

 

 「特にビンテージをはじめとするさまざまなマイクプリによって、バラエティ豊かなトーンが可能になります。ただし、その場合の重要なポイントは、Pro Toolsへ取り込む前に、頭の中でしっかりと音を“ゲット”しておくということです」

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MAVIS Quadraphonicミキサーは10chのEQ付き仕様。MAVISはボブ・ヘイル氏(後にHEIL SOUNDを創業)が製作したコンソールで、ザ・フーのツアーに使われたことで有名

 そうした中で、ポータブルのステレオ1/4インチ・アナログ・テープ・レコーダー、NAGRA IV-Sを使用していることも注目に値する。

 

 「これは2つの優れたマイク/プリアンプを備えた“自己完結型”のテープ・マシンです。NAGRAは長い間映画の世界ではスタンダードで、出てくる音には3Dのクオリティがあると言えます。最近、NEUMANN M49とNAGRAを使って、自分のピアノ作品を完成させたばかりなんです」

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NAGRAのアナログ・レコーダーIV-S。新作『NAGRA PIANO』では本機とNEUMANN M49×2本でこのスタジオのSTEINWAYを収録した

 バロンの膨大な機材をここにすべて紹介することは不可能だが、やはり彼の真骨頂とも言うべきアナログ・シンセのリストは驚がくだ。しかも、それらのほとんどは、KENTONのCV/MIDIコンバーターに接続されているため、Pro Toolsからのシーケンスが可能となっている。

 

 「特にアナログ・シンセから発せられるサブベースのサウンドは実にパワフルで、私にとってはこんな素晴らしいサウンドはほかに無いのです。ですから、例えばエレキベースとアナログ・シンセのサブベースなど、実際の楽器にアナログ・シンセを重ねて“拡張機能”としてもよく使っています」

Equipment

 DAW System 
Computer:APPLE Mac Pro
DAW:AVID Pro Tools|HDX
Audio I/O:AVID HD I/O

 Outboard & Effects 
Mic Preamp:RUPERT NEVE DESIGNS RMP8、MARTECH MSS10、EAR 824、MILLENNIA HV3D、API 512、SHADOW HILLS Mono Gama、 LANGEVIN AM16、CALREC RQP 3200、etc.
Compressor:THERMIONIC CULTURE Phoenix、TELETRONIX LA-2A、HIGHLAND AUDIO BG1、 INWARD CONNECTIONS TSL-1、RUPERT NEVE DESIGNS 535、Master Bus Processor、DRAMASTIC AUDIO Obsidian、API 2500、etc.
EQ:MILLENNIA NSEQ
Reverb:EMT 240、BRICASTI DESIGN M7、etc.

 Recording & Monitoring 
Mixer:MAVIS Quadraphonic(10ch)
Monitor Speaker:ATC SCM110A
Microphone:NEUMANN M269、U87、U67、M49、KM84、KM56、SCHOEPS M222、SONTRONICS Apollo 2、COLES 4050、AEA R84、SENNHEISER MD441、MD421、HEIL SOUND PR48、BEYERDYNAMIC M88、SHURE SM57、SM7、 SONY C-38、MILAB VIP-50、etc.
Monitor Controller:CRANE SONG Avocet
Cue System:HEAR TECHNOLOGIES Hear Back Pro

 Instruments 
Synthesizer:MOOG IIIP、Minimoog、Sonic Six、ARP 2500、2600、Odyssey、Quadra、 E-MU Modular、ROLAND System-700、System- 100M、System-100、SEQUENTIAL Prophet 5、ELKA Synthex、KORG PS3100、PS3200、 SYNTON Syrinx、SERGE Modular、FENIX Modular、OBERHEIM 4-Voice、EMS VCS3、etc.
Piano:STEINWAY B
Others:YAMAHA YC45D、HAMMOND B-3、WURLITZER 200A、RHODES MK1 Suitcase Eighty-Eight、BALDWIN Electric Harpsichord、MUSSER Vibraphone、Celesta、etc.

 

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デビッド・バロン

レニー・クラヴィッツやメーガン・トレイナー作品へのシンセでの参加、マイケル・ジャクソン『MICHAEL』でのプログラミング、ショーン・マーフィーのストリングス・アレンジなどマルチに活躍。エンジニアとして、ザ・ルミニアーズなどの楽曲にも携わっている。

 Recent Work 

『NAGRA PIANO』
David Baron
(Here & Now)

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