W.A. PRODUCTION InstaComposer レビュー:AIがMIDIフレーズを自動生成する作編曲支援ツール

W.A. PRODUCTION InstaComposer レビュー:AIがMIDIフレーズを自動生成する作編曲支援ツール

 AIでの作曲と言うと“オリジナリティはどうなるのか”とおっしゃる方も多いが、“オリジナリティとは何か?”と言うと答えに窮する方はさらに多いだろう。InstaComposerは、アーティストが作品を作る際の発想の源にも、作品を自由に羽ばたかせるための翼にもなる。要はいかにAIに遊ばれるか、AIを遊ぶかである。AIに我々の想像力が試される刺激あふれるプラグインが、このInstaComposerだ。

コード進行とスケールを元にフレーズを生成。楽曲に合わせた条件設定も可能

 InstaComposerを立ち上げると、5trのピアノロール画面が現れる。各パートでMelody、Riff、Ostinato、Rhythm、Bass、Pad、Chordからモードを選ぶと、それぞれのイメージに合った音型のパターンが生成される。Melodyは単旋律、Rhythmはリズミックまたは繰り返すようなものが現れ、Bassは低音を中心に音型が複雑過ぎないようなフレーズを生む。Padはボイシングされたロング・トーンが重ねられ、Chordはしっかりとコード・サウンドを響かせる。Riffは確かにリフになりそうなフレーズが生成される。Ostinatoは同じようなパターンを繰り返すというような意味なので、ミニマルな雰囲気を作りたいパートに良さそうだ。この5パートをマルチ音源またはシングル音源に割り振ってGOボタンを押すと、自動的にMIDIフレーズが生成される。

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MIDIフレーズは最大5trの生成が可能。各トラックで、Melody/Rhythm/Bass/Pad/Chord/Riff/Ostinatoからモードを選択でき、同一のモードを複数選ぶことも可能だ

 フレーズは、コード進行とスケールを元に生成。コード進行は膨大なプリセットを試すだけでもインスピレーションが刺激されるが、コード進行を新しく生成するNew Chord Progボタンもクリックするたびに新しい発見がある。もちろん、任意のコード進行の設定も可能だ。

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New Chord Progボタンを押すとコード進行が新たに生成され、GOボタンを押すことでMIDIノートが生成される

 生成するフレーズの内容はボトム・パネルで細かく指定可能。繰り返しの確率やコード形状の複雑さ、半音の使用量、ボイシングの数、フィル・インの量などを設定することでより楽曲の雰囲気に沿ったフレーズが生まれる。作編曲したい楽曲イメージに合わせるのも良いが、適当にいじって意外なフレーズを生成するのもまた醍醐味かもしれない。

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画面下部のパネルは、General、Patt/Vel、Harm/Timeの3種類から表示を選択。それぞれパラメーターが異なり、コードの複雑さやフィル・インの量、ランダマイズの確率、ハーモニーのバリエーションなど、生成されるフレーズの条件を指定することができる

アーティストの創意次第で広がる使用法。常に立ち上げておける動作の軽さ

 InstaComposerの使用法は固定観念にとらわれなければ無限と言っても過言ではない。例えば各トラックをMelody、Pad、Ostinato、Bass、Rhythmに設定して、テクノ的な音色を割り当てて生成した場合、設定次第ではチルできそうな曲もできるし、クラシカルな雰囲気も出せる。

 

 全パートをMelodyにしてそれぞれストリングスの音色、それに合ったコード進行に設定すれば多声的な弦楽アンサンブルが完成するので、ストリングス・パートに創意が欲しいときに役立つだろう。

 

 読者の皆さんはあるパートを間違えてドラムの音色で鳴らしてしまったら案外面白く聴こえたという経験は無いだろうか? InstaComposerで5つのパートにそれぞれハイハット、スネア、キックとドラム系の音色を割り振って生成すると驚きあふれるフィルインが現れる可能性もあり、一つのドラム・セットだけでも面白くなるかもしれない。また、パッド・サンプラーに割り当てたドラム音色を使って、フィル・インを手探りで試したことは無いだろうか? InstaComposerを使えば、好みのフィルができるまでボタンを連打するだけでよい。

 

 歌メロがどうしても凡庸になってしまうと悩んだときには、試しにコード進行を入れて生成してみると、思いも寄らないフレーズが出てくる。その中で気に入った部分や譜割だけでも使ってみると、ポップでインパクトのある楽曲の入り口に立てることがあるかもしれない。

 

 楽曲の裏に流れるリフに変化を付けたいと思ったら、Riffモードでフィル・インを多めにして生成し、気に入った部分を使えば無駄に頭を悩ませず、その分別の作業に集中できるだろう。ループ中心の楽曲でも、InstaComposerでシンセ・フレーズを生成したら新鮮なトラックが生まれるかもしれない。

 

 動作はとても軽いので、常に立ち上げておいて制作で行き詰まったときに少しいじるような感じで、まさにAIに作曲/編曲を支援してもらえるプラグインではないだろうか。とにもかくにも重ね重ねになってしまうが、InstaComposerをいかに創造的にするかは、使用するアーティストの創意次第。そのクリエイティビティやオリジナリティを広げてくれるだろう。

 

おおくぼけい
【Profile】作編曲家/キーボーディスト。アーバンギャルドのメンバーとして活動するかたわら、戸川純 avec おおくぼけい、頭脳警察、大槻ケンヂのオケミスなどのプロジェクトにも参加する。

 

W.A. PRODUCTION InstaComposer

12,143円(価格は為替レートによって変動)

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REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.15、11(64ビット)、AAX/AU/VST対応のホスト・アプリケーション
▪Windows:Windows 8/10、AAX/VST対応のホスト・アプリケーション

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