「Red Room」では静かにたたいたドラムへ過剰にコンプをかけて
“呼吸しているような”テクスチャーとレゾナンスを発生させた
ネイ・パーム(vo、g/写真右)、ポール・ベンダー(b/同左から2人目)、サイモン・マーヴィン(k/同右から2人目)、ペリン・モス(ds/同左)から成るメルボルン発のバンド、ハイエイタス・カイヨーテ。彼らの最新アルバム『Mood Valiant』がフライング・ロータスが主宰するレーベル=Brainfeederからリリースされた。これまでにアフリカ音楽などトライバルな要素をジャズ/ヒップホップ/ソウルに取り込み、電子音も織り交ぜたエレクトロな楽曲を数々生み出してきた。その幅広いサウンドにより、昨今のミクスチャー・ソウルのブームの草分けとして国際的な人気を集めている。今回はベンダー、マーヴィン、モスの3名に取材を敢行し、レーベル移籍の経緯からレコーディング、サウンド・メイキングに至るまでたっぷりと話を聞いた。
Text:Mizuki Sikano Interpretation:Mariko Kawahara Photo:Tré Koch
強力なコミュニティを持つレーベル
強い仲間意識を持って接してくれる
ーフライング・ロータスが主宰するBrainfeederへの移籍は驚きました。どういった経緯で決まったのですか?
ベンダー 音楽業界はむちゃくちゃなことがあって、ひどい結末を迎えるアーティストも多く居る。だから僕らは実に何カ月間もいろいろなレーベルと話して、アルバムのパートナーになってくれるところを探したよ。そしてある日、僕たちの映像担当でBrainfeederのアーティストも手掛けているタイムボーイに“君たち、まだレーベルを探しているの? Brainfeederと組む可能性を考えてみたら?”と言われたんだよ。僕らはこれまでもミゲル・アトウッド・ファーガソンと仕事をしたり、サンダーキャットやフライング・ロータスと一緒にライブをやったことはあった。僕らはBrainfeederのアーティストやアプローチが好きだったから、まともな関係を築いてみたいと思ったんだ。
ー実際に契約をしてみていかがでしょうか?
ベンダー 強力なコミュニティを持っているレーベルと組めるのはうれしいことだね。レーベルを経営するフライング・ロータス、レーベルのビジネス面を担う人たちの多くがアーティストだから、クリエイティブな側面から物事を見てくれる。ビジネス・ミーティングだって楽しいんだ。最初から強力な仲間意識を持って接してくれるのが、すごく良かった。まさに僕たちが求めていたものだったね。
ーハイエイタス・カイヨーテの宇宙規模の壮大な情景が思い浮かぶサウンドは、Brainfeederのアーティストのプロダクションとも通じている気がします。
ベンダー 確かにね、Brainfeederのアーティストに影響された部分はあるもの。彼らは未来派のようだったり、ジャズやヒップホップやソウルもやって、実験的で宇宙的な側面がある。楽しくてノイジーでお馬鹿なところもあるね。僕たち全員フライング・ロータスが大好きなので、彼は大いなるインスピレーション源なんだ。しかも、個人的にはサンダーキャットに、ベーシストとしての影響も受けている。だから、Brainfeederは僕にとって夢のレーベルだった。
ー次に驚かされたのは「Get Sun(feat. Arthur Verocai)」でのアルトゥール・ヴェロカイの参加です。
ベンダー これはネイ(パーム)のアイディア。最初聞いたときは気に入ったものの、懸念することもあったんだ。僕たち4人は、曲をまとめるだけでも複雑なプロセスを踏んでいる。長年の付き合いだけど、それぞれが自分の音楽についてうるさいから、メンバーのアイディアに対して“気に入らないな”というメンバーも出てくるわけだ(笑)。だから“わざわざアルトゥールに頼んでレコーディングしてもらったものを、もしも僕たちが気に入らなかったらどうする?”って。でも、僕たちは信頼することにした。リオのスタジオ、シア・ドス・テクニコスに行って、ホーンとストリングスをレコーディングして、同じ日の興奮冷めやらぬ間に、アルバムに収録したもう2曲「Stone Or lavender」を録音、さらに「Red Room」を書いてレコーディングしたんだ。
モス アルトゥールのストリングスとホーンのアレンジには圧倒されたよね。僕の人生において忘れられない瞬間であるのは間違いないな。
ー同じく「Get Sun(feat. Arthur Verocai)」でブラジルのドキュメンタリー映画『Corumbiara』の鳥のサンプルを使った経緯は?
ベンダー ネイが持ち寄ったもので、彼女にとってすごく大事な映画だね。僕らは動物の声をよく使うんだ。「Blood And Marrow」で聞かれるエコーもそう。どこかに鯨の声も入れたけど、どこに入れたか忘れたな。前作『Tawk Tomahawk』に収録されている曲のほとんどに動物の声が入っている。
モス 自然のシンセサイザーなんだな。自然の多くはとても音楽的で、曲の中に入れると必ずうまくいく。僕たちが鳥を使った最初の記憶は「Mobius Streak」で“このトラックには何が必要かな? 鳥を入れよう”だったはず(笑)。全編にわたって鳥をテクスチャーのように使ったら、パーカッションの楽器のようになったよね。
ー「Flight Of The Tiger Lily」や「Sip Into Something Soft」でも鳥の声が使われているし、歌詞にもよく鳥が出てくるので、本作では何か重要な意味があるのかと。
ベンダー ネイが持ち込む場合は、何かの隠喩だったり、ストーリーにおいて重要な役割を担っていることがあるね。僕やペリンの場合は“高音部に使うと踊るような感じになる、すごくクールなテクスチャーだ!”って感じ。
モス 僕たちはオーストラリア人だから、皆自然に囲まれて育っている。都会のジャングルでは暮らしていない。それも立派な理由の一つかもしれないね。
アルトゥール・ヴェロカイのアレンジで
ブラジル音楽の方向性へ加速した
ーこれまでもトライバルな要素を取り込んできたと思いますが、「Get Sun(feat. Arthur Verocai)」におけるストリングスや「Hush Rattle」におけるコロンビアの楽器ガイタ・フルートなど、ラテンの要素を本作でより積極的に取り入れようと思った理由は何でしたか?
ベンダー 当初は別に、南米を表わしたコンセプト・アルバムにしようなんて思っていなかったけど、結果的にそうなったんだよね。アルトゥールに会いに南米に行ったら、実にいろいろなものが生まれていったんだよ。
モス 僕は『Choose Your Weapon』のころエレクトロをよく聴いていたけど、ここ5年間はブラジル指向の音楽をずっと聴くようになった。アルトゥールがやってくれたアレンジによって、僕らはさらにその方向に加速したね。制作中に聴く音楽は、必ず成果物に出てくるんだよ。
ベンダー ブラジル音楽は、20世紀の世界中の音楽の変化と並行して進んでいるんだ。以前の僕は、土着の音楽としてアフリカ音楽に影響されていたし、ヨーロッパのクラシック音楽にも、ジャズにも影響を受けていた。そこから実験的/サイケデリックに興味を持ったんだよね。
モス 僕もヒップホップが好きでサンプルを扱うようになったら、深く音楽を掘り下げるようになった。そうしたらブラジル音楽とともに進むようになったんだよ。
ーそれぞれのインスピレーションを集約する方法は?
ベンダー 4人がアイディアを持って集合して、リハーサル・ルームでとにかくプレイする。それをスタジオでレコーディングすること。あるサウンドで楽曲の録音をしてみたら“このドラム・サウンドが良いから、このままキーボードを加えて作ってみよう”とほかの曲作りを試みると、そこから良いものが生まれたりもする。
モス つまり、何も無駄にしないってことだ。僕たち全員、サウンドやアイディアに関してはとても要領が良い。セッティングに時間がかかったら、それを最大限に活用する。
インタビュー後編に続く(会員限定)
インタビュー後編(会員限定)では、 モスとマーヴィンの共同スタジオの機材写真とともに、最新アルバム『Mood Valiant』の制作裏側に迫ります。
Release
『Mood Valiant』
ハイエイタス・カイヨーテ
(ビート)
Musician:ネイ・パーム(vo、g)、ポール・ベンダー(b)、サイモン・マーヴィン(k)、ペリン・モス(ds)、他
Producer:ハイエイタス・カイヨーテ、アルトゥール・ヴェロカイ
Engineer:ハイエイタス・カイヨーテ、ウィリアム・ルナ、ニック・へレラ、ハイマ・マリオット
Studio:パーク・オーチャーズ・レコーディングス、ロッキング・ホース、ローリング・ストック、シア・ドス・テクニコス、他