ウエストライフ『ワイルド・ドリームズ』、コモン『A BEAUTIFUL REVOLUTION PT 2』 〜小泉由香's ディスク・レビュー

 第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、ウエストライフ『ワイルド・ドリームズ』、コモン『A BEAUTIFUL REVOLUTION PT 2』です。

バランスが良い王道のグループ・ポップス

ウエストライフ『ワイルド・ドリームズ』(ワーナーミュージック・ジャパン)

ウエストライフ『ワイルド・ドリームズ』(ワーナーミュージック・ジャパン)

 ウエストライフ2年ぶりの今作は、ジェイミー・スコットとピーター・ライクロフトの共同プロデュースで、ミックスをアレックス・ゲネア、ダン・グレッグ・マルゲラなどが担当。パンデミックから希望へとつなげたいという彼らの思いは、明るく奇麗なメロディで楽曲に反映されています。メンバーが1人で歌う個所はピン・ボーカルのバランス、一緒に歌えばグループでのコーラス・バランスに。まさに王道のグループ・ポップスが、スピーカーの前で展開されていきます。グループものはオケと歌とのすみ分けや、全トラックが鳴っているときのバランスが難しいので、レベルや帯域との戦いになるところをうまくコントロールされていると感じました。

前作よりプッシュ感増量のドラム・サウンド

コモン『A BEAUTIFUL REVOLUTION PT 2』

コモン『A BEAUTIFUL REVOLUTION PT 2』

 コモンの14枚目のアルバムは、前作『美しき革命-Pt.1』からの続投でカリーム・リギンスがプロデューサーを務め(ドラマーとしても参加)、ミックス・エンジニアもマニー・マロクィンが引き続き起用されています。重いバスドラと高いピッチのスネアは、前作より少しプッシュ感増量で攻めてきます。歌やラップはリバーブの少ないドライな処理や、リズム隊に当たらないよう若干硬めで口元がはっきり分かる方向に持っていくなど、さまざまな工夫がなされています。数曲オーバー・レベルがつきっぱなしになったりしますが(笑)、今作は“希望”という陽的要素のアルバムのためリズムでつくのもご愛嬌。ゲストはブリタニー・ハワード、PJ、ジェシカ・ケア・ムーア(詩人)など、前作に続きとても豪華ですよ。

小泉由香

【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア