CRYSTAL インタビュー 〜80'sインスパイアながら独自の世界観で展開するアルバム『Reflection Overdrive』の制作を探る

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歌の鍛錬の上に成り立っているような音楽じゃなくて
ニュー・オーダーみたいにヨレた感じが好きだったから

CRYSTALをご存じだろうか? ED BANGERに比肩するフレンチ・エレクトロのレーベルinstitubesから2009年にデビューし、過去3度のパリ公演やサンダーキャット全米ツアーへの参加、スペインのSónarフェスティバル出演など、インターナショナルな実績を誇るシンセサイザー・デュオだ。3月に突如、YouTubeで公開された「Refraction Overdrive」のMVが衝撃的で、ベイパーウェーブ以降の80'sインスパイアながら世界観の作り込みに余念が無く、一切の“ヌルさ”を感じさせない内容。もちろんサウンド自体も一筋縄では行かず、5月に東京のFLAUからリリースされたアルバム『Reflection Overdrive』はプリンスやニューウェーブ、歌謡曲などをごった煮にした独自路線である。メンバーの三宅亮太(写真右)と丸山素直(同左)に話を聞くべく、彼らの制作スペースにお邪魔した。

Text:Tsuji. Taichi

 

 

メロは高橋幸宏さんでBメロはWink
サビはオメガトライブをイメージした

ー三宅さんは、歌声と話し声が全く違いますね。
三宅 そうですか? 「Refraction Overdrive」みたいな曲をやったのは初めてだったので、ちょっと変わった声の出し方をしていたのだと思います。無理して(笑)。

 

ーMVの世界観が衝撃的でした。

三宅 MVとかライブのときに使う映像は、ずっと前から佐藤晋哉さんに作ってもらっているんです。

 

ーお二方の好みをよくご存じなのですね。

三宅 いや、どちらかと言うと彼の好みにこちらが寄せている感じです(笑)。

丸山 彼はもともとCRYSTALのメンバーだったんですよ。映像の仕事に専念すべく脱退してしまったんですけど、その後も活動を共にしていて。

 

ーMVの制作にはVHSを活用したと聞きました。

三宅 はい。撮影は近所のフォト・スタジオで行って、ソフトで編集したものをVHSへ落とすという流れでした。VHSに録ると色味が変わってしまうので、その変化を見越してソフトでは派手めのトーンに作ってもらったりして。で、最後にVHSからデジタルに変換したわけですが、いろいろ検証した結果、その段階での色味補正は無しにしました。今はビデオ・テープっぽくするための映像用エフェクトがたくさんあるんですけど、それらには無い階調が実機の魅力ですね。

 

ー事前にいただいた資料によると、近年はクラブ寄りのかっこいい路線を実践していたものの、今作ではキワどい曲を作るというコンセプトに立ち返ったそうですね。

三宅 はい……その書き方で良かったのかは分かりませんが(笑)。僕らはフランスのinstitubesというレーベルからデビューして、今回のアルバムや前作の原型みたいな作品を出していたんですけど、そこがクローズしてしまい、クルーだったTeki LatexさんのSound Pellegrinoへ参加することにしたんです。クラブ寄りのレーベルだったので“フロア向けの曲を”と言われ、彼にMCしてもらったものを含む4曲で『GET IT』というEPをリリースしました。でもしばらくしてSound Pellegrinoもアクティブじゃなくなって、自分はDJをやるわけでもないから、ダンス・ミュージックを突き詰めても仕方ないんじゃないかという気持ちになって……それで歌謡曲っぽいものに関心が移っていったのかもしれません。日本人がバンド的な形態でエレクトロニックな音楽をやっていると、海外の人からは“YMOみたいだ”と言われがちなんですよ。僕はYMOを通っていなかったし、違う評価も欲しいなあと思っていたんですけど、試しにYMOを聴いてみたら、いいな〜と思って。「Refraction Overdrive」のAメロは高橋幸宏さんが歌っているような感じを狙いました。ちなみにBメロはWinkの「淋しい熱帯魚」で、サビはオメガトライブの「君は1000%」をイメージしています。

 

ー「Disco na Koi」や「Northern Taurids」などにも歌謡曲的なテイストを感じます。

三宅 歌謡曲的なものはほかにもあったんですが、ズラっと並べてみたらクド過ぎたので(笑)、数を絞ったんです。それに“自分は歌手になりたかったわけじゃないよな”という思いもあって。歌謡曲の人たちって、ちゃんと歌の練習をしますよね? でも僕は、歌の鍛錬の上に成り立っているような音楽を聴いてきたわけではなく、80'sならニュー・オーダーの歌とか、そういうのに引かれていたタイプなので。

 

ー三宅さんの歌のヨレっとした感じがたまりません。

三宅 そう、ヨレっとさせたいんですよ。楽器の練習もしないんですが、今回のアルバムは結構テクニカルな感じになったので、自分のもともとの好みからすると真逆なんですよね。

 

Topic:オフィシャルMV 「Refraction Overdrive」

 YouTubeで公開中の「Refraction Overdrive」のMV。めまぐるしく変化する情報量多めの画とVHSの質感がユニークで、一度ハマると抜け出せない魅力がある。監督は佐藤晋哉氏で、撮影は山口佳秀氏、撮影協力は橘毅氏。ニューウェーブっぽい歌声や転調の仕方なども味わい深い。

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“偽モノのファンク”を追求していたが
サンダーキャットが入って本物になった

ーもともとは海外で売れてから、逆輸入的な感じで日本からリリースするようになったのですか?

三宅 向こうで売れたわけではないんですが、institubesからレコードを出すきっかけになったのはmyspaceで。当時はジャスティスのようなフレンチ・エレクトロとか80'sの要素を取り入れたニューディスコがはやっていて、ジャスティスのギャスパール(オジェ)さんとはmyspaceでつながっていたんです。まあ申請すれば誰でも友達になれたんですけど、その友達の中から“Top Friends”というのを決めて表示できる機能があって、自分の好きなアーティストや趣味をアピールできたんですね。で、ある日、ギャスパールさんのページがバグを起こして僕らがトップ・フレンドになってしまい、institubesのDJの目に留まったんです。Surkinという売れっ子で、彼から連絡がもらえて。

 

ーものすごくラッキーですね。もし、そのバグが無かったら人生が変わっていたのでは?

三宅 もっと良い生活をしていたと思います(笑)。レコードを出してからは認知度が上がったのか、国内のクラブ・イベントにちょこちょこブッキングしてもらえるようになったんですが、フロアの反応が微妙なときもあって……だから一念発起して、フランスへライブをしに行ったんです。そしたら全然、受けが違って。終演後の歓声とかもあまりに違ったので、翌年はレーベル主催のフェスへ出ることにして、ボーイズ・ノイズらとも共演することができました。

 

ー2017年にはサンダーキャットの全米ツアーに参加するという快挙を成し遂げています。

三宅 2016年に僕が単独でRed Bull Music Academy(RBMA)に参加したんですけど、そこに彼が講師として来ていて、僕のデモンストレーション・ライブを見て気に入ってくれたようなんです。“自分がベースを弾くから、デモ音源があったら聴かせてくれ”と言われ、会期中に録音まで済ませたので、必ず完成させなきゃいけないなと思いました。実はアルバムに入っている「Ecco Funk」が、その曲です。ただ、僕らは昔から“偽モノのファンク”って言うんですかね……そういうのを目指して曲作りしてきたんですけど、サンダーキャットが弾いたことによって急に本物になってしまって(笑)。それで、どうしたらいいのか全然分からなくなり、仕上げるまでにやたら時間がかかってしまいました。

 

ーその RBMAが全米ツアーのきっかけに?

三宅 RBMAの翌年にスペインのSónarフェスティバルへ出演することができて、そこでもサンダーキャットと会ったんです。そしたら帰国後、彼のマネージメントから連絡があって“今度アメリカ・ツアーを一緒に回らないか?”と打診されて。アメリカではサンダーキャットのバンドと一緒にツアー・バスに乗って、1カ月くらい行動を共にしました。

 

KORG M1 V2などをメインにしつつ
Six-Trakなど実機のシンセも

ーライブは、どのようなセットで行っているのですか?

丸山 私はずっとALESISのMicronを使っています。アナログ・モデリング・シンセで、コンパクトなのにパワフルな音がするんです。使い勝手が良く、一台あれば何なりと済ませられるから重宝していますね。

三宅 海外公演のときは荷物を抑えたいので、僕はパソコンとKORG Taktile-25、ボコーダーくらいです。最近はBOSSのコンパクト・ボコーダーVO-1を使っていますね。

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ボコーダーのKORG VC-10。音数の多い曲では抜けが悪くなるので、BOSS VO-1の音とレイヤーして使っているとのこと

ーオケはパソコン内のDAWから送出している?

三宅 はい、ABLETON Liveから音と映像の両方を出しています。音に関してはセッションビューを使っていたこともありましたが、今はアレンジメントビューにトラックのステレオ・ミックスを並べて再生しているんです。映像もアレンジメントビューにインポートして、音とタイムラインを共有しています。MacのHDMI端子から出しているため、スタジオでセカンド・ディスプレイに映し出すのと同じ要領です。

 

ー楽曲制作もLiveで?

三宅 そうですね。institubesから出していたころとかは、MTRの延長でAPPLE GarageBandを使っていましたが。

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ホーム・スタジオのデスク周り。DAWはABLETON Live 10で、オーディオI/OはAUDIENT ID14 MKIIをメイン使用。モニターは基本的にSONYのヘッドフォンMDR-7506で行っているという

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歌入れはOKTAVA MK-220で。ドイツの楽器店にて購入したそうで、ボトムのしっかりとした耳に痛くない音がお気に入り

ーハードウェアのシンセなども使っているのですか?

三宅 今回はSEQUENTIAL Six-Trakをリードに使うことが多かったと思います。ほかにはベースをROLAND Promars、パッドをJuno-106で鳴らしたりも。とは言え、メインはソフト・シンセなんですよ。KORGのM1 V2やWavestation V2をよく使っていて、アルバム制作の途中でARTURIAのDX7 VやCMI Vなども購入しました。

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アルバムのリード演奏などに活躍したシンセSEQUENTIAL Six-Trak

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上からROLAND Juno-106とPromars。前者はパッド、後者はベースなどに使うそう

ードラムには、どのような素材を?

三宅 昔、友達とDVDで共有していた手製のサンプル集とか。ビンテージ機材の音をワンショット化したものが入っていたりして、相変わらず愛用しているんですが、キックには決まってKORG Electribe・R ER-1を使っています。“芯”となるような部分を作るのに、うってつけなんですよ。

 

ーミックスもご自身で行っているのですか?

三宅 はい。そもそも誰かにミックスをお願いしたことが無くて。でもやっぱり、第三者からのアドバイスみたいなのは欲しいですね。仕上がりを客観的に聴いたとき、バランスが気になるところもあったりするので。

 

ー個人的には、次回は歌モノにフォーカスしたEPなどを聴いてみたいです。

三宅 じゃあ次はそうしようかな……。

 

ーそれで、またキャラの濃いMVも作っていただいたり。

三宅 あの路線って、ほかにやりようが無いじゃないですか(笑)。今、ちょっと様式美みたいになりつつあるから、そういうふうにはならないようにしていきたいですね。

 

Release

『Reflection Overdrive』
CRYSTAL
FLAU:FLAU91

  1. Disco na Koi
  2. Phantom Gizmo
  3. Taxi Hard (feat. Vincent Ruiz)
  4. Northern Taurids
  5. Ecco Funk (Album Version)
  6. Solidary Sonar
  7. TV Fuzz (feat. Julián Mayorga)
  8. Kimi Wa Monster feat. Matias Aguayo (Album Version)
  9. The Golden Disc
  10. Refraction Overdrive
  11. Slow Universe

Musician:三宅亮太(prog、syn、vo)、丸山素直(syn)、ステファン・ブルーナー(b)、ヴィンセント・ルイス(b)、フリアン・マジョルガ(vo)、マティアス・アグアヨ(vo)
Producer:CRYSTAL
Engineer:三宅亮太
Studio:Kotoriten