AJICO インタビュー【前編】〜EP『接続』で果たしたバンド再始動のきっかけとUAの目指したものとは?

AJICO インタビュー【前編】〜EP『接続』で果たしたバンド再始動のきっかけとUAの目指したものとは?

バンドだから個々人の何かを変える発想は無かったけど
プラスαの部分に“エレクトロ”というキーワードがあった

ベンジーこと浅井健一(写真左)とUA(同右)が中心となり、ベーシストのTOKIE、ドラマーの椎野恭一とともにスタートさせたバンド=AJICO。2001年にリリースしたアルバム『深緑』は、みずみずしくも異彩を放つサウンドで現在も根強いリスナーを有するものの、バンド自体は同年に活動を休止。メンバーはそれぞれの活動にまい進することとなったが、今年5月に4曲入りのEP『接続』で待望の再始動を果たした。UAのライブ・メンバーとしても知られる鈴木正人がサウンド・プロデュースを手掛け、バンド主体ながらエレクトロニック・ミュージックのような質感となった本作。その制作について、浅井とUA、鈴木の3人にインタビューを試みた。

Text:Tsuji. Taichi Photo:Chika Suzuki(鈴木正人ポートレート、スタジオ)

 

Sound Producer on the EP

鈴木正人

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LITTLE CREATURESのベーシスト/キーボーディスト、アレンジャーやプロデューサー、劇伴作家など、さまざまな顔を持つ音楽家。『接続』ではサウンド・プロデュースを担当し、エンジニア奥田泰次氏らとともに低重心かつエレクトロニックな風合いの音像を生み出した。AJICOのほか、小泉今日子や秦基博、DAOKOといったビッグ・ネームに数多く携わる。劇伴作家としては『おらおらでひとりいぐも』『坂道のアポロン』といった映画のサウンドトラックを制作

 

マニアックな響きを出すのではなく
ブライトでオープンにできるような曲を

なぜAJICOを再始動させることにしたのですか?

UA 私は2015年からカナダの小さな島に住んでいるんですけど、2018年の夏ごろにだいぶいろいろと落ち着いてきて、2020年には自分のデビュー25周年を迎えるんだなという思いが何となく頭にあったんです。同時に日本人のミクスチャー感覚……いろんなものを吸収して独自にアウトプットする、あの感じにあらためて興味が出てきて、新旧問わず自分の興味の範囲で日本の音楽をよく聴くようになって。趣味というより研究のような感じだったんですけど、そうするうちにYouTubeの自動再生で『深緑』がかかったんです。自発的に聴くことがないまま20年が過ぎていましたが、森を眺めながら偶然耳にして、すごく感動したというか心が洗われるような気がして。“今の自分がAJICOの曲を歌ったらどうなるのかな?”とか“4人がもう一度、出会い直したらどんな音になるのかな?”といった好奇心が湧いてきたんですね。それでベンジーに声を掛けました。

 

EPの制作は2019年に始まったと聞いています。

UA はい。その年にベンジーからデモをもらって……15曲くらいあったのかな? デモを聴いた後、ベンジーと事務所で会うタイミングがあったから、彼のギターに合わせて声を出しながら4曲選びました。

 

浅井さんはかなりの短期間で15曲、作ったのですね。

UA いやいや、ベンジーは400曲くらいデモを持っているんだっけ?

 

それくらいの量を常にストックしているのですか?

浅井 ストックっていうか、昔はカセットとかMDに入れてたでしょ? ちょっとしたフレーズをさ。そういうのはうっかり無くしたりするんだけど、今、デジタルになってからは完全にずっと残ってるので、めちゃくちゃあるんだよね、曲の断片が。で、結構な数を聴き直して、今これ歌ったら絶対格好良いだろうなっていうのを選んで。初めは2曲くらいになるんかな?って思ってたけど、結局4曲になったね。

 

デモは何に録音しておくのですか?

浅井 携帯とかICレコーダーとかかな。

 

ギター弾き語りの状態で?

浅井 そうだね。

 

作るぞ!と構えて作るのではなく、日常的に作曲しているのでしょうか?

浅井 作るぞと思ってやるときもあるし、ふとしたはずみでフレーズができたりしたときは逃さずに録っておく。例えば何かの曲を練習している合間にさ、違うものがパッと浮かんだりしたら、そういうときは録るようにしてるね。

 

良い曲が浮かぶときには、何か条件があるのですか?

浅井 何も無いね。決まり事は無い。でも歌詞はね、二日酔いでめちゃめちゃ気持ち悪いときに出てくるかな。もう何も考えたくない、みたいなときにさ。

 

すべて一気に出てくるのでしょうか?

浅井 全部は出てこんけど(笑)。ペンを取りに行くのも大変だ、みたいな状態のときに突拍子も無い言葉が浮かんできたりして、頑張って書き留めといたやつが後で異常に良かったりとか。逆に“酒やめよう”と思ってクリーンな日々を送ってると、クリーンな歌詞しか出てこなくて面白くない。

 

危ういときこそ良いものが出てくる?

浅井 そうなのかなぁって。長年生きてきて、そこら辺は関係しているのかなって思うね。

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『接続』の制作にも使われた鈴木のプライベート・スタジオ=Studio Amadeus Annexのデスク周り。AVID Pro Toolsを中心に据え、ADAM AUDIO A7やJBL 4312XPといったスピーカーを備える。マスター・キーボードはM-AUDIO Keystation 88

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オーディオI/Oは、写真上のラック2段目のUNIVERSAL AUDIO Apollo 8 Duo。VESTAX RV-2(スプリング・リバーブ)やKORG SDD-3000(ディレイ)なども見える

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ラックの上から2段目に設置されているのは、歌録りなどによく使うというUREI LA-4(コンプ/リミッター)×2。RUPERT NEVE DESIGNS Portico 5042やSPL Transient Designer 2も設置

現実の暮らしの中では
“込み入った音楽”ってあまり必要無い

UAさんが、今回の4曲を選んだ理由は?

UA 自分の歌のイメージができたのかな。全然できないやつもあるから。それに、せっかくやるんだったらポップに仕上げたいというのもあったし。私がマニアックな響きを出しても、今のAJICOではあまり意味が無いと思ったから、なるべくブライトでオープンにできるような曲を選びました。そもそも『深緑』とは全く別の姿勢で取り組もうとしていたんです。あれは衝動的なアルバムだったと思うけど、当時は今と年齢も違うし、とにかく自分のためにやっているという思いが強かったから。聴き手を選んでしまっていたのかもしれないけど、オープンになろうなんていう意識は全く無かったので、同じAJICOでも動機が違うんです。

 

どうしてオープンなものを目指したのでしょう?

UA 2016年にUAとして9枚目の『JaPo』というアルバムを出して、心ゆくまで表現できた感があったし、ツアーも本当に楽しかったんですけど、セールスに関しては“音の通り”というか……少なくとも日本ではね。ミュージシャン仲間たちに褒めてもらったりとか、うれしいこともありましたが、じゃあ次のアルバムは?って考えたときに“一通り、やらせてもらいました”という気持ちが強くて。

 

しかしAJICOだと、ソロとはまた違った表現の可能性がありそうですね。

UA 東京に住み続けていたら、もっとマニアックで掘り下げたことをやっていたかもしれません。だけどカナダで自然に囲まれて子育てをしていると、込み入った音楽ってあまり必要無いんですよね、現実の暮らしの中で。あと2019年にツアーをしたときも、会場の温度がガンッ!って上がって自分もすごい喜びに包まれる感覚がしたのは、明らかに朝本(浩文)さんにプロデュースしてもらっていたシングル曲だったりして。だからと言って、その方向だけをやるというのが自分にはできなくて、さまざまな楽曲のアプローチを続けてきたけれど、『JaPo』を作ってチャレンジしたいことをいったん消化できたので、だったら“ライブの温度感”というものをさらに突き詰めるべきなのかなと。できるだけ多くの方々や今までファンじゃなかった新しい世代、UAのことを知らない人にまで届くようなものを目指すときが来たような気がして。

 

そのような意志をベンジーさんとも共有しつつ曲作りを進めたのでしょうか

UA いえいえ、ベンジーとは言葉でどうのっていうのは全くやっていないです。音の交換だけでした。ただ、制作の初期の段階で彼がLIQUIDROOMに私のツアーを見に来てくれて、後日ミーティングしたときに開口一番、“ライブすごい良かったよ”って。それから“UAは実験的なこともやってるけど、やっぱりストレートな曲が一番盛り上がっとるね”とも言ってくれたんです。気付いた方がいいよ?っていうニュアンスではなかったと思うけど、昔だったら“ありがとう。だけどさ……”って言い返していたような気がします。なのに、素直に腑に落ちたんですね、そのときは。ああ、分かってくれているな、と。だから、以降は特に言葉で何かを確認し合うことは無かったと思います。

 

後編に続く(会員限定)

 

インタビュー後編(会員限定)では、エレクトロをキーワードにしたEP『接続』のサウンド・メイキングを紐解きながら、今後の展望に迫ります。

 

Release

『接続』
AJICO
ビクター/SPEEDSTAR:VICL-65462(通常盤/CD)、VIZL-1840(初回限定盤/CD+ライブDVD)
※初回限定盤ライブDVDは、2000年に旧・新宿LIQUIDROOMで行われたステージの模様を収録。全11曲

Musician:UA(vo)、浅井健一(g、vo、additional drums)、TOKIE(b)、椎野恭一(ds)、鈴木正人(prog、clavinet、p、org)、美央(vln)、伊能修(vln)、菊地幹代(viola)、笠原あやの(vc)
Producer:AJICO、鈴木正人
Engineer:奥田泰次、関口正樹
Studio:MSR、Amadeus Annex