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AJICO インタビュー【後編】〜エレクトロをキーワードにしたEP『接続』のサウンド・メイキングに迫る

AJICO インタビュー【後編】〜エレクトロをキーワードにしたEP『接続』のサウンド・メイキングに迫る

“踊れるロック”というかリズムの立ったサウンド
そういうディスコ的な感覚が欲しいなと思って

ベンジーこと浅井健一(写真左)とUA(同右)が中心となり、ベーシストのTOKIE、ドラマーの椎野恭一とともにスタートさせたバンド=AJICO。2001年にリリースしたアルバム『深緑』は、みずみずしくも異彩を放つサウンドで現在も根強いリスナーを有するものの、バンド自体は同年に活動を休止。メンバーはそれぞれの活動にまい進することとなったが、今年5月に4曲入りのEP『接続』で待望の再始動を果たした。UAのライブ・メンバーとしても知られる鈴木正人がサウンド・プロデュースを手掛け、バンド主体ながらエレクトロニック・ミュージックのような質感となった本作。その制作について、浅井とUA、鈴木の3人にインタビューを試みた。

Text:Tsuji. Taichi Photo:Chika Suzuki(鈴木正人ポートレート、スタジオ)

 

インタビュー前編はこちら:

 

ベックの『ハイパースペース』とか
クイーンのディスコ化などをイメージ

曲は、デモの状態からどのようにして発展させていったのですか?

浅井 基本的なものは初めにUAと共有していて、正人君がサウンド・プロデュースしてくれることになったので、俺としては“自分からは出てこない世界”を見られるなという楽しみがあって。だからギターとコーラスに専念することにして、そこから先はUAと正人君っていう。

 

AJICOとして、どういうサウンドにしたいかというイメージはあったのでしょうか?

UA バンド・サウンドだから個々人の何かを変えようっていう発想は無かったけど、プラスαの部分として“エレクトロ”というキーワードが私の中にはありました。シンセのサウンドをたくさん使いたくて、思い浮かべていたのはベックの『ハイパースペース』とか。あと、クイーンなどのロック・バンドがディスコ・ミュージックに接近した時代がありましたよね? “踊れるロック”というか、リズムが立つようなサウンド。そういうディスコっぽい感覚が今のAJICOにあると、すごく良いのかなと思って。

浅井 まあ、人間、ダンスが好きなんでね(笑)。原点に帰るっていうか。

 

EPの中では「地平線 Ma」や「L.L.M.S.D.」などローエンドの充実した曲が目立ちます。

鈴木 最近の傾向として、バンドの音楽でもローエンドを太く作るというのがあって、ブリタニー・ハワードのアルバム『Jamie』などを参考にしました。

 

低域にフォーカスして『接続』を聴いているとダンサブルに感じられますが、アレンジそのものはギターを中心に作られているような気がします。

鈴木 そうですね。やっぱり浅井さんのギター・フレーズで出来上がっていると言っても過言ではないというか、すごく大事な要素なので、それありきで周りにどういうものを付けていこうかという考え方でした。独特なんですよね、ギターの感じが。ほかに置き換えられないというか。

 

ということは、バンドの録り音があった上でアレンジを加えていったのでしょうか?

鈴木 まずビクタースタジオでプリプロを行ったんですよ。そのときのAVID Pro Toolsセッションに対して、自分のスタジオでアレンジを加えていきました。録り音が割とオーソドックスなロックっぽい音色で、ちょっと発想を変えたかったのでドラムの加工から始めましたね。ゲートで余韻を切ってみたり、コンプをかけてみるなどして。また「地平線 Ma」に関しては、椎野さんのドラムを一回、打ち込みのドラムに差し替えて“こういう感じ、どうでしょう?”と提案してから本チャンに入っていただいたんです。シンセを足したのは、バンドの音の質感を自分なりにプロセッシングして、イメージに近くなるまで作り込んだ後ですね。

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デスク右手にはアナログ・ミキサーのSTUDER 961を設置。往年のクラシック録音などに使われていたヘッド・アンプを備え「音も良いし、チャンネルEQの特性も素晴らしい。名機です」と鈴木は語る

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ラック最下段にあるのは、4~5年前に購入したというWARM AUDIO WA76(コンプ/リミッター)。LITTLE CREATURESの歌録りには必ず使用するそう。緑色のパネルのALTEC 1612A(リミッター)は、ここで完パケするときにマスターの音を通したりするという

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ギターやベースのコレクション。MARTINのアコギやFENDER Precision Bass、Jazz Bassなど多数そろえている

パッと聴かせやすいところにだけ
シンセを入れるのがキモだった

お話に挙がった「地平線 Ma」では、ひずんだギターに重なるパッドの音色が印象的です。

鈴木 あれはKV331 Synthmasterの音ですね。

 

「L.L.M.S.D.」や「接続」もシンセが目立ちますね。

鈴木 Synthmasterも使っていたはずですが、ARTURIAのAnalog Labを鳴らすことが多かったかな。あまり細かいエディットができない仕様なんですが、音が太くてプリセットが充実しているので使い勝手が良いんです。でも実はシンセって、そんなにたくさん入っているわけではないんですよ。一曲あたり多くても4trだったと思います。しかも全部を一度に鳴らすことはほとんど無く、パッと聴かせやすいところにだけ入れるというのを意識していて。で、レコーディングの終盤に浅井さんから“新しいギターのフレーズが思い付いたんだけど、どう?”っていう感じでオーディオ・ファイルが送られてきたんです。

浅井 自宅で作って録音したんだけど、使うか使わないかは正人君チョイスでやってくださいという感じで。

 

どのようなツールで録音したのですか?

浅井 ソフトは古いバージョンのPro ToolsかAPPLE Logic Pro Xだね。

鈴木 結構意外でした。浅井さん宅録するんだ、って(笑)。

浅井 でも全然オタクじゃないんだわ。正人君の真逆というか、機材のことなんて何も知らないし。だから、仕上がりがどんな音になるか楽しみだったんだ。

鈴木 あと、やっぱりボーカルの質感が大事かなと思っていました。だからミックス・エンジニアの奥田(泰次)君とは細かくやり取りを重ねて。初めに作ってもらったときは“良い音”だったんですね。レンジが広く、ふくよかだったんですけど、もう少しエッジが立つようにしてもらいたくて。

UA 私が奥田君の手掛けた作品で好きなのは中村佳穂ちゃんやTempalayで、凝った音作りをする印象があったんです。でもAJICOが同じような感じになるのはちょっと違うから、もう少しオープンに、ド真ん中で行きたいっていうのを事前に伝えておきました。ただ私の説明不足だったのか、あまりにド真ん中だったりすることがあって、“今AJICOをやるという時代感”とはややズレているのかなと。だから、そこはもう少し奥田君節を出してもらって……という感じでバランスを取ってもらいました。

 

例えば「地平線 Ma」のボーカルは、曲の各セクションで大幅に音色を変化させていますよね。

UA あの曲は間奏らしい部分が無くて、結構ずっと歌いっぱなしじゃないですか? 今の時代感を考えて、あえてそうしているんですけど緩急を強めたいと思ったから、エフェクトについて注文をさせてもらったんです。楽器的に扱うって言ったらオーバーかもしれないけど、ある場面ではエフェクトによって後ろへ下がるように聴かせたり、かと思えばグッと前に出したり。曲のキャラクターからしても、そういう音作りがマッチするように感じたんですね。

 

マスタリングは木村健太郎さんが手掛けています。

UA 彼はキャラの違うマスターを計3種類、用意してくれたんです。シブい感じ、メインストリームっぽくバンドの音を華やかに聴かせる感じ、その中間という3つでした。「接続」をシブい感じのにした以外は派手なものを選びましたが、チョイスがあるというのはありがたかったですね。1種類だけぽ~んと送られてくるよりも音作りの意図が理解しやすいし、選ぶ立場としても納得できますから。

 

内容の濃いEPで再始動したAJICOですが、今後の展開についてはいかがでしょう?

浅井 とにかく目の前のツアーを成功させることですね。それで、また次の展開が見えてくると思います。

UA そうですね。ステージをこなしていくと、再始動をしたというのをさらにしっかり体感できると思います。

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AJICOのライブに向けたキーボードのセット。右上にKORG Minilogue、その下にROLAND VR-700、FA-08を設置。LINE 6 M9やSTRYMON Lex Rotaryといったエフェクターも見えるが、本番ではLESLIEスピーカーを使用するため後者はスタジオ用となっている

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常設マイクの一部。左からOKTAVA MA-52、MILAB VIP-50、LITTLE CREATURESの歌入れによく使うというWARM AUDIO WA-47、低音楽器用のAKG D12E

インタビュー前編では、20年振りに果たしたバンド再始動のきっかけや、UAの目指したAJICOの音楽について語っていただきました。

 

Release

『接続』
AJICO
ビクター/SPEEDSTAR:VICL-65462(通常盤/CD)、VIZL-1840(初回限定盤/CD+ライブDVD)
※初回限定盤ライブDVDは、2000年に旧・新宿LIQUIDROOMで行われたステージの模様を収録。全11曲

Musician:UA(vo)、浅井健一(g、vo、additional drums)、TOKIE(b)、椎野恭一(ds)、鈴木正人(prog、clavinet、p、org)、美央(vln)、伊能修(vln)、菊地幹代(viola)、笠原あやの(vc)
Producer:AJICO、鈴木正人
Engineer:奥田泰次、関口正樹
Studio:MSR、Amadeus Annex