こんにちは、DJ/作曲家のPharienです。突然ですが、みなさんは僕がどのような機材で曲を作っていると思いますか? 高級なオーディオI/Oに大きなユニットを積んだスピーカー、49鍵のMIDIキーボード? いえ、僕はラップトップ1台とヘッドフォンだけですべての楽曲を制作し、ミックスとマスタリングまで行っているのです。今回はFL Studioの便利な機能を活用した、ノマド&ミニマルな制作方法について解説していきたいと思います。
コンピューターのキーボードを
MIDI キーボードの代わりに使う
タイトルに“ノマド”と付けた通り、僕はカフェに行って楽曲制作を行うことが多いです。さまざまな誘惑がはびこる自宅とは違って、カフェに行けば必然的に楽曲と向き合うしかなくなるので集中できます。
かといってカフェのテーブルにMIDIキーボードを置くのはさすがに気が引けますよね。なので僕はコンピューターのキーボードをMIDIキーボードの代わりに使って、ソフト・シンセを鳴らしています。作曲はもちろん、音作りのときにも便利です。僕は外出先に限らず普段からMIDIキーボード無しで制作しているので、外での作業でも全くストレスを感じません。外で作業する方をはじめ、“FL Studioを買ったばかりでMIDIキーボードまで予算が回らないよ”といった方にぜひ実践してほしいテクニックです。
設定方法は、外面上部のツール・バーにあるTyping keyboard to piano keyboardをクリックするだけ。
Ctrl(Macはcommand)+Tでショートカットも可能です。好きなソフト・シンセをChannel Rackに立ち上げて、キーボードのQキーを押してみてください。ドの音が鳴りましたね。
デフォルトだと、Layout jankoという配列になっています。これはジャンコ・キーボードという楽器の鍵盤を模した配列なので、オーソドックスなピアノのレイアウトにしてみましょう。さきほどオンにしたTyping keyboard to piano keyboardの右クリック・メニューからLayout pianoを選択してください。
これでコンピューターのキーボードを一般的なMIDIキーボードのように使えるようになりました。
右クリック・メニューには一般的なピアノの配列だけではなく、一つのキーで和音を鳴らすものや、さまざまスケールに沿った配列など、多くのレイアウトが用意されています。また、ルート音をC3、C4、C5から選ぶことも可能です。シーンに適したレイアウトを選択することで、楽しくもあり便利な機能として使えます。
余談にはなりますが、もしゲーミング・キーボードのRAZER Chromaをお持ちであれば、RAZERのWebサイトから専用プラグインをインストールすることで、タイピング・ピアノ・モードにて鍵盤部分を照らすことも可能です。
僕の場合、作曲のほとんどをマウスでの打ち込みで行っていますが、メロディを作るときはコード進行に合わせて弾くことが多いです。コードを決めずになんとなく弾いていたら良いメロディに出会えた、なんてこともありますね。海外の有名DJたちも“ピアノロールで遊ぶことからメロディが生まれる”と言っているのをよく見たり聞いたりします。トップ・アーティストもアナログな方法でメロディを作っているんですよね。
“音で遊ぶ”といった意味で、キーボードのレイアウトを変えることは有効な手段と言えるでしょう。例えば使ったことのないスケールを選んで弾くことによって、通常のピアノロールを触っているだけでは出てこなかった旋律が生まれてくるかもしれませんよ。
FL Studioとコンピューターだけで
フィンガー・ドラミングが行える
近年ローファイ・ヒップホップやジャジー・ヒップホップで用いられる、ヨレたビート。それらはサンプラー・スタイルの機材で、フィンガー・ドラミングをして作られることが多いです。FL Studioにも名機AKAI PROFESSIONAL MPCを模したプラグインのFPC(Fruity Pad Controller)が用意されています。ヨレたビートは人間の手でたたいて生まれる微細なズレが味となっているのですが、かと言ってサンプラー・スタイルのMIDIコントローラーをカフェの机に広げるのは、少々迷惑なことかもしれません。
先ほどコンピューターのキーボードをピアノ配列にしましたが、FPC用のレイアウトも用意されています。
コンピューター1台でフィンガー・ドラミングが行えるわけです。パッド・タイプのコントローラーはそこそこ値が張るものが多いので、“興味はあるけれどコントローラーを導入する勇気が無い”という方は、コンピューターのキーボードでフィンガー・ドラミングの面白さを体感してみるのもよいかもしれません。
Performance modeで
キーボードをクリップのトリガーに
Typing keyboard to piano keyboard機能は、制作だけではなくライブでも活用できます。FL StudioのPlaylistをライブ向けの仕様にできるPerformance modeが用意されているのはご存じでしょうか? クリップの再生/停止をコントロールできる機能で、再生/停止をMIDIコントローラーにアサイン可能です。
画面上部のTOOLSからMacros>Prepare for performance modeと選択することで、プロジェクトがPerformance modeに変化します。
Typing keyboard to piano keyboardには、このモード用のレイアウトも用意されているのです。Layout Performance modeを選択して、OPTIONS>MIDI SettingsからPerformance modeのMIDIチャンネルを1に設定してください。するとtr1〜8に配置されたクリップの再生/停止を、コンピューターのキーボードで操作できるようになります。
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冒頭で制作環境について話しましたが、僕はモニター・スピーカーを使っていません。音が耳元から強く聴こえないと落ち着かず、スピーカーでの作業が苦手なのです。ハイエンドなスピーカーを使わせてもらったこともありましたが、それでもしっくりきませんでした。モニタリングはヘッドフォンのSENNHEISER HD25で行っています。ワイド・レンジに再生してくれる僕の相棒です。次回はそんな制作環境でどのようなミックスを行っているのか、解説していきたいと思っています。
Pharien
21歳の日本人DJ/作曲家。17歳のころにFL Studioを使った作曲を初め、2年後にはDJのハードウェルが主宰するRevealed Recordingsより「Nightfade」を発表。その翌年、オランダのArmada Musicより「Tell Me The Truth」をリリースする。2019年夏にはSpinnin' Recordsと日本人初となる専属契約を結び、同年冬にはSpinnin' Recordsが中国で開催したオフィシャル・イベント、Spinnin' Sessionsへの出演を果たした。
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