こんにちは、DJ/作曲家のPharienです。FL Studioは、僕が作曲を始めた17歳のときから愛用しているDAW。今月号から4回にわたって、僕がFL Studioをどのように使っているか解説します。初回は愛用するIMAGE-LINEのプラグインについて語らせてください。
色の濃淡で周波数特性を示す
Fruity Parametric EQ 2
今まで多くの楽曲をリリースしてきましたが、その中で必ず使ってきたのが7バンド・パラメトリックEQのFruity Parametric EQ 2。過不足無く自然にカットおよびブーストが行える優等生です。最もリーズナブルなFL Studio 20 Fruity(16,000円)でも標準で搭載されています。イコライジングの多くを学んできたプラグインで、いわば音楽制作の相棒と言うべき存在です。
各バンドを右クリックすると、ハイ/ローパスやバンド・パス、ピーキングなど、8つからカーブを選択可能。スロープを設定できるOrderという項目も備えていて、同じく右クリック・メニューからアクセスできます。右側にはゲイン、FREQ(周波数帯域)、BW(バンドワイズ)といったパラメーターがスタンバイ。こちらの最上部でもカーブとスロープが変えられます。左側の画面で各バンドを動かすと周波数帯域がズレることもあるので、細かな調節は左側で行うとよいでしょう。また、下部のCOMPAREでA/B比較も行えます。
Fruity Parametric EQ 2には周波数特性を表示するスペクトラム・アナライザーが搭載されています。EQに搭載されているスペクトラム・アナライザーは波形で値を表示するものが多い中、このEQは周波数が強く出ているところほど赤い線が濃く表示されるという方式を採用。視覚情報に惑わされづらい良い作りだと思います。音楽制作初心者の方でも直観的にミックスできるでしょう。
中には周波数特性をグラフで見たい場合もありますよね。サード・パーティ製のアナライザーをEQの後段にインサートするのもよいですが、FL StudioにはEQUOというグラフィックEQも標準搭載されていて、こちらは一般的なアナライザーに近い表示です。僕も一時期、EQUOをアナライザー代わりに使っていました。
Fruity Parametric EQ 2が最も活躍するのは細かな調節。僕の曲はひずみ系エフェクトを多用するが故に高音域がブーストされがちなので、不要な帯域をカットする目的で重宝しています。ドラムやプラック・シンセなどのアタック感が大事になる素材では、必要な帯域をほんの少しブーストする用途でも使いますね。
初心者の方にアドバイスしたいのは、EQを使った大胆なブーストは避けるべきだということ。安易なEQは音質劣化を招きます。作曲を始めてから1年ほどはEQで高音域をブーストすることも多かったのですが、今はFruity Multiband CompressorやXFER RECORDS OTTといったマルチバンド・コンプで欲しい帯域を持ち上げたり、マルチバンドのひずみ系エフェクトを使っています。こういった手法の方がナチュラルな音色変化が得られますよ。
トランジェントと倍音で距離感を制御
Transient Processor
次に紹介するのは、主にアタック/リリースをコントロールするプラグインのTransient Processor。僕がFL Studioのデモ版を使っていたときに、一目ぼれして購入したプラグインです。Fruity Parametric EQ 2と同じく、どの曲にも必ず使用しています。Transient ProcessorはFL Studio 20 All Plugins Bundle(120,000円)か単品(5,256円)でしか購入できないのですが、とても優秀なプラグインなので導入する価値は必ずあります。ユーザー・インターフェースを見ると“できることが少なそう”と感じるかもしれませんが、僕のダンス・ミュージック制作において欠かせないプラグインです。
音の始まりで鳴るカチッとした部分、いわゆるトランジェントの強弱をAttackノブでコントロールします。キックやクラップ、ハット、ドラム系のループなどを前に出したい場合に有効なパラメーターです。逆にブレイク用に主張の弱いキックを作りたいときにも使い勝手が良く、クラップやハットの前後感の演出にも適しています。Releaseノブは余韻の長さをコントロール可能です。だらしなく聴こえる音もこれ一つで解決します。タイム・ストレッチを行うより、Transient Processorの方が奇麗に仕上げられますよ。僕の場合キックのリリースを短くして、アタックの後で鳴る雑音を聴こえづらくする、といった使い方をしています。
また、倍音を付加するDriveノブが付いているのもポイント。アナログ・スタイルのディストーションを模した機能で、右に回していくと太く丸い音に変化していきます。アタック/リリースに加えてサチュレーションも備えることで、距離感のコントロールに長けたプラグインになっているのです。
Fruity Reeverb 2をインサートし
オートメーションで躍動感を付ける
FL Studioに標準で搭載されているリバーブ、Fruity Reeverb 2も僕の制作には欠かせません。サード・パーティ製のリバーブをいくつか所有していますが、結局Fruity Reeverb 2に行き着くことが多いです。癖の無い残響音は、さまざまなソースにマッチするのです。空間の広さを決めるSIZEというパラメーターがあるのですが、僕は基本的にデフォルトである12時のポジションで使っています。デフォルトの状態がまさにちょうど良いあんばいなのです。
センド&リターンで使うことが多い中、リバーブにオートメーションを描きたいときにはインサートします。実際に僕の曲では、シンセ・リードにインサートしていることが多いです。動かすパラメーターは、エフェクト音の混ざり具合を調節するWETと、残響音の減衰時間をコントロールするDEC(ディケイ)の2つ。2〜4小節の感覚でリバーブのかかり具合に強弱を与え、躍動感のあるシンセ・リードを作っています。これは“自分のシグネチャー・サウンドが欲しい”と思っていたところ、あるアーティストの楽曲を聴いてひらめいたテクニックです。日ごろから注意深く音楽を聴いていると、発見がありますよね。制作者ならではのよろこびです。
Pharien
21歳の日本人DJ/作曲家。17歳のころにFL Studioを使った作曲を初め、2年後にはDJのハードウェルが主宰するRevealed Recordingsより「Nightfade」を発表。その翌年、オランダのArmada Musicより「Tell Me The Truth」をリリースする。2019年夏にはSpinnin' Recordsと日本人初となる専属契約を結び、同年冬にはSpinnin' Recordsが中国で開催したオフィシャル・イベント、Spinnin' Sessionsへの出演を果たした。
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