製品開発ストーリー:SOFTUBE Console 1&Modular

高度なモデリング技術を持つスウェーデンのデベロッパーによる
コンソールを再定義するシステムとソフト・モジュラー・シンセ

アメリカ、イギリスに次ぐ音楽輸出国、スウェーデンに本拠を置くプラグイン・メーカー、SOFTUBE。自社ブランドでの製品開発以外にも、MARSHALLやFENDERなどへのアンプ・モデリング技術提供や、UNIVERSAL AUDIO、NATIVE INSTRUMENTSなどとの共同開発なども行っている同社は、同業他社からもその優れた技術力が注目されているメーカーと言える。今春よりSOFTUBEブランド製品をエムアイセブンジャパンが取り扱うことになったのを機に、同社のマーケティング担当者2名が来日。既発製品ながらアップデートが予定されている、プラグインとハードウェアとのハイブリッド製品Console 1と、Eurorackモジュラー・シンセを再現するソフトModularを中心に、話を聞いた。

マーケティング・マネージャーのヘンリック・アンダーソン・フォーゲル氏(左)とジョー・ロートン氏(右)。フォーゲル氏はマルチプレイヤーで、かつてレコーディング・スタジオを経営していたそう。ロートン氏は“EDMっぽいポップスを作っている”という マーケティング・マネージャーのヘンリック・アンダーソン・フォーゲル氏(左)とジョー・ロートン氏(右)。フォーゲル氏はマルチプレイヤーで、かつてレコーディング・スタジオを経営していたそう。ロートン氏は“EDMっぽいポップスを作っている”という

複数のモデリング技術を組み合わせて使用
音楽的なバックグラウンドを持つ“耳”で仕上げる

2003年創業のSOFTUBEは、現在14人のスタッフが勤務しているという。創業メンバーの4人は、ザ・ビートルズになぞらえて“ファブ・フォー”と呼ばれており、彼らが製品開発においてリーダーシップを発揮しているそうだ。マーケティング責任者、ヘンリック・アンダーソン・フォーゲル氏が詳しく説明してくれた。

「自社ブランドでの最初の製品はAmp Roomシリーズの3種です。私たちのモデリングはパーツ単位でのコンポーネント・モデリングを基本としていますが、電気的な回路だけでなく、スピーカーやキャビネット、マイキングまで再現したものです。“ファブ・フォー”の一人、ニクラス(オデルホルム:プロダクト・マネージャー)がアコースティック・モデリングの専門家で、インパルス・レスポンスだけでなく、彼が編み出した独自の手法も組み合わせています。また、私たちは“Rock'n Roll Scientists”を自認していますが、社員全員がミュージシャンやエンジニアとしてのバックグラウンドを持っています。ある程度プログラムができた段階で、自分たちや周辺のミュージシャン/エンジニアが試すと、“実機はもっとこうじゃない?”と意見が出てくるのです。そこを改善していくことで、より精度の高い製品を目指しています」

一つのノブ=一つの機能に限定したConsole 1
ホストとなるDAWのミキサー操作も対応予定

優れた技術力と“耳”を持つSOFTUBEは、隣国デンマークのTUBE-TECHのほか、ABBEY ROAD STUDIOS、TRIDENT AUDIO、VALLEY PEOPLE、DRAWMER、TONELUX、SUMMIT AUDIO、MUTRONICSなどのハードウェアを、これらのメーカーの公認を得てプラグイン化している。各社からは、ゴールデン・ユニットと呼ばれる状態の良いハードウェアの提供を受け、そして最終的なクオリティ・チェックも共同で行っているという。今回の発表でメインとなったConsole 1も、SSLから公認を得て、標準でSL4000G、オプションとしてXL9000KのチャンネルEQとダイナミクスを再現している。

「SSL SL4000GをConsole 1の標準チャンネル・ストリップとした理由は、SL4000Gがミックスにおけるスタンダードと言えるポピュラリティがあることがまず一つ。もう一つは、EQとダイナミクスに弊社のほかのプラグインを読み込む際に、基本的なパラメーターがすべてそろっている点でした」

Console 1はSOFTUBEにとって、初のハードウェア製品でもある。フォーゲル氏はこう付け加えた。

「筐体やプラスティック部品などはすべてスウェーデン国内で調達し、組み立ては自社で行ったこだわりのコントローラーです。やはりハード単体というよりも、ソフトとの統合に着目していただきたいですね。操作子は基本的に一つの機能しか持っていません。つまり、EQのHIGH-MIDバンドのゲインがほかの機能を持つことはないのです。それでいて、チャンネル単位はもちろん、EQとダイナミクスで異なるモデルを使うことができます」

Console 1用には、新たに1970年代のコンソールを再現するBritish Class Aが発表されたが、さらにDAWのミキサーそのものもコントロールするプランが進行中とのこと。まずはPRESONUSと協力し、同社のStudio Oneのフェーダーやセンドなども扱えるよう、開発が進められているという。

Console 1 用の新アドオン、British Class A(オープン・プライス:市場予想価格23,000円前後)。SOFTUBEは明言していないが、恐らくNEVEのモジュールをモデリングしたものと思われる Console 1 用の新アドオン、British Class A(オープン・プライス:市場予想価格23,000円前後)。SOFTUBEは明言していないが、恐らくNEVEのモジュールをモデリングしたものと思われる

電圧降下や内部CV信号までも完全に再現
Eurorack実機と組み合わせて使えるModular

これまでアウトボードやギター・アンプの再現を試みてきたSOFTUBEが、今年、新たに取り組んでいるのがEurorackモジュラー・シンセを再現したModularだ。DOEPFERの基本セットをモデリングするとともに、オプションでさまざまなモジュールを追加できるようになるという。「Modularを作った理由はいろいろありますが、創業者のオスカー(エベルグ:社長)がEurorackが大好きだというのも大きな理由です」とフォーゲル氏は笑う。

しかし、こうしたモジュラー・シンセといえば、ある種の偶発性に面白さがあるのも確かだ。ソフトウェアでそれが可能かと聞いてみると、このような答えが返ってきた。

「Modular内部のCVはEurorackのDC信号をエミュレートしていますから、DCカットができるCV対応のオーディオI/Oがあれば、Eurorackモジュールと接続することも可能です……といいますか、そうしたハードと一緒に使える前提で作っています。また、Modular内でモジュールをたくさん挿した際に電圧が低下して音が変わるところ、あるいは、実際のモジュールでVCAのボリュームを絞っても若干音漏れするようなところまで再現しています。接続に関しては、アウトプットは複数出せます。画面上の端子にインプットできるのは1つという仕様ですが、ミキサーなどを使えば複数の同時入力も可能です」

Eurorack規格のモジュラー・シンセを再現するModular(オープン・プライス:市場予想価格10,000円前後)。DOEPFER製の6つのモジュールと、シーケンサーやミキサーなど20種のユーティリティ・モジュールが基本セットになっている。DOEPFERやINTELLIJELの公認を受けた追加モジュールも発売予定(INTELLIJELの3モジュールは発売中)。また、SOFTUBEのバーチャル・リズム・マシン、Heartbeatのユーザーは、Heartbeatのドラム・シンセ&EQモジュールをModular内で使うことができる Eurorack規格のモジュラー・シンセを再現するModular(オープン・プライス:市場予想価格10,000円前後)。DOEPFER製の6つのモジュールと、シーケンサーやミキサーなど20種のユーティリティ・モジュールが基本セットになっている。DOEPFERやINTELLIJELの公認を受けた追加モジュールも発売予定(INTELLIJELの3モジュールは発売中)。また、SOFTUBEのバーチャル・リズム・マシン、Heartbeatのユーザーは、Heartbeatのドラム・シンセ&EQモジュールをModular内で使うことができる

このModularが、“実直にアウトボードをコピーしてきたメーカー”というSOFTUBEのイメージを、さらに発展させ、大きく更新していくのは間違いないだろう。

「現在は14人という少数精鋭で、ミキシング用のプラグイン、ギター関連製品、インストゥルメントを部門分けすることなく全員で担当していますが、今後はスタッフを増員し、各スタッフの関心に応じてセクションの担当分けをしていくことになると思います。とはいえ、社内でのコミュニケーションが大事なことは認識しています。たとえスタッフが増えても、さまざまなメーカーと協業してきた私たちは社外とのコミュニケーションを重視してきたのですから、社内のコミュニケーションを今後も大事にしていくことはできるでしょう」

最後にそう語ってくれたフォーゲル氏。確かな技術力を持つ同社が今後どういう方向に拡大していくのか、注目していきたい。

サウンド&レコーディング・マガジン2016年8月号より転載

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